街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・ノヴォシビルスク動物園のゲルダの出産準備に給餌量が増加 ~ 「小さな正義」が通じぬ国の魅力

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ゲルダ(Герда)(2014年9月11日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

ロシア・西シベリアのノヴォシビルスク動物園の7歳のゲルダ(Герда) といえばそれはもちろん大阪・天王寺動物園のシルカの母親ですが、以前もご紹介していましたが今年の年末にも出産か期待されているらしく、その給餌量は非常に増えているようです。ごく数日前のノヴォシビルスク動物園でのゲルダの映像をシルカファンの方が撮影されていますので、それをご紹介しておきましょう。







もともとゲルダは大型のホッキョクググマなのですが、そういった給餌量の増大だけでなく、この動物園特有の公認の、来園者から投げ入れられたエサも口にしているわけです。動物園での飼育動物への来園者のエサやりが禁止されているのは世界共通のことなのですが、このノヴォシビルスクでそれが行われていることは、もうある種の「文化」とでもいった様相を呈しているわけです。
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さて、以前にも述べたことがあったのですがモスクワ動物園にはこの動物たちへのエサやりを楽しみにしている老人がいて、いつもリンゴをいくつか袋に入れて園内を歩き回り、自分のお気に入りの動物に与えるということを楽しみにしているお婆さんがいるわけです。私がモスクワ動物園に行き始めてもうかれこれ7年ほどになるわけですが、いつもこの決まったお婆さんを見かけます。このお婆さんはホッキョクグマではウランゲリの大ファンらしく、「ウランゲリ! ウランゲリ!」と大声で呼びかけては高いガラスのボード越しにリンゴを投げ与えるわけです。ウランゲリもそのリンゴに気が付かない時もあって食べずに放置されている場合もあるのですが、このお婆さんは一日に何度もホッキョクグマの飼育展示場に現れてウランゲリがちゃんとリンゴを食べたかどうかを確認しにくるという熱心さです。ある時から私はこのお婆さんと面識ができたのですが、いつもこのお婆さんは私に一方的にしゃべりまくります。しかしその内容は、このお婆さんは実にホッキョクグマをよく観察している人だと驚くほどの内容です。 マーシャ(彼女はシモーナのことをこの愛称で呼んでいます)の性格、ムルマの性格、ウランゲリの性格、ウムカの性格、赤ちゃんたちの性格と、本当に熱心に一方的に私に語るわけでした。「あなたはどこの国から来たの?」とか「あなた、今日はまだここにいたの?」とか、「久しぶりですね!」とかいったことは一切言わず(そういうことをいちいち聞かれる煩わしさがないのはありがたい話ですが)、ただもう一方的にホッキョクグマのことを語るお婆さんなのです。
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ゲルダ (2014年9月11日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

ところが先月、私は5回もモスクワ動物園に行って午前中から夕方までホッキョクグマの飼育展示場に毎度のように貼りついていたわけですが、この勝手なエサやりのお婆さんが全く姿を見せませんでした。5日間も行けば絶対に4日間は姿を見せ、それも一日に何度も顔を合わせたお婆さんでしたので、彼女の姿が見えないことに私は段々と気になってきたわけでした。老人ですからおそらく病気にでもなって動物園に来られなくなっているのではないかと私は非常に心配になっています。
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ゲルダ (2014年9月11日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

禁止されている勝手なエサやりを堂々と行うこのお婆さん、私はその行為はまったく擁護しませんが、しかし「やめて下さい」と注意する気にも全くならなかったというのが事実です。それどころか最近では、「あのお婆さん、どうか早く元気になってまた動物園で会いたいものだ。」とすら思っています。そしてあのお婆さんがウランゲリにリンゴを投げ与える姿をまた見たいとさえ思っているほどです。ロシアという国はこういう国でありロシア人というのはこういう人々なのです。「リンゴを勝手に動物たちに与えるのは規則違反です」と言うのは確かに「正義」です。しかしそういった「小さな正義」はあの国には似合わない場面があるということです。ロシアだからといって誰でも勝手に動物たちにエサを投げ入れていいわけでは決してありません。しかし私が運良くまたあのお婆さんにモスクワ動物園で再会することができても、私が彼女のエサやりを注意することは決してないでしょう。

ロシアには、このある種独特の場と空気の特殊な感覚があるわけです。 そもそも社会には「規則」というものとその実際の「運用」にはバランス、つまり差異というものがあるのが当然なのですが、あの国にはそのバランスというものが他の国とは大きく異なる場面があるということです。

ロシアという国とロシア人というのは実に不思議な存在です。 歴史、政治、社会、文化、思想、宗教、芸術、文学、言語、習慣などに総合的な興味を持ち、しかも相当の許容力がないとあの国は容易には理解できないでしょう。とにかく容易ならざる国ですが、それを相手に悪戦苦闘すること自体もあの国の魅力というわけです。 あの国は実に奥の深い国です。

(過去関連投稿)
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ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のゲルダに囁かれる妊娠の可能性と大きな期待
by polarbearmaniac | 2015-09-14 06:00 | Polarbearology

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