街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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静岡・日本平動物園のピョートル(ロッシー)、貸与期間10年延長へ ~「塩漬け状態」の日本永住へ

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ピョートル(ロッシー) Photo(C)Ленинградский зоопарк

数日前に静岡・日本平動物園で飼育されている7歳の雄のピョートル(ロッシー)の貸与期間延長について静岡市長がサンクトペテルブルクのレニングラード動物園を訪問して2018年3月に失効するこの貸与期間をさらに10年延長するということでスキーバ園長の承諾を得たという報道がなされています。その静岡新聞の9月1日付けの報道の一部を記録用に抜粋してコピーしておくことにします。

>静岡市の田辺信宏市長はこのほど、ロシア・サンクトペテルブルク市のレニングラード動物園にイリーナ・スキーバ園長を訪ね、日本平動物園(駿河区)で飼育している雄のホッキョクグマ「ロッシー」の貸与期間延長を要請し、快諾を得た。来年4月に静岡市で調印式を行う方針。同行した日本平動物園職員によると、スキーバ園長は「ぜひ日本で調印式を行いたい」と了承。(中略) 現地では、野生動物の飼育・繁殖などに関する情報交換や技術協力、文化交流を進める協定書も新たに交わした。(中略)現地では静岡市側が贈ったニホンザルのペアの贈呈式もあった(以下略)。

このニホンザルのペアの様子とその贈呈式の模様を現地のTVニュースでご覧いただきましょう。音声はonにして下さい。





事前にはこの貸与期間延長問題についてかなり心配していた向きも園の関係者やファンの間にもあったようですが、実はこれは100%確実な状況だったわけです。何故ならばこのピョートル(ロッシー)が来日した直前のロシアにおける状況が反映しているわけです。つまりそれはロシアにおけるモスクワ動物園とレニングラード動物園との間での大きな紛争に原因があるわけです。これについてはロシアの調査報道紙として非常に定評の高いノーヴァヤ・ガゼータ(Новая газета)紙が以前に大変詳しい報道を何回かに渡って行ったわけで、現在は記事はネット上にはありませんが私はそのうちの何回分かの特集記事を今でも保存しています。実に優れた報道でした。なにしろ同紙はレニングラード動物園の会計帳簿のコピーまで入手して会計処理の矛盾を洗い出し、そして徹底的に同園の行ったことの事実を暴露したわけでした。
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クラーシン(左)とピョートル(右) 
Photo(C)Ленинградский зоопарк

モスクワ動物園が権利を有していたウスラーダ(現在はもうレニングラード動物園の所有になっています)が産む赤ちゃんの権利の半分はモスクワ動物園にあったわけですがスキーバ園長はこのウスラーダの子供たちを勝手に売却してその代金の半分をモスクワ動物園には一切支払わないという明白な契約違反の状態を継続し(個人の口座で処理したという説さえあります)、それに激怒したモスクワ動物園は自らが主導権を持つEARAZA (Евроазиатская региональная ассоциация зоопарков и аквариумов / Еuro-Аsian Regional Association of Zoos and Aquariums - ユーラシア地域動物園水族館協会)におけるレニングラード動物園の資格を停止処分としたわけです。さらにモスクワ動物園は欧州における同じ組織であるEAZAにも呼びかけレニングラード動物園を徹底的に締め上げるということを行ったわけです。これによってレニングラード動物園は繁殖のための全ての動物の個体移動の対象園から排除され、さらにホッキョクグマについては有償による売却を行うことが不可能となりました。2007年11月に誕生したクラーシン(現ノヴォシビルスク動物園)とピョートル(ロッシー)の雄の双子についてはモスクワ動物園が当初からクラーシンの権利を取得して翌年6月にノヴォシビルスク動物園に送りこんだわけです。双子のもう一方のピョートルについてはレニングラード動物園はそれをロシア国内の他の動物園に預けることがEARAZAの制裁によってどこの園からの協力を得ることもできず、さらに欧州(EAZA加盟園)に売却することなどは全く問題外という苦境に落ちいったわけです。そうなるとEARAZAやEAZAに加盟していない国、たとえば中国の動物園へ移すかという話にもなるわけですが、中国という国はホッキョクグマを金銭による購入(つまり所有権の完全取得)以外でホッキョクグマを入手するなどということはしない国です。そうなるとEARAZAやEAZAに加盟していない国として残ったのはかねてからホッキョクグマを入手したがっていて何度かアプローチのあった日本の日本平動物園しかなかったということなのです。当然ピョートルの売却はEARAZAの制裁措置によって不可能であり、無償貸与で受け入れてくれるのは日本平動物園だけだったというわけです。それほどまでにピョートル(ロッシー)には行き場所がなかったわけです。 ピョートル(ロッシー)入手の経緯を日本平動物園の語ることをそのまま信じて美談として理解されたい方はそれでも結構ですし、それも我々日本人の人の良さという美点でもありますが、しかし事実は全く異なるということも知っておく必要があるわけです。日本の動物園関係者などの到底知り得ない状況が実際にはロシアに存在していたということです。

ここで2007年12月に地元TV1で報じられたクラーシンとピョートル(ロッシー)の双子誕生のニュースを再びご紹介しておきます。産室内のモニターカメラを見る飼育員さんの映像を登場しています。



日本の動物園関係者は以前も現在もロシアという特異な国における特殊な状況といったものには全く無知であるわけです。いや、ロシアどころか海外一般の事情についても情報を得ようとはしないわけです。 日本平動物園にしてみればピョートルが入手できたのは「一生懸命努力してなんとか実現できた」と考えてありがたがっているようですが、実はレニングラード動物園にしてみれば「うまい場所に、しかも恩を売る形で『厄介払い』できた」と考えているということです。ですから今回の貸与期間延長問題については「あと10年延長してあげてもいいですよ」という悠々とした強い立場にいるのは本来は日本平動物園のはずで、「なんとか10年延長してもらえませんか?」と頼むのは本来はレニングラード動物園なのです。本来は立場が逆なのに、やはり何事も膝を折って頼み込むのが我々日本人の謙虚すぎる国民性とでもいいましょうか、本来は頼むほうの側であるものの高飛車に振舞うというのがロシア人であるというケースは社会のもろもろの場面で存在するわけで、こういうことに冷静に対応するというのが上手いのがアメリカやイギリスといった国々でしょう。 今回のピョートル(ロッシー)の貸与期間延長のためにニホンザルをレニングラード動物園に「献上」する必要もなければ静岡市長がサンクトペテルブルクに行く必要もなかったということです。 レニングラード動物園はモスクワ動物園に睨まれて、ピョートル(ロッシー)はもう静岡で「塩漬け状態」で動きが取れないというのが現実なのです。
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ウスラーダお母さんとクラーシン、ピョートルの双子
Photo(C)Ленинградский зоопарк

それからロッシーとヴァニラという従兄妹同士ペアの間で繁殖に成功したとすればその赤ちゃんの権利の半分は理論的にはレニングラード動物園にあるわけですが、レニングラード動物園はその赤ちゃんをロシアに引き取るということは決してしないでしょう。何故なら、ウスラーダの血の入った赤ちゃんなどロシアではわざわざ国外から連れてくる必要など毛頭ないからです。 一つの可能性としては日本平動物園にその赤ちゃんを寄贈するという結果になるでしょう。 となれば、また「アンデルマ/ウスラーダ系」、それもその血の濃い血統が日本の動物園に出現するということになります。またまた頭痛の種です。もう一つの可能性としては、レニングラード動物園がその赤ちゃんを中国に売却するというケースです。この場合は赤ちゃんは静岡から羽田経由で中国に移送されるでしょう。そして中国国内のどこの動物園に行ったかはわからなくなる...そういうお決まりのパターンでしょう。確率としては後者のほうが大きいでしょうし、日本のホッキョクグマ界としてもやはりその赤ちゃんは中国に行ってもらった方が結果としてよいのかもしれません。なにしろレニングラード動物園は財政が非常に苦しいわけです。ピョートル(ロッシー)はモスクワ動物園とのこともあって売却は不可能ですが、そのピョートル(ロッシー)の「天然果実」である子供ならば売却は可能だからです。

このスキーバ園長さんという方はいろいろな情報を集めてみますと過去の経緯から言ってもいろいろいと問題のある方のようです。なにしろいつも自分で金を払わない「海外旅行が大好き」な方のようです。「ぜひ日本で調印式を行いたい」というのはそういったことの反映でしょう。

(資料)
静岡新聞 (Sep.1 2015 - ロッシー貸与10年延長へ 静岡市長とロシア動物園合意)
Телеканал «Санкт-Петербург» (Aug.27 2015 - Японских макак, подаренных Ленинградскому зоопарку, назвали Кёто и Мия)
Невские Новости (Aug.27 2015 - Петербургский белый медведь Петр стал любимцем в японском зоопарке)
Новая газета (Mar.29 2006 - Скандал вокруг знаменитого белого медведя-Услада и его преемника получает быстрое расширение)
dp.ru (Mar.28 2006 - Москва и Петербург не поделили белого медведя)
Телекомпания НТВ (Dec.11 2007 - В медвежьей семье — прибавление)
BaltInfo (Mar 9 2006 - ИНТЕРВЬЮ: Директор ГУП «Ленинградский зоопарк» Ирина Скиба: Мы не должны висеть на шее у города, как ярмо)
by polarbearmaniac | 2015-09-04 01:30 | Polarbearology

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