街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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サーカス団のホッキョクグマ、ダーニャは何処に消えた? ~ サーカス団と巡回動物園とを結ぶ暗黒

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巡回動物園「モスクワ・サファリ園 (Московский передвижной зоопарк "Сафари")」のホッキョクグマ
Image:AhtubaTV

一口に飼育下のホッキョクグマといっても実は我々にはよくわからない非常に特殊な世界があるわけです。 それはいずれもロシア国内の話であり、サーカスのホッキョクグマと、そして巡回動物園で飼育されているホッキョクグマという二つの世界です。 サーカスのホッキョウグマについてはロシアでも非常に少なくなり現在でも定期的に公演を行っているのはユリア・デニセンコ女史とその夫であるユーリ・ホフロフ氏が率いている四頭のホッキョクグマたちだけであり、この四頭について私は以前からその姿を追い続け、そして彼らの近況については何度も投稿してきた通りです。



しかし後者である巡回動物園におけるホッキョクグマについては「深い闇」に覆われていて、その全体像と実態は容易に解明できません。

まずこの巡回動物園 (Передвижной зоопарк) というものについて説明しておかねばならないのですが、この “Передвижной зоопарк” というのを語学的にそのままで言えば「移動動物園」というわけですし、本来はそういう訳語を当てたほうがよいかもしれませんが、しかしこの “Передвижной зоопарк” は、いくつかの場所に移動しつつ、また戻ってくるといった性格から考えて「巡回動物園」という訳語のほうが適切だと考え、今回は「巡回動物園」という言い方をすることにします。 この巡回動物園というのはもちろん公営の動物園ではありません。 個人の経営者が動物たちを狭い檻に入れてキャラバンのようにして地方を回ってその地方の人々に動物たちを見せるわけで、いわゆる「私設動物園」であるわけです。 以前に「ロシア・モスクワ郊外の私設動物園の悲惨な現実」という投稿を行っていますのでまずそれをご参照下さい。 さらに以下でもその様子を報じるニュースがありますのでこの「私設動物園」の様子がわかります。





さて、実は5年ほど前までロシア・サンクトペテルブルクのレニングラード動物園(あのウスラーダとメンシコフが飼育されている動物園です)には二頭のホッキョクグマが狭い檻に入れられて暮らしていたわけですが、この二頭はサーカスの演技の訓練に不適格とされてロシアのサーカス団体を統轄する組織であるロスゴスツィルク (Росгосцирк) がレニングラード動物園に二頭の預託を行い2005年から2010年までこの二頭は同園で暮らしていました。 この二頭の名前はダーニャ (Даня)とイョシ (Еши/Ёши)といい、いずれも2001年生まれの野生孤児個体だったのでした。 まずレニングラード動物園でのダーニャの姿をご覧いただきましょう。



続いては同園でのイョシの姿です。



さて、レニングラード動物園はロシア国内にこの二頭を飼育してくれる動物園を探していたわけですがなかなか見つからなかったようです。 ハッキリ言えばレニングラード動物園にとってダーニャとイョシの存在は非常に大きな負担だっただろうと思います。 預託契約期間が先に切れたダーニャは2010年2月にロシアのサーカス団体を統轄する組織であるロスゴスツィルク (Росгосцирк) の側に送り返されることとなったわけでした。 それはまさにレニングラード動物園がダーニャを「切り捨て処分」にしたこと同じことを意味していたわけです。 もう一頭のイョシについてはロストフ(ナ・ドヌ)動物園が引き取りを申し出てきたため、イョシは2010年12月にロストフ動物園に輸送され、現在でも元気に暮らしています。(このイョシについては過去関連投稿をご参照下さい。)  私はこのイョシに2010年の春にレニングラード動物園で会ったことがありますが、まさに上の動画のような狭い場所で窮屈そうにしていた姿を思い出します。 その時にはもうダーニャはレニングラード動物園を去った後でしたので私はダーニャには会っていません。
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レニングラード動物園時代のダーニャ 
Photo(C)unknown

さて、ここで問題なのは2010年2月にレニングラード動物園からロスゴスツィルク (Росгосцирк) に送り返されてしまったダーニャがその後どうなったかです。 私はダーニャのその後を追いかけてみたわけですが二つの異なる矛盾した情報にぶつかってしまい、いったいどちらが真実なのかについての結論が出せない状態です。 まず一つの情報は、以前私が投稿した「ロシアの氷上サーカスのホッキョクグマ ~ 現役で活躍するラパ、そして引退したホッキョクグマたちの余生」をご覧いただきたいのですが、実は2011年7月にロシアのサーカス団から中国に売られた5頭のホッキョクグマたちの名前の中にダーニャが含まれており、ここで言う「ダーニャ」がレニングラード動物園で飼育されていた「ダーニャ」と同じ個体であるという考え方です。 もう一つの情報ですが、ロシアのある事情通の方の証言なのですが、ダーニャは2013年に「巡回動物園」に送られたという情報です。 いったいどちらが正しいのか私には判断がつきません。仮に後者が正しいとすればいったいターニャは現在どこにどうしているのかが問題です。

ところがロシアには自分たちは「私設動物園」ではなく「公営動物園」であると称する「巡回動物園」があるというのですから話はややこしくなります。 実はこれがまさに 「モスクワ・サファリ園 (Московский передвижной зоопарк "Сафари")」と称する巡回動物園で、実態としてはロスゴスツィルク (Росгосцирк) が経営しているらしくサーカスで使えなくなった動物たちをこうして狭い檻に入れて各地を巡回している動物園であり、その様子を以下の映像でご覧ください。 そしてこの映像の中に二頭のホッキョクグマが映っています。



実に不思議です。 この映像を見る限りでは若年個体のようにすら見える二頭ですが、年齢的にはこのうちの一頭がダーニャであってもおかしくはないと思います。
(*追記 - この二頭の新しい映像がありましたので下にご紹介しておきます。)

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Photo(C)巡回動物園「モスクワ・サファリ園」のホッキョクグマ
Photo(C)МАНГАЗЕЯ

実はこういった巡回動物園のホッキョクグマたちは野生出身なのですが連邦政府の自然管理局(RPN)の管理下にはありませんので野生出身でも購入して日本に連れてくることが可能です。 そういうことに目を付ける日本の動物園がないというのも、要するにこういったサーカス出身のホッキョクグマやら巡回動物園のホッキョクグマというものの存在は我々日本人は馴染みがないからでしょう。 購入しようと言う発想そのものが出てきません。 それを購入したのが中国だったということです。

極東ハバロフスクの動物園(プリアムールスキー動物園)で暮らしていたゴシというホッキョクグマがいましたが私はわざわざ彼に会いにハバロフスクまで行ったのですが、実に印象的なホッキョクグマでした。 このゴシもサーカス団に入れられ訓練をさせられたのですがやはり不適格となり巡回動物園に売られてしまったのですが、その飼育環境は実に劣悪だったそうで、かなり健康を害した後にハバロフスク動物園(プリアムールスキー動物園)がゴシを受け入れて保護したわけです。 サーカスで使えなくなったホッキョクグマを飼育環境の劣悪な巡回動物園に売り飛ばしてしまうという、いわゆる使い捨ての論理がまかり通ってきたのがサーカスというところなのです。 サーカスと巡回動物園、その関係の隠された醜悪さを今更ながら我々は思い知るわけです。

ダーニャが現在どこで何をしているのかは分かりませんが、この「巡回動物園」というのはまさにロシアのホッキョクグマ界の「暗い闇」の部分として存在しているわけです。

(資料)
Вечерний Петербург (Mar.4 2010 - Даня уехал в цирк)
Первый канал (Feb.21 2011 - В Тульской области разгорелся скандал, в центре которого оказался передвижной зоопарк)
Комсомольская правда (Jul31 2011 - Московские медведи улетели в Китай. На пенсию)
ЦАОинформ (Jul.29 2011)
МАНГАЗЕЯ (Oct.21 2014 - К нам приезжал зоопарк)
ZooChat (Elephas Maximus Sep.26 2014 - post# 815205)

(過去関連投稿)
ロシア・モスクワ郊外の私設動物園の悲惨な現実
ロシアの氷上サーカスのホッキョクグマ ~ 現役で活躍するラパ、そして引退したホッキョクグマたちの余生

(*イョシ関連)
ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のイョシ、ロストフ動物園に引き取られる
サンクトペテルブルクに別れを告げるイョシ ~ サーカス出身のホッキョクグマの境遇
ロシア・サンクトペテルブルクのイョシ、新天地ロストフへ出発
ロシア南部 ロストフ・ナ・ドヌのロストフ動物園のイョシ ~ 安住の地での近況
ロシア南部・ロストフ動物園のイョシ、安住の地で元気に暮らす ~ ロストフ動物園の奇妙な計画
ロシア南部・ロストフ動物園、サーカス出身の12歳の雄、イョシの注目される今後

(*ゴシ関連)
ロシア極東・沿海州、ハバロフスク動物園のゴシ ~ 氷上サーカスを去り動物園を安住の地に
ロシア極東、ハバロフスク動物園のゴシ、身勝手な来園者の指を噛み切る! ~ 後を絶たぬ来園者の規則違反
ロシア極東、ハバロフスク動物園でのゴシの 「来園者襲撃」事件の続報 ~ 自業自得の規則違反者
ロシア極東・沿海州、ハバロフスク動物園のゴシに寄せる地元の人々の想い ~ お誕生会開催へ
ロシア極東・沿海州、ハバロフスク動物園 (プリアムールスキー動物園)のゴシが亡くなる
(*以下、ハバロフスク動物園訪問記)
晩秋の気配濃厚なハバロフスク動物園へ ~ ゴシさん、はじめまして!
ゴシ、その悲哀を突き抜けて澄みきった眼を持つホッキョクグマの魅力
ロシア・ハバロフスク動物園のゴシへの同情と共感 ~ 人間に弄ばれた運命

(*サーカスのホッキョクグマ関連)
トスカ(クヌートの母)とサーカス団の悲しきホッキョクグマたち
サーカス団のホッキョクグマ今昔物語
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ロシアの氷上サーカスのホッキョクグマ ~ 現役で活躍するラパ、そして引退したホッキョクグマたちの余生
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ロシアのサーカス団の四頭のホッキョクグマたち、元気にサンクトペテルブルク公演へ
極地で死ぬかサーカスで生きるか? - "Смерть на полюсе или жизнь в цирке?"
ロシアのサーカス団の四頭のホッキョクグマたち、元気に今度はイジェフスク公演へ ~ 尊厳とは何か?
by polarbearmaniac | 2015-07-03 23:55 | Polarbearology

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