街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「ロシア血統の謎」に迫る(4) ~ 横浜・ズーラシアのジャンブイの誕生・血統の真相を探る

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ジャンブイ (2014年8月24日撮影 於 横浜・ズーラシア)
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故ウムカ(ウンタイ) (2011年9月1日撮影 於 モスクワ動物園)

以前、横浜・ズーラシアの訪問記の中で二回にわたって同園で飼育されている雄のジャンブイとモスクワ動物園で飼育されていた故ウムカ(ウンタイ)は実は野生孤児の双子兄弟ではないかという可能性を指摘し、そしてそれについて考えてみました。本投稿の前にその二回の投稿である「ジャンブイの素顔 ~ 彼の出自の謎を追う」、及び「夏の日曜日の昼下がりのジャンブイ、再び彼の出自の謎を考える ~ 彼は果たして豪太の伯父なのか?」を必ずまず最初にご参照頂いただくことをお願いせねばなりません。 今回の投稿は全てこの二つの投稿の内容を踏まえて展開するからです。 仮にズーラシアのジャンブイがモスクワの故ウムカ(ウンタイ)と双子の兄弟であれば、故ウムカ(ウンタイ)の息子である男鹿水族館の豪太はジャンブイの甥(おい)ということになり、また大阪・天王寺動物園のシルカは私の説によればジャンブイの姪(めい)ということになるわけです。 こうなると大阪のシルカと釧路のミルクは従妹同士ということになり、そしてジャンブイはシルカの母親であるゲルダの叔父ということになるわけです。何故ならシルカの母親であるゲルダは故ウムカ(ウンタイ)の娘であるというのが私の説であり、そしてミルクの父親である豪太もまた故ウムカ(ウンタイ)の息子だからです。 (*注意 - 血統登録情報によればシルカの母親であるゲルダの母親はシモーナ、父親はウランゲリとなっていることは言うまでもありません。)
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「野生出身個体の雄(雌)は、どの雌(雄)の個体ともパートナーを組める」 というのは原則であるわけですが、実は野生出身個体の出自を追及しなければならない稀なケースもあるわけです。 このジャンブイの場合もそういったケースの一つなのかもしれません。 さて、ここでジャンブイの出自に関してズーラシアが公にしている情報は全て「ジャンブイの素顔 ~ 彼の出自の謎を追う」 の投稿で写真でご紹介した通りですのでご確認下さい。 この情報に私が持っているモスクワ動物園(含ヴォロコラムスク付属保護施設)への移動データを加えると以下のようになります。

・1992年X月X日生まれ 
 (野生捕獲のため詳細不明)
・1993年(月日不明)から1999年9月 
 ノヴォシビルスク動物園で飼育
・1999年9月から12月 
 モスクワ動物園(ヴォロコラムスク付属保護施設)で飼育
・1999年12月25日 
 横浜・ズーラシア来園

さて、現在このジャンブイは1992年生まれということがズーラシアの発表している公式的な生年として我々に広く知られているのですが、ノヴォシビルスク動物園がこのジャンブイの保護記録を新たに血統情報に追加した模様で、それによるとジャンブイの保護(捕獲)は1992年11月のことであったことが明らかにされたわけです。 それを下にご紹介しておきます。彼のモスクワへの移動とモスクワでの短期飼育は血統情報には含まれていません。
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さて、ということは、その保護の時にはジャンブイは一歳になったかならないかの幼年個体であったはずです。 何故なら11月という月はホッキョクグマの母親は巣穴から一切外に出ずに巣穴の中で赤ちゃんへの授乳を行っている時期だからです。 こういった時期に人間が赤ちゃんを保護すればそれは人工哺育以外にはないわけですが、そもそも巣穴から出てこないそういった個体を人間が保護することなどないからです。 つまりジャンブイが保護(捕獲)されたのは彼が一歳になったかならないかの幼年個体としてであることは疑いようがありません。 となればジャンブイの誕生年はズーラシアの公表している1992年ではなく実は1991年(10~12月)であることは間違いないことを意味します。さて、そうなるとモスクワ動物園の故ウムカ(ウンタイ)の生年である1991年にやはりジャンブイも誕生したことになり、以前の投稿で指摘しました「ジャンブイ/故ウムカ(ウンタイ)の双子兄弟説」の成立にとっての最大の障害となって立ちはだかっていたジャンブイと故ウムカ(ウンタイ)の公表された生年の一年の違いは、これで完璧に説明がついたことになります。 「ジャンブイは1991年生まれである」、これが真相なのです。
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故ウムカ(ウンタイ) (2011年9月1日撮影 於 モスクワ動物園)

さて、次はモスクワ動物園の故ウムカ(ウンタイ)です。 彼についてモスクワ動物園が明らかにしている公式の生年は1991年です。 それを以前もご紹介した国際会議でモスクワ動物園が発表した記録である "Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo - History of Polar Bears at the Moscow Zoo" の記載の一部でご覧いただきましょう。 クリックすると拡大します。
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しかし故ウムカ(ウンタイ)の誕生年を血統登録情報によって1992年であるという理解もあるようです。 この故ウムカ(ウンタイ)の血統情報を下に挙げておきます。
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この故ウムカ(ウンタイ)も野生孤児として保護され、そして1993年10月6日からノヴォシビルスク動物園で飼育され、その後にモスクワ動物園に移動したわけですが、そのあたりの事情については「モスクワ動物園のムルマ(4) ~ 危機の克服、そして豪太の誕生」 という投稿をご参照下さい。

ここで先に挙げたジャンブイの記録を見て下さい。 彼も1993年(月日不明)から野生孤児としてノヴォシビルスク動物園で飼育されていたわけです。 こうなると、このジャンブイと故ウムカ(ウンタイ)は実は野生孤児の双子兄弟であったことの可能性がさらに大きくなったことを意味しています。 そしてなんと血統番号は故ウムカが#1618、そしてジャンブイが#1619と連番となっているわけで、明らかにノヴォシビルスク動物園はこの二頭の血統登録を同時に行ったことも示唆しています。 つまりこれはこの二頭は共に野生の双子兄弟である強い可能性があることを示しています。 この二頭の外見は非常に良く似ていることは私が故ウムカ(ウンタイ)の写真をお見せしたズーラシアの飼育員さんも認めているわけで、DNA鑑定などという最強のデータを得られない状況では、外見の非常な類似点は一次情報としては有力だろうと思うからです。 さらにもう一つの裏付けがあれば「ジャンブイ/故ウムカ(ウンタイ)の双子兄弟説」は間違いなく成立しそうです。 問題はモスクワ動物園の故ウムカ(ウンタイ)が何年何月何日に保護(捕獲)されたかのもっと詳細な情報が欲しいところです。 しかしここまでの本件に関する探究で言えることは「ジャンブイ/故ウムカ(ウンタイ)の双子兄弟説」は成立の可能性が極めて濃厚であるということが言えたわけです。

さて、ところが私の説である「ジャンブイ/故ウムカ(ウンタイ)の双子兄弟説」を打ち砕くデータを私はモスクワ動物園の別の資料のなかに発見しました。 これはモスクワ動物園の年次飼育報告書の2006年版のなかに、あのモスクワ動物園のホッキョクグマの飼育責任者のエゴロフ氏が提示している同園で飼育していた個体のbioに関するデータです。 下はクリックすると拡大します。
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上で見る血統番号#1618の故ウムカ(ウンタイ)のデータでは、故ウムカ(ウンタイ)が保護(捕獲)されたのは1992年1月2日であったことが明らかにされているわけです。 となると、先にノヴォシビルスク動物園が明らかにしたジャンブイの保護(捕獲)データである1992年11月とは大きく異なる日付であることを意味しています。 野生の双子兄弟ならば二頭一緒に保護(捕獲)されるのは当然ですが、ジャンブイと故ウムカ(ウンタイ)の保護(捕獲)日は大きく違っているということは、つまりこの二頭は双子ではないことを示していることになります。 ということは、ジャンブイは豪太ともシルカとも血縁関係はないということになります。 それから、1992年1月2日という保護(捕獲)日から考えると、生後3か月未満で母親が空腹となって赤ちゃんを巣穴において何か食べ物を探しに行こうとしたところを密猟者に撃たれてしまったということを意味しています。 つまり故ウムカ(ウンタイ)の誕生したのは1991年10月初旬~中旬だったという強い推定が成り立つわけです。 保護した時の体の大きさでその個体が生後三か月程度なのか一歳前後なのかは一目瞭然であり、モスクワ動物園は当時ノヴォシビルスク動物園から故ウムカ(ウンタイ)の保護記録を入手していてそれを反映した記述を行っているとみて間違いないでしょう。 ですから故ウムカ(ウンタイ)が1991年生まれではなく1990年生まれであり一歳前後で保護されたのだという確率は極めて低いことになり、となれば故ウムカ(ウンタイ)の誕生年は1991年からは動かないということを意味します。

ということで現時点で言えることは、私の考える「横浜・ズーラシアのジャンブイとモスクワ動物園の故ウムカ(ウンタイ)の双子兄弟説」は成立しないだろうということです。 ただし、ズーラシアのジャンブイの生年は同園の公表している1992年ではなく実は1991年が正しいということが少なくと本件の考察で明らかになったということであり、これに関する限りでは本考察も意味があったということにもなるでしょう。

(*追記 - ただし私はこの「横浜・ズーラシアのジャンブイとモスクワ動物園の故ウムカ(ウンタイ)の双子兄弟説」は完全に100%崩壊したとまでは思っていません。 というのは上のモスクワ動物園のデータで故ウムカ(ウンタイ)が保護(捕獲)されたのは1992年1月2日であるという日付をダミーだと考えることは全く不可能ではないからです。何故ならムルマとウランゲリの保護(捕獲)日は1991年1月1日という年初の日付になっていますが、これはダミーである可能性があり、そうなると故ウムカ(ウンタイ)の保護(捕獲)されたのは1992年1月2日であるという日付もダミーだろうと考えられなくもないわけです。 しかしダミーだと完全に言い切れる根拠はないわけで憶測の域を出ないということです。 ともかく、血統登録情報などに関する critical studies としてはダミー説は採用しにくいということです。)

(*追記2 - ホッキョクグマの誕生月は現在の飼育下では11月下旬~12月上旬が圧倒的に多く、実はこれは以前は11月誕生が主流だったものの現在では少しずつ12月にシフトしてきた結果からのようです。そして少ないながらも1月誕生というケースもあるというのが傾向です。 一方、野生の場合ですと11月誕生が圧倒的主流であるらしく、そして10月誕生という場合も結構あるようです。 しかし年を越しての1月誕生というケースは野性下では、ほぼないそうです。 これは自然下においてホッキョクグマの赤ちゃんが母親とともに外界に登場してから間もない時期の写真や映像から体の大きさや行動を観察し、そしてそこから逆算して赤ちゃんの具体的な誕生時期を推定するという研究から得られた結論のようです。 このようにしてつまり、飼育下と野生下では誕生のピークの時期には約20日間ほどの差があるということとなるわけです。 飼育下のほうが遅いというわけですね。 ですからジャンブイの1992年1月の誕生の可能性はまずなく、彼は間違いなく1991年の10月から12月の間に誕生しているということになるわけです。)

(資料)
Polar Bear Husbandry at the Moscow Zoo - History of Polar Bears at the Moscow Zoo (by I. V. Yegorov, Y. S. Davydov, Moscow Zoo, Russia)
МОСКОВСКИЙ ГОСУДАРСТВЕННЫЙ ЗООЛОГИЧЕСКИЙ ПАРК (ХИЩНЫЕ И МОРСКИЕМЛЕКОПИТАЮЩИЕ В ИСКУССТВЕННОЙ СРЕДЕ ОБИТАНИЯ - 2006)

(過去関連投稿)
ジャンブイの素顔 ~ 彼の出自の謎を追う
夏の日曜日の昼下がりのジャンブイ、再び彼の出自の謎を考える ~ 彼は果たして豪太の伯父なのか?
モスクワ動物園のムルマ(4) ~ 危機の克服、そして豪太の誕生
ウムカ (男鹿水族館・豪太の父)、悠々の水遊び
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカが大阪・天王寺動物園へ! ~ 「ロシア血統の闇」の深淵を覗く
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカ (Шилка Красиновна) の偉大で華麗な血族たち
「ロシア血統の謎」に迫る(1) ~ ラスプーチン、ゲルダ、血統番号2893個体の三頭の謎を追う
「ロシア血統の謎」に迫る(2) ~ 日本ホッキョクグマ界最大の謎「イワンとホクトすり替り説」に挑む (前)
「ロシア血統の謎」に迫る(3) ~ 日本ホッキョクグマ界最大の謎「イワンとホクトすり替り説」に挑む (後)
by polarbearmaniac | 2015-05-15 23:55 | Polarbearology

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