街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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中国の哈爾濱(ハルビン)極地館で暮らすベーリングとマリーギンの近況 ~ 「偉大なる母」の悲しき息子たち

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ベーリングとマリーギン Photo(C)新华网
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ウスラーダ (2014年5月4日撮影 於 サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)

2002年11月にロシア・サンクトペテルブルクのレニングラード動物園でウスラーダお母さんが産んだ三つ子については今まで何度かご紹介してきました。 セードフ司令官、ベーリング、マリーギン雄の三頭です。 先日も 「21世紀に入って飼育下で誕生した三つ子の赤ちゃんを映像で振り返る ~ 三つ子誕生・成育の確率は約4%」 という投稿で述べましたが、ロシアの生物学者であるイーゴリ・トゥマノフ氏の研究報告の結果では「最低でも一頭の赤ちゃんが成育した出産例が25回あれば、やっとそのうち一例が三つ子の例である。」 というほどの確率です。 これは十年間に世界の動物園で二回強の三つ子の出現といった確率だと言い換えてもいいでしょう。 この数字を逆から言いますと、つまり仮に二回としても10年間に50(25 × 2) 回の出産成功、つまり世界中で一年間に最低一頭の赤ちゃんの出産に成功する雌が世界に五頭いるということを意味し、それはまさに現実がそのような数字であるわけですから、このトゥマノフ氏の統計(「最低でも一頭の赤ちゃんが成育した出産例が25回あれば、やっとそのうち一例が三つ子の例である。」)は、ほぼ正しいということになります。
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レニングラード動物園でのセードフ司令官、ベーリング、マリーギンの三つ子 
Photo(C)Михаил Морозевич

今世紀に入ってからは飼育下でのこの三つ子は、2002年11月にロシア・サンクトペテルブルクでウスラーダが、そして2005年11月のオランダ・レネンでフギースが、そして2011年11月にモスクワのシモーナが産んでいます。 経験と力量のある母親でなければ三つ子の出産と成育には成功しないということです。 (確率から言えば来年2016年から2020年までの5年間の間に世界のどこかで、やはり一組の三つ子が誕生、成育するはずです。)
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昨年11月、ロシア・ゲレンジークのサファリパークでのセードフ司令官の誕生祝い Photo(C)Сафари-парк Геленджик

さて、この2002年11月にロシア・サンクトペテルブルクでウスラーダが産んだセードフ司令官、ベーリング、マリーギンの三つ子ですが、それぞれ数奇な運命を歩みつつあります。 セードフ司令官はシベリアのクラスノヤルスク動物園からスタールイ・オスコル市のスタロースコルィスク動物園、そしてゲレンジークのサファリパークへと移動し、現在はサーカス団でスケートの演技をしていたラパとペアを組んでいます。 ベーリングとマリーギンに関しては中国に移動した後に比較的最近までその居場所が不明だったのですが、現在では黒龍江省の哈爾濱 (ハルビン) 市の哈爾濱極地館で二頭そろって飼育されていることが判明しました。 この件については 「中国・黒龍江省、哈爾濱 (ハルビン) 極地館で暮らすベーリングとマリーギン ~ ついに所在が判明する」と言う投稿をご参照下さい。
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ベーリングとマリーギン Photo(C)新华网
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ウスラーダ (2014年9月16日撮影 於 サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)

ともかく中国という国にホッキョクグマが移動すると、その後を辿ることは極めて難しいことになります。 名前は当然変更になりますし、その施設は自分たちが飼育しているホッキョクグマをHPで紹介するなどということは稀ですし、あっても出自の記載はありません。 マスコミの取材があっても個体については事実とは異なる情報を平気で流すというケースが多いわけです。 さらにハイブリッドの存在というのも状況の把握を困難にさせるわけです。 ただしかし公営の動物園である北京動物園などは「自分たちは中国の他の動物園とは違うのだ」というプライドがあるためでしょうか、決してハイブリッドに手を出すことなどしませんしホッキョクグマを導入する際には血統面に考慮して「名の通った」動物園(たとえばモスクワやサンクトペテルブルク)から個体を導入しています。 中国に輸入された大型動物については大連と深圳に大手動物商の中継基地があるようです。 つまり、仕向地として書類上はこの大連と深圳という二つの都市の名前がよく登場するわけで、仮に「大連」という都市の名前が行先の情報として登場しても、この個体が大連のどこかの施設で飼育されているとは限らないということです。 このウスラーダお母さんの産んだ雄の三つ子のうちベーリングはフランクフルト経由で、マリーギンはモスクワ経由でとそれぞれ別々に大連に送られ、そして大連から最終的な目的地であった哈爾濱 (ハルビン) の極地館に送られて再び一緒になったということです。
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ベーリングとマリーギン Photo(C)凤凰网

哈爾濱 (ハルビン)極地館はこの二頭のパートナー探しのために「二頭は野生出身である」 という偽りの情報を発信してまで懸命に努力したようですが、結局のところ成功しなかったわけでした。 しかしこのベーリングとマリーギンの二頭(「堂吉」と「诃德」) はいたって元気なようです。 ウスラーダの産んだ三つ子のうちのこの二頭は12歳になってもこうしてまだ一緒に暮らしていることがよいことなのかどうかは難しいでしょう。 全体的に狭いにもかかわらず、それにしては比較的広いプールの存在は結果的には非常に狭い陸上部分を意味します。 少なくとも中国の施設としてはこの二頭はこれでもまだ比較的ましな場所で暮らしているというにしかすぎません。 しかし、そもそも中国に暮らしているということ自体がホッキョクグマにとっての不幸を意味していることは私の体験から言っても間違いのないところです。 中国においては来園者の喧騒と頻繁に光るカメラのフラッシュといったものが動物たちのストレスにならないと言ったら嘘になるでしょう。 ホッキョクグマが泳いでいさえすれば奇声を上げて単純に喜んでいる愚民の家族連れの来園者たちのマナーの悪さは如何ともし難いものがあります。
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ウスラーダ (2014年5月4日撮影 於 サンクトペテルブルク、レニングラード動物園)

2013年12月に生まれた雌のザバーヴァを加えると現在は16頭になったウスラーダの子供たちのうちドイツ、オランダ、デンマーク、フランスなどのいわゆる「西欧」に行った子供たちは一頭もいないというのは興味深い事実です。 実は2007年生まれのピョートル(ロッシー)とクラーシンの双子のうち一頭(クラーシン)が当初はドイツに行くという話もあったそうですが、それはすぐに立ち消えになってしまったというわけです。 「西欧」という地域にロシアからやってきたホッキョクグマはモスクワ動物園のムルマの血統が4頭 (私見では3頭) ということになります。 欧州域内での繁殖計画の進行によってウスラーダの血の入った個体で「西欧」に行ったのはニュルンベルク動物園のヴェラ(ウスラーダの孫でシモーナの娘) とベルリン動物公園のヴァロージャ(ウスラーダの孫、シモーナの息子)だけということになります。 (私見では同じベルリン動物公園のトーニャ も間違いなくそうです。)  「東欧」にまで目を向ければチェコ・ブルノ動物園のコーラ(ウスラーダの娘)がいるといにすぎません。 中国の動物園は歴史的にもロシアの動物園と非常に関係が深く、そこから個体を導入してきたわけで、それは最近になってからだけだというわけではありません。 そうしてウスラーダの子供たち、シモーナの子供たちの何頭かは現在もいったい中国のどこの動物園で暮らしているのかが不明という状態になっています。 あれだけ素晴らしい育児を行うロシアの偉大なる母親の子供たちの消息はまさに「霧の中」といった状態というわけです。
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ベーリングとマリーギン Photo(C)哈尔滨新闻网

(資料)
新华网黑龙江频道 (Jan.23 2015 - 北极熊称体重哈尔滨极地馆请你出主意)
凤凰网 (Jan.22 2015 - “堂吉诃德兄弟”要称体重 哈尔滨极地馆请你帮个忙)  (Jan.23 2015 - 极地馆为白鲸海狮体检 给北极熊称重总共要几步)

(過去関連投稿)
中国・黒龍江省、哈爾濱極地館のホッキョクグマたち ~ ブラックホールの内側の謎
中国・黒龍江省、哈爾濱極地館のホッキョクグマ、河徳の眼科治療
ロシア・シベリア中部のクラスノヤルスク動物園のセードフ司令官の10歳のお誕生会 ~ 行方不明の兄弟たち
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最近のロシアとオランダでの三つ子の出産例 ~ ウスラーダとフギースの健闘
21世紀に入って飼育下で誕生した三つ子の赤ちゃんを映像で振り返る ~ 三つ子誕生・成育の確率は約4%
by polarbearmaniac | 2015-01-23 23:45 | Polarbearology

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