街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

アメリカ・ユタ州、ホーグル動物園のシヌック(1977~2002 デナリの母)が最後まで殉じた母親役

a0151913_1422558.jpg
偉大なる母シヌックと彼女の最後の子供のアナーナ(2001年)
Photo(C)Deseret News

札幌の円山動物園で誕生したララファミリーの個体たちを見ていますと総合的にララとルルの母親であったクーニャの影をそれほど感じさせないのが不思議です。クーニャの神経質でプライドの高い性格はララにかなり受け継がれたと思っていますが、ララはその顔立ちは父親であったシローを強く受け継いでいるわけです。しかしララの子供たちにクーニャやシローの影がさほど濃く感じないということはすなわち、父親であるデナリの血統、つまりデナリの母親であったシヌックにその影響力の大きさを求めるのが正しいだろうと思います。

アメリカ・ユタ州ソルトレイクシティのホーグル動物園(Hogle Zoo)で飼育されていたメンフィス動物園生まれの雌のホッキョクグマであるシヌック (1977~2002)はアメリカのホッキョクグマ界の歴史においてまさに指折りの名ホッキョクグマであり25歳で亡くなるまでに10頭の子供たちを産み育て、そのうち3回は双子の出産だったという、現時点の札幌のララすら上回るほどの実績を残したホッキョクグマでした。このシヌックについては以前から何度も投稿しており詳しくは過去関連投稿にその内容を譲りたいと思います。

このシヌックの生涯においてあらためて触れておかねばならないのは、彼女が一頭の雌のホッキョクグマとしてではなく、あくまで一頭の母親として殉じたということです。彼女は2000年12月に彼女が23歳となったときに自身の最後の子供であるアナーナ(あのバッファロー動物園で人工哺育された有名なルナの母親です)を生み、そして育児に入ったわけですが、その頃からやや内蔵機能の低下が見られたようです。しだいにそうした彼女の健康状態の陰りが大きくなりつつある中でもシヌックは体力のある限りアナーナに授乳を行い続け、そしてアナーナが2002年の3月にバッファロー動物園に移動するまでの1年3ヵ月間、母親としての責任を果たし続けたわけでした。
a0151913_1445965.jpg
シヌックとアナーナ(2001年) Photo(C)Deseret News

ホーグル動物園は通常は母親がこうして子供と別れた後には、その年の次の繁殖に挑戦させるべく雄のアンディ(彼はデナリの父親ではありません。デナリの父親はカーマイケル、別名バッバ - Bubba でデナリの生まれた1993年に亡くなっています)と同居させるという措置をとらず、シヌックは妊娠・出産・育児といった非常に体力の必要とする一連の繁殖への試みを断念してシヌックに健康状態を第一に考えるやり方を採ったのは非常に賢明だったと思います。しかしさすがのシヌックも25歳となったその年の2002年12月に健康状態が著しく悪化し、安楽死という方法で亡くなったというわけでした。 一頭の雌としてではなく、まさに母親という役に殉じた彼女の死だったわけです。ホーグル動物園は彼女の死を大いに悲しんだわけでした。
a0151913_1462898.jpg
死の前年の体力の衰えたシヌック  Photo(C)Deseret News

実は以前にこのシヌックが彼女の息子である円山動物園のデナリが一緒に写っている素晴らしい写真を何度かご紹介したことがありました。飼育下のホッキョクグマ親子を撮った写真の最高傑作ではないかと思えるほどの見事な写真です。 シヌックのあえてカメラ目線を外した姿こそは子供を守ろうとする母親の母性を客観的な表現として見事に普遍化しているわけです。 しかし今回この投稿でご紹介している2001年、つまりシヌックの死の前年の彼女(及び彼女の娘である2000年生まれのアナーナ)の写真はあのシヌックの以前の母親としての誇り高い写真とは違い、彼女の体力の衰えを如実に示しているいささか同情すべき写真です。
a0151913_1584515.jpg
デナリ (2015年7月25日撮影 於 札幌・円山動物園)

札幌のデナリの母親は実に偉大だったわけです。その偉大なる母シヌックの息子であるデナリが現在日本のホッキョクグマ界を背負っている存在となったのも無理からぬところと思われます。そのデナリの優れた血統に加えてララという、それこそ毎年進化を遂げている優れた雌のホッキョクグマが彼のパートナーとなっているというところに今日におけるララファミリーの繁栄の理由があると言うことです。ララの子供たちの「筋の良さ」というものは、もちろん母親であるララの優れた母性が育んだものではありますが、私は実はデナリの母親であった偉大なるシヌックの血の影響が思いのほかあるように考えています。

(資料)
Deseret News (Dec.19 2002 - Hogle Zoo workers mourn polar bear mom 'Chinook')(News Archive)

(過去関連投稿)
デナリ(現・円山動物園)の1994年一般公開初日の様子 ~ 雄の「偉大さ」とは?
デナリ(札幌・円山動物園)の母シヌックの「育児記録写真集」  ~ “Project Polar Bear”
デナリの義父の悲劇的な死の真相 (前)
デナリの義父の悲劇的な死の真相 (後)
「偉大なる男」デナリを生んだ「偉大なる母」の姿
デナリ (円山動物園) とその母親、兄弟姉妹たちの姿 ~ ユタ州・ソルトレイクシティーの地元紙の記録
アメリカ・ユタ州、ソルトレイクシティーのホーグル動物園、取り戻せるか過去の繁殖の栄光
大きく成長を遂げつつあるポロロ ~ クーニャよりもシヌックの影を強く感じるララファミリーの子供たち
by polarbearmaniac | 2015-08-03 01:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ロシア・イジェフスク動物園が..
at 2017-11-18 01:30
南フランス・アンティーブ、マ..
at 2017-11-18 00:30
チェコ・ブルノ動物園のライブ..
at 2017-11-17 00:30
札幌・円山動物園で完成の「ホ..
at 2017-11-16 15:00
アメリカ・コロンバス動物園の..
at 2017-11-15 14:30
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2017-11-15 00:30
ロシア・サハ共和国、ヤクーツ..
at 2017-11-14 01:00
アメリカ・テネシー州 メンフ..
at 2017-11-13 01:00
オランダ、フリースラント・ア..
at 2017-11-12 00:30
ロシア・西シベリア、ボリシェ..
at 2017-11-11 00:30

以前の記事

2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Lenin's Tomb: The Last Days of the Soviet Empire


Resurrection: The Struggle for a New Russia


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag