街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・カンザスシティ動物園のニキータがノースカロライナ動物園へ ~ 超人気者に移動を迫った繁殖計画

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ニキータ Photo(C)Kansas City Zoo

なかなか考えさせられるニュースが入ってきています。古くて新しいテーマとでもいいましょうか、しかし最近は下火となっていた話です。 アメリカ・ミズーリ州のカンザスシティ動物園で飼育されている8歳の雄のニキータがこのたびAZAの繁殖計画 (SSP - Species Survival Plan) によってノースカロライナ州アッシュボロのノースカロライナ動物園に移動することが決まったというニュースです。 一見何の変哲もないホッキョクグマの移動の話ですが、やはり我々に突き付けられた課題として捉えると実に考えさせられる話です。

(*追記 - 地元のニュースをご紹介しておきます。)




この8歳の雄のニキータは地元で非常に人気のあるホッキョクグマでカンザスシティ動物園のスターでもあるわけですがここのところ二年ほどは繁殖可能年齢の上限にある雌のバーリンとの間で、結果は出せなかったものの繁殖に挑戦していたわけです。 このカンザスシティというのは何か独特の風土がある街のようでニキータをめぐるニュースについては非常に大袈裟な報道がなされていたわけですが、それはやはり地元のファンのニキータへの格別の愛着といったものが背景の一つにあることには間違いありません。 私の見たところ全米の動物園のホッキョクグマでこのニキータほど地元に密着している個体は無いような気がしています。 ニキータに会うために動物園に行くと語る人もいるほどです。 ところが今回アメリカのAZA (Association of Zoos and Aquariums - アメリカ動物園・水族館協会) でホッキョクグマの繁殖計画 (SSP - Species Survival Plan) を主導するコーディネーターであるトレド動物園のランディ・メイヤーソン博士はこのニキータをノースカロライナ動物園に移動させて、シカゴのリンカーンパーク動物園から移動してきた15歳の雌のアナーナとの間で繁殖を担わせようという計画を決定したわけです。 さて、この計画を知ったカンザスシティ動物園は非常に驚いたに違いありません。 しかし同園の最高責任者(CEO)であるランディ・ウィトホフ園長は結局はこのSSPのコーディネーターによる勧告を受け入れニキータをノースカロライナ動物園に移動させる旨を公式発表したというわけです。 しかしどうも内心は完全には納得していない印象を受けます。 それも当然かもしれません。 ニキータが他園に移動することをカンザスシティの地元ファンが快く納得してくれるかどうかも大きな問題だからです。
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ニキータ Photo(C)Kansas City Zoo

ウィトホフ園長がこの勧告を受け入れた大きな理由は「希少種の保存」という動物園本来の使命を果たすためというのは勿論ですが、別な背景を考えますとこのニキータはトレド動物園の生まれでSSP のコーディネーターであるメイヤーソン博士も同じトレド動物園に属しているわけで、カンザスシティ動物園はこのニキータの権利(所有権)をトレド動物園から得ていないためにニキータの移動勧告に強く抵抗できないといった事情があるからのようにも思います。 しかし実際にはカンザスシティ動物園でここ2年ほどニキータとの間で繁殖を担ってきたバーリンはもう25歳であり過去に出産の経験もないことから繁殖の舞台からは引退が確実であることからニキータのパートナーをどうするかと言えばやはりノースカロライナ動物園の15歳のアナーナというのは妥当な話でしょう。
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ニキータ Photo(C)Kansas City Zoo

しかし案の定、カンザスシティ動物園のSNSのサイトには今回のニキータの移動について地元のファンからは失望と不満の声があがっています。 それらはこの繁殖計画(SSP) への理解が不十分な意見が大半であるものの、ニキータという特定の個体への愛着と彼が去ることへの悲しさといった率直な気持ちからでしょう。しかし、「ニキータではなくバーリンを他園に移動してしまえ」といった主張には、ニキータという特定の個体を過度にスターにしてしまった憂うべき状況を感じざるを得ません。 アメリカの動物園でのホッキョクグマの繁殖は意外にうまくいっておらず、このブログを開設してからではバッファロー動物園でのルナの人工哺育は別にしてトレド動物園での例だけです。今回メイヤーソン博士が思い切って打ち出したこのニキータというスターホッキョクグマの移動はそういった停滞しているように見えるアメリカのホッキョクグマ界の活性化には大きな効果となる可能性があるでしょう。 雌の個体のスターというのはさほど問題にならないものの、雄の個体のスターというのはどこでも扱いが難しくなりがちであるということのようです。

ニキータの移動は今年の年末が予定されているそうです。

(資料)
Kansas City Zoo (Press Room/Jun.24 2015 - Furthering the Zoo’s Conservation Mission)
Kansas City Star (Jun. 24 2015 - Kansas City Zoo is losing its male polar bear, Nikita)
KSHB (Jun.24 2015 - Kansas City Zoo to say goodbye to polar bear Nikita; Zoo announces koalas as 2016 feature animal)
KCTV (Jun.25 2015 - Zoo says polar bear Nikita will be leaving, koalas will be 2016 feature animal)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2015-06-25 15:30 | Polarbearology

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