街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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極地で死ぬかサーカスで生きるか? - "Смерть на полюсе или жизнь в цирке?"

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Photo(C)Цирк в Автово

先日、「ロシアのサーカス団の四頭のホッキョクグマたち、元気にサンクトペテルブルク公演へ」という投稿でロシア・サンクトペテルブルクのサーカス団での演技に出演する四頭のホッキョクグマたちについてご紹介し、そして同地で動物保護活動家グループが絶滅危惧種であるホッキョクグマをサーカスで演技させることを止めさせようという動きを見せ始めていることも述べました。 この四頭のホッキョクグマたち、モーチャ (Мотя)、ウムカ (Умка)、クノーパ (Кнопа)、ドーラ (Дора) は先月31日より実際にサンクトペテルブルクのサーカスに出演しているわけですが、やはり案の定、Вита(ヴィタ)という動物保護活動家グループが呼びかけによって複数の動物保護活動家グループが環境監視検察庁 (Природоохранная прокуратура)、自然管理局 (RPN - Федеральная служба по надзору в сфере природопользования)、及び環境委員会 (Комитет по природопользованию) に対して、ロシアのサーカス団体を統轄する組織であるロスゴスツィルク (Росгосцирк) の支部がこの四頭のホッキョクグマたちについての出自と合法的な流通を証明する書類を保持しているかのチェックを行うように声明を出しました。 さらに、一般への関心を高めるため7日の午後3時からサーカスのテントの入り口にピケを張ってこの四頭のホッキョクグマたちの入れられている檻の狭さや悲惨な飼育状況についても抗議の声を挙げることを呼びかけました。
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Photo(C)Цирк в Автово

この動物愛護活動家グループが根拠にしているのはロシア刑法の258条第一項226条第一項であり、前者は絶滅の恐れのある野生生物(動植物)のリスト、つまりRed List に記載されている動植物の違法な取扱いを禁じており、後者はこういった動植物の違法な持ち込みを禁じているわけです。 さて、インターファクス通信の報道によれば実際に昨日7日に会場にピケを張ったりホッキョクグマの縫いぐるみをまとって狭い金網に入ったりした動物保護活動家グループのメンバーたちですが、警察によって拘束されてしまったそうです。 警察によればその拘束の理由は、それぞれのピケの間隔は少なくとも50メートル離れていなければならない法律があるのにそれが守られていなかったということだそうです。 そういった動物保護活動家グループのメンバーたちの抗議行動を地元のTVニュースの映像でご覧ください。



さて、私はこういった世界中で行われている動物保護活動家グループの行動は全く支持しませんが、しかし今回の件についてВита(ヴィタ)という団体を中心に発せられた声明のうちこの四頭のホッキョクグマが本当に合法的にサーカスに連れてこられて演技させられているかについて関係所管当局に対して書類のチェックを行えと主張したことについては法にのっとった正攻法のやり方であり支持したいと思います。 このホッキョクグマたちの出自は野生孤児個体であることは間違いなく、そういった個体が極北地域で連邦政府の自然管理局 (RPN) の許可・承認なしに捕獲されていたであろうことは間違いないと思うからです。 ただしかし私の知る限り、こういった自然管理局 (RPN) が野生個体を国家資産として、その保護の全てに関与するシステムがロシアにおいて完成したのは2000年前後のことであり、この四頭のホッキョクグマたちの姿を見ると全てが10歳代後半から20歳に達した年齢であろうことを考えれば、こうしたシステムの完備以前に捕獲された野生孤児個体である可能性が高く、この四頭のホッキョクグマたちが必ずしも違法にサーカス団に連れてこられたとも断定できないようにも思うわけです。 この四頭のホッキョクグマたちの2月1日の演技を見てみましょう。 音と光はやはり彼女らにとってストレスでしょう。 とりあえず彼女らは元気でいるようです。





実はこれに先立つ2月5日付けのモスコフスキー・コムソモーレツ(Московский комсомолец) 紙の記事が今回のサーカスで演技するホッキョクグマたちについて素晴らしい記事を掲載しています。 その中でこのサーカス団で演技を行うホッキョクグマたちを率いている調教師のユリア・デニセンコ女史の夫であるユーリ・ホフロフ氏が、こうしたホッキョクグマたちをどう入手したかについて述べています。 ホフロフ氏によれば10日間かかってヘリコプターで極地の上空を飛び、そばに母親のいない幼年個体(つまり孤児)ばかりを見つけて捕獲したということだそうです。 こうして母親が密猟者に殺されてしまったり、あるいは場合によっては母親から見放されてしまった幼年個体ばかりを捕獲し、そして最初の何か月かをこの野生孤児個体と一緒に住居で過ごすことによっていくつかのことを教え込むそうです。 ホフロフ氏が語るには、野生孤児個体を保護・捕獲しなければそういった個体は母親無しに生き延びることはできず、彼らを待っているのは確実な死であるが、こうして捕獲してサーカスで演技させれば30年近く生きていることができるのだと言っています。 つまり、野生孤児で死ぬよりもサーカスで命を繋いでいる方が彼らにとっては幸福なのだということを言いたいわけでしょう。 「極地で死ぬかサーカスで生きるか?-"Смерть на полюсе или жизнь в цирке?" 」、どちらかしかないということを言いたいわけでしょう。 そうならば、サーカスの方がましである...確かにそういう考え方は一理あります。 しかし保護・捕獲した野生孤児のその後をサーカスという場所に限定している点で問題があります。 現在はこうした個体はロシアでは動物園で保護・飼育されるわけですが、そういったスペースには限界があるのが大きな問題です。

さて、こういったサーカスで演技するホッキョクグマたちが狭くて劣悪な場所に飼育されているのは大問題であることは当然ですが、では引退後に彼らにちゃんとした余生を送れる施設があるかといえばそうは言いにくいのが現実です。 以前にご紹介していますが、サーカスで長年スケートの演技をさせられてきたラパは絶滅の恐れのある野生生物に対してサーカスで演技することを禁じる提案が政府より出され、それによってラパはサーカスを引退した(させられた)わけですが、それはとりわけ彼女がスケートという演技をさせられていたためであって、他のホッキョクグマたちは引退させられたわけではありません。 このラパの現役時代のスケートの演技を再度ご紹介しておきます。



このラパはロシア西部の都市であるスタールイ・オスコル市にあるスタロースコルィスク動物園で余生を過ごすことになったわけですが、このスタロースコルィスク動物園のホッキョクグマの飼育展示施設はあまりに劣悪だったわけです。 そのためもあってかラパはひどくやせ細ってしまったわけでした。 彼女は運良くその後にゲレンジークのサファリパークというロシアとしては飼育環境の良い施設に移ることができたのですが、ずっとそこにいられるかは分からない状態です。 なにしろこのゲレンジークのサファリパークにも野生孤児個体が二頭、昨年後半に送られてきているからです。 この施設も今年以降はもう野生孤児個体を引き受けることはできないでしょう。

サーカスに留まって演技させられているホッキョクグマたちはまさに退路を断たれた状態だといってよいでしょう。 サーカスでの環境も劣悪、引退しても貧弱な施設に入れられてしまうわけで、どう転んでも彼らには厳しい生活以外のものはないということです。 私自身この問題をどう考えてよいかがわからない状態です。 とにかく野生孤児個体は発見し次第、ただちに保護するのは当然ですが、動物園のスペースの限界という問題に突き当たります。 となれば、ロシア近隣の国々の動物園もこういった個体に手を差し伸べて保護してやる必要があると思います。 ともかく施設と金が必要なのです。 サーカスで演技させられているホッキョクグマに対しては、サーカスを引退させても引退後の飼育環境も貧弱な場合が圧倒的に多いと言い続けていては問題の解決は前に進みませんし、だからと言ってサーカスで演技させ続けてよいかとなれば答えは「否」です。 やはり順番から言えば、とにかく彼らをサーカスから解放することをまず優先すべきである...現時点ではそのように私は考えています。 ともかくこのサーカスのホッキョクグマという問題は日本で暮らす我々には通常は意識に上ってこない存在であり、いざこういった報道に接してみると深く考えさせられる問題です。

(資料)
Вита (Feb.4 2015 - Зоозащитные организации настаивают на необходимости проверки документов на краснокнижных животных, эксплуатируемых в цирке в Автово)
Телекомпания НТВ (Feb.5 2015 - У защитников животных появились претензии к питерскому цирку-шапито)
Интерфакс-Россия (Feb.7 2015 - В Петербурге задержаны активисты, вышедшие на пикет в защиту цирковых животных)
Новости Петербурга News SPB (Feb.8 2015 - Зоозащитники провели акцию около Цирка в Автово)
Телеканал Санкт-Петербург (Feb.7 2015 - Зоозащитники провели акцию около Цирка в Автово)
Московский комсомолец (Feb.5 2015 - «Полярники» продались за печенюшки)
Питерец.ру новости Санкт-Петербурга (Jan.31 2015 - В Питере стартовал юбилейный сезон Государственного цирка России)

(過去関連投稿)
トスカ(クヌートの母)とサーカス団の悲しきホッキョクグマたち
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ロシアのサーカス団の四頭のホッキョクグマたち、元気にサンクトペテルブルク公演へ
by polarbearmaniac | 2015-02-08 21:00 | Polarbearology

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