街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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大阪・天王寺動物園のシルカの一般公開が開始 ~ 「園付き個体(Polar Bears in residence)」の意義

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Photo(C)あべの経済新聞

大阪・天王寺動物園に今年3月28日に入園したロシア・ノヴォシビルスク動物園で昨年12月11日に誕生した雌のシルカですが、8日の金曜日に一般にお披露目となりました。



さて、マスコミはこのシルカがゴーゴの新たなパートナーとなる旨の内容が報じられているわけですが、それについての私の考え方、いや正確には私の考え方ではなくて血統に関する事実(血統登録情報とそれに関する異説)についてはすでに投稿している通りです。 実はこの「シルカがゴーゴの新たなパートナーとなる」 という旨の内容は大阪市の当初の発表に述べられていたわけですから、報道は間違っているとは言えないわけです。 ところが同園の公式ブログを読み直してみますとこの「シルカがゴーゴの新たなパートナーとなる」という旨の内容の記述は確かに一箇所に見つかるものの、幾分含みのある表現であることに気付かされます。 「ゴーゴのお嫁さんとして仲間入りするイッちゃんですが、日本のホッキョクグマが1頭増えるという意味でもあります。」 と書いていらっしゃるわけです。 実は飼育員さんはこの後半部分、つまり「日本のホッキョクグマが1頭増える」ということがより重要なことだと考えているようなニュアンスも感じ取れなくもないわけです。
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Photo(C)あべの経済新聞

実はこのシルカの血統問題、そしてシルカとゴーゴのペアの血統関係についてどれだけの方が今回の件で意識されているのかは私には全くわかりません。 しかしこれは 同じ血族の間で、さらに世代をまたいだペアを作って繁殖させるという、いわゆる "Line breeding" というものが次世代に残す危険性の大きさについて意見の違いがある問題だという手前の段階で、客観的事実は何なのかという問題がまず存在しているわけです。 それを考えねばなりません。 そのためには下でリンクさせた三つの過去関連投稿を再度ご参照頂きたく思います。

シルカの母親であるゲルダはモスクワのシモーナの娘であるというのが血統登録情報です。 そしてシルカの父親であるクラーシン(カイ)はシモーナの弟です。 シモーナもクラーシン(カイ)もアンデルマの孫であるわけですが、一方でゴーゴはアンデルマの息子です。 私はこういった血統登録情報の事実を述べた上で、実はゲルダの母親はシモーナではなくムルマであるという論を展開しながら血統登録情報を崩そうと格闘しているわけです。 実はこの件についてシモーナの母親であるウスラーダを飼育しているレニングラード動物園の主任の方がクラーシン(カイ)とゲルダとの組み合わせでの繁殖について「自然界ならありえる」という内容の発言をしているわけですが、しかしこれは自然界での偶然の可能性を理由にして、繁殖について血統の管理がなされているはずの飼育下においてもそれは容認しうるのだということの理由には成り得ないわけです。 私は今回の件でゴーゴとシルカとの組み合わせでの繁殖についての危惧を感じていらっしゃる方がまるで存在していないようにさえ感じる現在の「お祝いムード」一色の流れには、やはり竿を一本差し込んでおくべきだろうと考えるわけです。 日本における飼育下のホッキョクグマの血統の多様性を可能な限り維持し、そして彼らの日本における末長い繁栄を願うならば「お祝いムード」に簡単に同調するわけにはいかないということです。

そもそもバフィンがゴーゴのパートナーとなるべく大阪に移動してきたのは「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」の繁殖計画によってなのです。 そのバフィンが見事に出産・育児に成功し、そして浜松に帰還するのは一義的には契約の終了、実質的には繁殖計画の成功による目的達成、そして彼女の年齢的な問題によってというわけです。 ですから、ゴーゴの次のパートナーをどの個体にするかも繁殖計画によって決めねばならないわけです。 ホッキョクグマの繁殖計画によって新しいペアの形成を決めるのは一企業でもなく一自治体の首長でもないわけです。 あの上野動物園はデアのパートナーについて数年前からイコロの入手を強く希望し、そしてイコロの所有権を札幌市から譲り受けて「園付き個体 (“Polar Bears in residence”)」 としようとしていたものの、その上野動物園ですらホッキョクグマの繁殖についてすでに世界的傾向である「繁殖計画」の一環としての個体移動、つまりイコロの借り受けという方向性を受容したのは当然だと言えましょう。 ところが大阪では「繁殖計画」の外側でゴーゴの次のパートナーが「園付き個体 (“Polar Bears in residence”)」として、しかも外部が関与した形で決められたというのは世界のホッキョクグマについての繁殖のペア形成の方法論の流れに逆行した出来事だと言えましょう。

シルカの来日はまさに、いみじくも天王寺動物園の飼育員さんがブログ投稿の後半で述べていた「日本のホッキョクグマが1頭増える」という、まさにそのことが意義であり、そしてまさにそれに尽きるということです。 そしてそういった意味において私はシルカを大歓迎したいと思います。

(資料)
毎日放送 (May.8 2015 - ホッキョクグマ「ゴーゴ」の新パートナー ~大阪・天王寺動物園
大阪市 (Mar.19 2015 - ホッキョクグマの「イッちゃん」が仲間入りします!
天王寺動物園 スタッフブログ (Mar.20 2015 - ホッキョクグマ近況報告)

(過去関連投稿)
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカが大阪・天王寺動物園へ! ~ 「ロシア血統の闇」の深淵を覗く
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカ (Шилка Красиновна) の偉大で華麗な血族たち
「ロシア血統の謎」に迫る(1) ~ ラスプーチン、ゲルダ、血統番号2893個体の三頭の謎を追う
by polarbearmaniac | 2015-05-08 23:55 | Polarbearology

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