街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・バッファロー動物園のカリーがセントルイス動物園に移動へ ~ 繁殖計画(SSP)主導者の主体性

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最近のカリー Photo(C)Sharon Cantillon/Buffalo News

アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園で2012年の11月27日に生まれ人工哺育で育てられた2歳の雌のルナ (Luna) と野生孤児で保護されアラスカ動物園から2013年5月にバッファロー動物園に移送されてきた同じく2歳の雄のカリー (Kali) の飼育をめぐる問題については一昨年多くの投稿を行いました。 アメリカの動物園におけるホッキョクグマの飼育に関連した多くの問題がこのルナとカリーの飼育をめぐってあぶり出されてきたわけで、以前から当ブログを御訪問いただいている方々には本件については記憶していただいていると思います。 私も本件を追いかける過程でアメリカの動物園におけるホッキョクグマの存在がどのような意味を持っているかについて大いに勉強をさせてもらいました。 ご興味のある方は過去関連投稿を御参照下さい。

バッファロー動物園のフェルナンデス園長はルナとカリーという二頭の幼年個体の存在を外部に大きくアピールして新ホッキョクグマ飼育展示場建設のための資金集めに最大限に利用したわけで、その強引さには、いささか眉をひそめたくなる点があったわけです。 アメリカにおいてホッキョクグマの野生孤児個体の所有権と保護権を持つのは連邦政府の魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service - FWS) です。 このFWSの当初の意向では雄のカリーについては2015年に大規模な新ホッキョクグマ飼育展示場が完成するセントルイス動物園に早々と移動させるというものだったわけですが、一昨年の秋にバッファロー動物園のフェルナンデス園長が人工哺育されたルナの「適応化(Socialization)」 を行うためにカリーを引き続きバッファロー動物園に留め置きたいという口実で、フェルナンデス園長は上院議員に依頼してまでカリーの引き留めを画策し、そしてそれに見事に成功したというわけです。
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カリー Photo(C)The Buffalo News

さて、セントルイスの地元から新しい情報が出てきました。 、報道の内容によりますと連邦政府の魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service - FWS) はセントルイス動物園がかねてから求めるカリーを、バッファロー動物園からセントルイス動物園へ移動させる申請についての最終的な査定段階にはいっており、セントルイス動物園はその結果を心待ちにしているというニュースです。 バッファロー動物園よりの発表によれば同園のフェルナンデス園長はカリーのセントルイス動物園への移動についてはすでに承諾しているようですが、一体どういう風の吹きまわしてカリーを自園からセントルイス動物園に移動させてもよいと考えるようになったかがよくわかりません。 雌のルナは昨年秋に飼育展示場での転落事故で負ったケガの治療中のため展示されていない状態が長く続いているわけですが、フェルナンデス園長はカリーをこのルナの将来のパートナーにしたいと考えていたわけであり、何故今頃になってそれを諦めたのかが問題です。 アメリカ動物園水族館協会 (The Association of Zoos and Aquariums – AZA) のホッキョクグマ繁殖計画 (Species Survival Plan - SSP) を担っている委員会がカリーのセントルイス動物園への移動について強く支持しているということで、そういった意向に逆らうことは得策ではないと考えたのかもしれません。 しかしそうなると今度はルナのパートナーをどうするのかという問題が出てきます。 また、セントルイス動物園にカリーが移動してもカリーのパートナーをどうするのかという課題が生じてくるわけです。 ともかく、今回のカリーの移動予定について報じるバッファローの地元TV局のニュース映像をご紹介しておきます。



しかし私が推察するに、つまりこれはFWS がカリーを当初は短期間の予定でバッファロー動物園に預けたにもかかわらずバッファロー動物園のフェルナンデス園長の強引なやり方によってカリーがルナの将来の繁殖上のパートナーとなるべく既成事実が積み上げられていくことに対して、AZAのホッキョクグマ繁殖計画を担っている委員会が頑強に異議を唱えたということだとみて間違いないでしょう。 アメリカ国内のホッキョクグマ繁殖のためのペアの形成の決定を行うのはあくまでAZA内部に存在している繁殖委員会であってバッファロー動物園ではないのだという筋を通そうとしたのが理由だと思われます。 日本でも似たことがありました。 日本の動物園におけるホッキョクグマの種別調整園の存在を無視して、表面上は男鹿と釧路の二園館が交渉した形を取ってはいたものの実質上は秋田県と釧路市という自治体の間で男鹿水族館の豪太のパートナーをクルミとするかツヨシとするかについて決めた(決めようとした)という件です。 あの時はホッキョクグマ繁殖検討委員会の初代の座長 (兼・種別調整者)のFさんは 「共同声明2011」 内部に男鹿水族館と釧路市動物園を封じ込め、秋田県と釧路市を underwriter とはさせなかったわけです。 国内においてホッキョクグマの繁殖計画の立案と遂行を行うのは自治体、もしくは自治体の意向を背景にした個別の動物園なのではなく JAZA 内のホッキョクグマ繁殖検討委員会なのだという姿勢を明確にしたわけです。 実に筋を通したやり方でした。 バッファロー動物園がカリーを長く引き留めることによってカリーがルナのパートナーとなるであろうことの既成事実を積み上げようとしたことに対して、ホッキョクグマ繁殖計画におけるペア形成を決定する主体はAZAのSSPを担う委員会であってバッファロー動物園という一園の思惑や再び登場する可能性のあった上院議員の圧力などではないことを明確にしたということがカリーのセントルイス動物園への移動計画の本質だろうということです。 このままカリーがバッファロー動物園に留まれば自然とカリーとルナは繁殖上でのペアとなるでしょう。 年齢も同じですし血統面でも全く問題はありません。 しかしカリーをセントルイス動物園に移動させれば今度はカリーがパートナーを得る確かな展望は全くありません。 バッファロー動物園に残ったルナとて同様です。 しかしこうしてこの二頭を別れさせてまでも、あくまでもアメリカにおける繁殖計画を策定、遂行させるのは自分たちなのだというAZA内の繁殖委員会の強い意志と主体性が示されているということです。 カリーとルナを繁殖上のペアとさせたいというバッファロー動物園単独の意向をそのまま、なし崩し的に実現させることは認めないということです。 なかなか筋が通っていると思います。

さて、近日中にアメリカの農務省 (United States Department of Agriculture - USDA)はセントルイス動物園で完成間近の新ホッキョクグマ飼育展示場の最終的な検査を行う予定だそうで、その検査に合格すれはカリーのセントルイス動物園への移動が正式発表される予定のようです。 ホッキョクグマが5頭も飼育できるセントルイス動物園の新しい施設 ("Polar Bear point") と同園のホッキョクグマ飼育についての強い意欲については 「アメリカ ・ セントルイス動物園のホッキョクグマの飼育再開への強い意欲 ~ 美しき双子姉妹の死を越えて」 という投稿を是非ご参照下さい。 カリーのセントルイス動物園への移動後にはルナの血統上の母親でシカゴのブルックフィールド動物園にBLで出張しているアナーナ(札幌のデナリの妹)がバッファロー動物園に帰還してくるそうです。

(資料)
Buffalo Zoo (Apr.14 2015 - Polar Bear Kali expected to move to Saint Louis Zoo)
STLtoday.com (Apr.14 2015 - St. Louis Zoo readies for Kali the polar bear)
The Baffalo News (Apr.14 2015 - Kali, the polar bear cub, is leaving Buffalo Zoo) (Apr.14 2015 - Kali, half of popular polar bear duo, to leave Buffalo for St. Louis Zoo)
WGRZ (Apr.14 2015 - Kali headed to St. Louis Zoo, Luna's mother coming to Buffalo)

(過去関連投稿)
(*以下、ルナ関連)
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ その姿が突然公開
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃんの追加映像 ~ ララの子供たちの従妹であるルナ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の人工哺育の赤ちゃんのルナが初めて戸外へ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナの近況を伝えるTVニュース映像
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナが雪の舞う戸外へ
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の赤ちゃん、ルナが遂に一般公開へ
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園の赤ちゃんの「ルナ」が仮称から正式の名前となることが決定
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園のルナの近況 ~ 人間の視線への意識と興味
(*以下、カリー関連)
アメリカ・アラスカ州の北西岸でホッキョクグマの孤児の赤ちゃんが保護!
アメリカ・アラスカ動物園で保護された野生孤児のカリーが今春に期限付きでバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーの一般公開が始まる
アメリカ・アラスカ動物園で保護されている野生孤児のカリーを間近で撮り続けている専属カメラマンの視点
アメリカ ・ アラスカ動物園で保護されている野生孤児の赤ちゃん、カリーの近況と今後について
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリー、来週後半に ニューヨーク州のバッファロー動物園へ
アメリカ・アラスカ動物園の野生孤児カリーがニューヨーク州のバッファロー動物園に無事到着
(*以下、バッファロー動物園、及びルナとカリー関連)
動物園による情報公開 ~ アメリカ・バッファロー動物園でのホッキョクグマ連続死亡事件
繁殖のために住み慣れた動物園を旅立ったホッキョクグマ ~ ヘンリー・ヴィラス動物園のナヌークへの期待
アメリカ・バッファロー動物園のホッキョクグマ新展示施設建設へ篤志家の多額な資金寄付
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園の苦悩 ~ ホッキョクグマ新施設建設の資金不足
アラスカで保護された野生孤児カリーをめぐるバッファロー動物園とセントルイス動物園との微妙な関係
アメリカ ・ ニューヨーク州、バッファロー動物園で遂にルナとカリーが初顔合わせ
アメリカ ・ バッファロー動物園でルナとカリーの正式な同居展示が開始 ~ カリーの今後について
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園でのルナとカリーの同居は順調に推移
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の新施設建設の不足資金を州政府が一部負担の意向示す
アメリカ・バッファロー動物園がルナの移動可能性に言及 ~ 報道されている状況は本当に事実なのか?
アメリカ・バッファロー動物園の新施設建設資金の露骨な寄付募集活動に眉をひそめる地元の財団・基金
アメリカ・ニューヨーク州のバッファロー動物園に凝縮した新施設建設の問題 ~ 主役は来園者か動物たちか?
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園のルナとカリーの近況 ~ 展示需要と個体数のアンバランス
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園の新施設建設に対し州議会が州予算よりの援助を承認
アメリカ・バッファロー動物園が野生孤児カリーの継続飼育を狙い、遂に上院議員にFWSへの説得を依頼
アメリカ・バッファロー動物園が遂に新施設建設資金の全額調達に成功 ~ 「悪しき前例」 の危険性
アメリカ・ニューヨーク州 バッファロー動物園のカリーの引き続きの同園での飼育が決定となる
アメリカ・ニューヨーク州バッファロー動物園でルナとカリーの一歳のお誕生会が開催される
アメリカ・バッファロー動物園の野生孤児カリーの成長記録写真集 ("Kali's Story") が発売へ
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園のルナとカリーの近況 ~ 新飼育展示場は2015年秋に完成
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園のルナが約4.3メートル下の堀に転落、救出後に精密検査へ
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園のルナの精密検査の結果が発表 ~ 左後脚二か所の骨折
アメリカ・ニューヨーク州、バッファロー動物園で堀に転落し骨折したルナの治療が長期化へ
アメリカ・ニューヨーク州バッファロー動物園が転落事故で骨折し長期療養中のルナの現在の様子を公開
by polarbearmaniac | 2015-04-14 23:30 | Polarbearology

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