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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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セルビア・ベオグラード動物園のハイブリッドの正体 ~ “Polar Bear/Kodiak Bear Hybrid”

セルビア・ベオグラード動物園のハイブリッドの正体 ~ “Polar Bear/Kodiak Bear Hybrid” _a0151913_617141.jpg
セルビア・ベオグラード動物園の「ハイブリッド」である雄のセーザ
Photo(C)Myseoulinsurance/yahoo

昨年暮れに「某国営放送局の某番組について ~ 決して姿を見せぬ "暗黒の闇" と "深い霧" に潜む "謎の顔"」 という投稿を行っています。 この某番組についてはこちらで見ることができますので御興味のある方はご覧になってみて下さい(いつまで見られるかはわかりません)。 ただし所詮はお笑い芸人が司会者である番組ですから知的レベルが一定の水準に達しない層が視聴者として想定されているわけで内容的には東アジア特有の、喧騒に満ちた品位に欠ける番組であることを十分お含みおき下さい。 問題はこの番組の(上でご紹介した映像の)開始後14分48秒以降の内容です。 ここではセルビアのベオグラード動物園で生まれたハイブリッドが中国の施設に行っているという内容が展開していきます。

さて、ここでどうしてもハッキリとさせておかねばならないことをいくつか書いておきます。 そうしませんとこの番組の内容がそのまま正確なものであると多くの方が思ってしまうからです。 実はふとしたことから、この番組のスタッフの方が当ブログを頻繁に訪問されていたのを私は知っておりましたし、何を調べていたかも全て承知しておりましたし私にコンタクトしようとした形跡のあることも知っていました。 そして11月初頭の連休にからめて実際にセルビアに取材に行かれたことも私は知っていました。 そういったことから考えて多分間違いなく番組になるだろうと私は予想していました。 私は実際にこの番組が放送される前に「正体」やら「正解」を書いて投稿しておこうかとも思ったことがありました。 しかし取材力には以前から定評のある天下の某国営放送局ですから果たして私の知らないところまでどれだけ取材して解明するか、お手並み拝見と思い「正体」やら「正解」は伏せたままにしておきました。 さて、いざ放送されてみますと案の定、やはり私が書いていないところにまで突っ込んだ形跡がほどんどないことがわかり、そうなると今度は多くの方々がこの番組で報じられた内容が「終着点」であると思ってしまうという危険性があるわけで、私としては何かをここで書いておくのは無駄ではないだろうというわけです。 また昨年、放送直後に一部の方が twitter なるメディア上でこの件について何か勘違いをされていらっしゃるような方もいたようですので、ここで真相を書いておくことが必要かもしれないとも思うわけです。
セルビア・ベオグラード動物園のハイブリッドの正体 ~ “Polar Bear/Kodiak Bear Hybrid” _a0151913_444242.png
ベオグラード動物園で誕生した「ハイブリッド」 のサーシャ (2010年)
Photo(C)I.M./Naslovna strana

さて、このセルビアのベオグラード動物園で何年にもわたって誕生し、そしてそのほとんどが中国に送られたハイブリッド個体ですが、そもそもあの番組ではホッキョクグマ以外の血の入った個体を「ハイブリッド」とだけ呼んでいましたが、これは実は非常に不正確な言い方です。 多分、本ブログが単に「ハイブリッド」と書いているのに影響されたのかもしれないと思います。 しかし私は「ホッキョクグマの雑種(Ursid hybrid)を考える(1) ~ ドイツ・オスナブリュック動物園のティプスとタプス」という投稿で、 「これから何回かにわたってホッキョクグマと他のクマ科との雑種(Ursid hybrid) の存在について考えていきたいと思います。 この雑種(Ursid hybrid) をこれから以降、便宜上単に『ハイブリッド』という名前で呼んでおくことにします。」 と書いて「ハイブリッド」という語の使用定義を行った上で単に「ハイブリッド」と書いているわけです。 こういう使用の定義無しにあの番組のように単に「ハイブリッド」とだけ表現するのは実は極めて不正確なのです。 正しくは「ホッキョクグマとXグマのハイブリッド」、つまり英語では “Polar Bear/X Bear Hybrid” という言い方をいちいちする必要があるのです。 Bの血の混じったAは "A/B Hybrid” (あるいは "A-B Hybrid") というのが正しい言い方です。
セルビア・ベオグラード動物園のハイブリッドの正体 ~ “Polar Bear/Kodiak Bear Hybrid” _a0151913_5455024.jpg
コディアック・ベア (Kodiak Bear - Ursus arctos middendorffi)

さて、あの番組ではベオグラード動物園の問題の個体については、ホッキョクグマ以外の血が何であるかについて単に「ヒグマ」とだけ述べていました。 つまりそれ以上を解明できなかったからでしょう。 ここで初めて正解を明かすことにします。 実は正解は「コディアック・ベア (Kodiak Bear - Ursus arctos middendorffi)」 なのです。 日本語では「アラスカ・グリズリー (Alaskan grizzly bear)」 と呼ぶ場合もあります。 ですからこのベオグラード動物園の「ハイブリッド」 、そして中国の動物園の 「ハイブリッド」 は正確には “Polar Bear/ Kodiak Bear Hybrid” もしくは “Polar Bear/Alaskan Grizzly Bear Hybrid” というのが「正体」であり、そして正しい言い方というわけです。 大きく言えば「ヒグマ(Brown Bear)」 の分類には入りますが、しかし今回のベオグラード動物園のハイブリッドを "Polar Bear/Brown Bear Hybrid" と呼ぶのは極めて不正確であり、そしてほとんど意味をなさないでしょう。 あの番組で登場したセルビアにおけるクマの専門家と称する方も、実はこの「ハイブリッド」のホッキョクグマ以外の血が何であるかについては単に 「ヒグマ」 という以上は知らなかった(or わからなかった)ようです。 実はそれほどまでに謎に包まれていたのがベオグラード動物園の「ハイブリッド」ということなのです。 ここでこのアラスカに住む「コディアック・ベア (Kodiak Bear) の生態を描いた映像を見てみましょう。 なかなか美しい映像となっています。 冒頭はCMです。



それからあの番組を見た方はベオグラード動物園自体がホッキョクグマと他種のクマを掛け合わせ、そして生まれた個体をどんどん中国に輸出したような印象を受けるかもしれませんが、それは事実ではありません。 そもそもベオグラード動物園はすでに「ハイブリッド」になっていた個体を1980年代終わりに某所から譲り受けただけであるというのが真相なのです。 雄はセーザ、雌はエリザベトという個体です。 そのベオグラード動物園が譲り受けたハイブリッド同士が同園で繁殖したにすぎないわけです。 ベオグラード動物園の「ハイブリッド」個体について、ホッキョクグマの以外の血が「コディアック・ベア (Kodiak Bear - Ursus arctos middendorffi)」、別名「アラスカ・グリズリー (Alaskan grizzly bear)」 の血であることが何故わかるのか、そしてベオグラード動物園がどこからこの「ハイブリッドのペア」を入手したのかについては、申し訳ありませんが証拠と共に貴重な情報を私に提供していただいた海外の方に配慮し、ここで明かすことはできません。 ただしこの問題の出発点である某所での、そもそもの原点である「ハイブリッド誕生」の真相は実に不気味なものであるように私には思えます。 私はかなり以前の「セルビア・ベオグラード動物園のホッキョクグマのハイブリッド個体(Ursid hybrid)は何故出現したのか?」 という投稿の中で、ベオグラード動物園にハイブリッドが出現した理由について「ユーゴ紛争」と「NATO軍のセルビア空爆」に原因を求めたわけでしたが、その私の推測は間違いであったというわけです。 それからその同じ投稿で私は2003年に撮影された写真を 「ホッキョクグマ」 として記述していますが、実はこれも 「ハイブリッド」が正解だということです。

それからセルビア語でホッキョクグマ (Ursus maritimus) のことを “Бели медвед” と言います。 同じスラヴ系のロシア語では “Белый медведь” です。 これはいずれも文字通りでは「白いクマ」を意味します。 しかし特にセルビア語では色の白がかったクマは全てこの “Бели медвед” を用いるようで語学的には単にホッキョクグマだけを指すわけではないのです。 ところがロシア語の “Белый медведь” は基本的にはホッキョクグマだけを指すわけです。 同じスラヴ系言語でも意味することが若干異なるわけです。 一方、英語でホッキョクグマは ”Polar Bear” です。 文字通り「極地のクマ」です。 ”Polar Bear” は日本語で 「ホッキョクグマ」 ですが 「しろくま」 という言い方もあります。 フランス語でもホッキョクグマのことを “Ours polaire (極地のクマ)” と “Ours blanc (白いクマ)” という、同じ位の頻度で用いる二つの言い方があるのですが何と Wikipedia では “Ours blanc(白いクマ)” のほうを代表のタイトルとして採用しているのは意外かもしれません。 ベオグラード動物園では例のハイブリッドはセルビア語では全て “Бели медвед” にあたります。 この “Бели медвед” を単に英語で "Polar Bear” とし、そしてそれを単に日本語で「ホッキョクグマ」とし、そして中国語で「北極熊」とするのならば、それは間違いなのです。 ベオグラード動物園はあくまで “Бели медвед” を売ろうとしたわけです。 セルビア語ではあの「ハイブリッド」も “Бели медвед” にあたるのです。 ですから "Polar Bear" ではない “Бели медвед” を売ろうとしたベオグラード動物園は詐欺を行っているとまでは言えないわけです。 問題は買う方の側です。 中国が実際にこの「ハイブリッド」を見てこれを買ってもよいと考えれば、それは買う側の自由です。 仮に中国の動物園が “Бели медвед” = 「北極熊」 だと考えてそういう名前で中国国内で展示していたとしたら、それは中国人の無知というものでしょう。 ベオグラード動物園が 「我々の売ったのはあくまで “Бели медвед” である。」 と主張する限りにおいてはベオグラード動物園が詐欺を行ったことは実証できません。 このあたりについてもう少しきめの細かい取材をしなければいけないわけですが、あの番組ではそれがなされていないようです。 マフィアの介在についても、少なくともベオグラード動物園の「ハイブリッド」売買に関与したかどうかは、あの元役人と称する怪しげな人物の証言だけでは何とも言えないように思います。 何故なら、マフィアが介在して「偽物」を売ろうとしたならば「本物」に近い金額で売ろうとするのは当然ですが、実際は二束三文とも言えるような極めて安価に売ろうとしたことを私は知っています。 ですから今回の件に関するマフィアの介在は考えすぎでしょう。  私がベオグラード動物園に限らずいろいろな場所で「暗黒の闇」とか「深い霧」という言い方をしているのは、実はあの程度のことではありません。 「暗黒の闇」や「深い霧」については具体的に記述することは影響が大きくて適切ではないと考えているにすぎません。 セルビアのマフィアなど小物なのです。  

さて、こういったことでセルビアから中国に渡った「ハイブリッド」は、一部は純粋なホッキョクグマとペアを組んだ形をとり、そして多くは「ハイブリッド」同士でさらにまた中国国内で繁殖しているというわけです。 ですからこうした「ハイブリッド」たちの多くは近親交配 (兄妹間、または姉弟間) の産物でもあるわけです。 何故ならこれらの「ハイブリッド」の出所は全てベオグラード動物園の「ハイブリッド」である雄のセーザと雌のエリザベトにあるからです。



中国・大連、老虎灘海洋公園・極地海洋動物館の「ハイブリッド」幼年個体
(2012年7月15日撮影)


それから番組の中で「ホッキョクグマが最近は食料を求めて南下し、その結果ヒグマとのハイブリッドが生じている」という内容の発言がありましたが、これは「近年の海氷面積減少によりホッキョクグマの集団レベルでの北極点方向への移動傾向が明らかになる」 という最近の投稿をご参照いただきたいのですが、実は「ホッキョクグマの南下」は単なる個体レベルでの話にすぎす、実際は集団レベルでは極点方向のより氷の安定した場所に少しずつ移動しつつあるというのが最新の研究結果です。 ホッキョクグマに関する研究はどんどん進んでいるにもかかわらず日本語ではほとんど紹介されていません。 「昨日の常識」が「今日の非常識」となる状況なのです。 特に近年の分子生物学の進歩は目覚ましいものがあるわけで、今までの「常識」がどんどん塗り替わっているわけです。 ですからそういった研究報告を瞬時にご紹介したいというのも私の願いです。 「世界のホッキョクグマ界」に取り残されたくはないというのが少なくとも私自身の意地であるわけです。

さて、自分で調べてそれをもとに番組を制作するのならばともかく、他人の調べたものをそっくり利用するというのでは、やはりどこかに無理が生じてくるということのわかる番組でした。 

(過去関連投稿)
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セルビア・ベオグラード動物園のホッキョクグマのハイブリッド個体(Ursid hybrid)は何故出現したのか?
某国営放送局の某番組について ~ 決して姿を見せぬ "暗黒の闇" と "深い霧" に潜む "謎の顔"
by polarbearmaniac | 2015-01-18 07:00 | Polarbearology

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