街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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シルカ(Шилка)、その成長の軌跡 ~ 来園者の心の中に「物語」を作り出す稀有のホッキョクグマ

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シルカ (Белая медвежонка Шилка)
(2014年9月12日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)


(2014年9月12日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

ロシア・西シベリアのノヴォシビルスク動物園で2013年12月11日に誕生したシルカが来日してからもう7ヶ月が経過しています。このシルカは約一年前に母親であったゲルダと昨年の11月13日に突然引き離され、日本への旅立ちまでをノヴォシビルスク動物園内のやや離れた場所で飼育されるようになったわけでした。そして3月27日に来日したというわけです。私にとってシルカとは、その誕生の事実の発表からその成長を追い続け、そしてノヴォシビルスクにも出かけて行ってその行動を観察し、そして来日後も何回か大阪に出かけてその成長を見守ってきたわけですが、海外で誕生しそして海外で会った個体が日本にやってきたというのは私にとっては初めてのことであり、実に素晴らしい体験をさせてもらっていると思っています。
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(2014年9月13日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

(2014年9月12日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

こういった一連の過程の中でロシアのシルカのファンの方々が彼女をどう想い、そしていかに彼女を大事にしているかをネット上で知ることができ、そしてシルカの来日後も多くの写真や映像でシルカの元気な姿を見ていろいろな感想を述べていることを非常に興味深く読んでいます。たった一頭のホッキョクグマの幼年個体を追い続け、これだけ有意義な体験ができるというのは稀有でしょう。ゲルダお母さんとシルカの別れ、ロシアのファンの方々の怒りと悲しみ、そしてシルカ残留への署名活動、ノヴォシビルスク動物園の情報統制、シルカ出発のスケジュールについてシルカのファンの方々やロシアのマスコミが当ブログの記事の情報を発見して引き起こされた大きな混乱、そしてシルカの出発の場面にようやく間に合ったファンの方々の姿、まさにドラマに次ぐドラマの連続でした。そして、そういったドラマの背後には絶えずインターネットというものの存在があったわけです。特にノヴォシビルスク動物園の展示場からのライブ映像配信というものは鮮烈な印象を残しました。



そのシルカは大阪で成長を遂げ、来月には二歳の誕生日を迎えます。大阪では11月29日にモモと一緒にお誕生会が開催されるそうです。ノヴォシビルスクでこのシルカの一歳の誕生会というのは開催されませんでした。そのことについてロシアのシルカのファンの方々は当時非常に悲しい思いをしたそうです。大阪におけるシルカの(二歳の)誕生会で多くの人がそれを祝うことによってロシアのファンの方々に対して、いかにシルカが日本で大事にされているかを示す良い機会だろうと思います。

(2015年5月23日撮影 於 天王寺動物園)

日本においてホッキョクグマの幼年個体の成長を追うというのはララファミリーの個体を中心に我々は考えてきたわけですが、このシルカというのはララファミリーの個体とは全くタイプの違う個体です。その違いの大きさに私は非常に驚いています。ララファミリーの幼年個体というのは刺激に対する反応が俊敏であり、考えていること、感じていることが比較的外から容易に理解することができる場合が多いわけです。それは母親であるララの鋭敏な感性と優れた育児能力によって、ララの子供たちは判断力と感性が磨かれているということを意味します。ララファミリーの個体は感情と行動が非常にバランスがとれていて調和しているわけです。これらはあくまでもララという優秀なホッキョクグマの功績なのです。つまりララの子供たちの素晴らしさは、それこそ今ではもう圧倒的な母親としての能力を誇る「世界のララ」に負うところが大きいわけです。そういったララファミリーの幼年個体の魅力は常に外側に発散され、そして実に華麗で豪奢な印象を我々に与えます。一方でシルカは、持って生まれた本能の鋭敏さ、外界の環境に対する察知能力、状況判断能力に優れているわけですが、これは母親であるゲルダから受け継いだり教えられたりしたのではなく、あくまでもシルカ自身に身についた素晴らしい才能といったものなのです。しかもそれは外側に発散するというよりも、内側で静かに、そして豊かに醸成されているドラマであるという点でまさに稀有の幼年個体だと言えましょう。ララの子供たちを見ていると、その背後には偉大なる母であるララの姿が透けて見えてくるわけですが、シルカを見ていてもその背後にゲルダの姿は見えてこないという違いもあります。シルカはあくまでもシルカなのです。ララファミリーの個体の魅力は、見ているだけで否応なしに我々に迫ってくるわけですが、シルカの魅力は我々が彼女に視線を集中させ、そして彼女の感じていること、考えていることに対して我々が思いをはせる時に、シルカの内側からゆっくりと発せられるメッセージを我々が受け取ったときに初めて彼女の魅力を感じ取るということなのです。ララファミリー(特にアイラ)の輝きに対して、シルカの豊かさと深さという点で両者に違いがあるというわけです。ララの子供たちはフランス文学の作品の主人公であり、シルカはロシア文学の作品の主人公だといって間違いはないでしょう。ララの子供たちがスタンダールやバルザックの小説の主人公であるのに対して、シルカはトルストイやパステルナークの小説の主人公なのです。

(2015年9月4日撮影 於 天王寺動物園)

ロシアのシルカのファンの方々が驚いているのはシルカが天王寺動物園で与えられているカラフルな多くのおもちゃと、そしてシルカに対するエンリッチメントとしての多彩な刺激のようです。そしてシルカの日々の様子を伝える多くの写真と動画です。今も変わらずシルカに深い想いを寄せるロシアのファンの方々の存在は、いかにシルカが多くの物語を来園者のイマジネーションの中に想起させることができるかを如実に示しているといえるでしょう。ロシアのファンの方々と日本の多くのファンの交流はSNSサイトにおいては言語的なコミュニケーションによってなされているのではありませんが、しかしそれはシルカを撮影した多くの写真と多くの動画がアップされることによって機能を果たしています。私個人的にはいくつかの書き込みを行ってロシアの方々に事情を説明したいと思うこともあるのですが私は大阪の人間ではなく、出しゃばるのは良くないと考えて行ってはいません。しかし私が次の機会にノヴォシビルスク動物園に行けば、多分そういったロシアのシルカのファンの方々と話すチャンスはあるだろうと思っています。

(*注 - このシルカには日本で新しい名前が付いていますが、彼女のロシアでの誕生から成長、来日、そして日本でのこれからの生活を一貫して捉え、本ブログでは引き続き彼女の名前をシルカ - Шилка - で統一して記載しています。)

(過去関連投稿)
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ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のゲルダお母さんとシルカとの関係を探る ~ 映像分析は難解
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ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のゲルダ親子の展示場改修工事が終了 ~ 映像配信再開へ
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ロシア・ノヴォシビルスク動物園のゲルダとシルカの母娘が本日突然永遠の別れ ~ ゲルダお母さんの動揺
ロシア・ノヴォシビルスク動物園で別離したゲルダお母さんと娘のシルカの近況 ~ 母娘共に依然として動揺
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のゲルダとシルカの母娘をめぐってシロ園長の発言
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園で母親と別離したシルカの奇妙な常同行動への同園の解釈
ロシア、ノヴォシビルスク動物園でクラーシン(カイ)とゲルダの再会、同居開始の光景に割れる市民の意見
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(11) ~ 母子をいつ引き離すか
ロシア・西シベリア、ノヴォシビルスク動物園のシロ園長が批判する近年の欧米の 「三年サイクルの繁殖」
ロシア、ノヴォシビルスク動物園のシルカの今春来日が決定的! ~ 日本の動物園との契約の締結が完了
ロシア、ノヴォシビルスク動物園のシルカは3月に来日の模様 ~ 地元のファンのシルカへの熱い想い
ロシア、ノヴォシビルスク動物園がシルカの出発情報に職員に固い緘口令を敷く ~ 約一か月半後に来日
ロシア、ノヴォシビルスク動物園の 「国際ホッキョクグマの日」 のゲルダ、クラーシン、そしてシルカの姿
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの来日後に彼女を飼育するのはどの動物園なのか? (上)
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの来日後に彼女を飼育するのはどの動物園なのか? (下)
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの近況 ~ 「ヒガシアサヒカワ・アサヒカワドウブツエン...」
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカが大阪・天王寺動物園へ! ~ 「ロシア血統の闇」の深淵を覗く
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカ (Шилка Красиновна) の偉大で華麗な血族たち
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの移動日程を知らされぬ現地ファン ~ 送り出す側の方々の心境
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ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカがノヴォシビルスクを出発し空路モスクワへ ~ 日本への旅立ち
ロシア・ノヴォシビルスク動物園のシルカの出発に感じた後味の悪さ ~ 大阪市発表を知らなかったロシア側
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「ロシア血統の謎」に迫る(1) ~ ラスプーチン、ゲルダ、血統番号2893個体の三頭の謎を追う
大阪・天王寺動物園のシルカの「放飼練習」がマスコミに公開 ~ Шилка вышла в свет !
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ロシアのノヴォシビルスク市長が日本の原田駐露大使に大阪・天王寺動物園のシルカへの配慮を要請
(2014年9月ノヴォシビルスク動物園訪問記)
◎2014年9月11日(木曜日)訪問
・リバーパークホテルからノヴォシビルスク動物園へ ~ ホッキョクグマたちに御挨拶
・容姿端麗なゲルダお母さん、その娘への態度に見る子育て初体験の初々しさ ~ 育児スタイルを模索中
・シルカ、順調に成長を遂げるその素顔
◎2014年9月12日(金曜日)訪問
・ノヴォシビルスク動物園訪問二日目 ~ ゲルダお母さんとシルカの不安定な関係
・ゲルダの将来への道のりと課題 ~ 一頭の母親と一頭の雌の二役の演技の動機となっているもの
・シルカ、その聡明かつ醒めた知性が発散する魅力 ~ ミルク、マルル、ポロロを超える逸材か?
・クラーシン(カイ)の性格とその素顔 ~ 双子兄弟のピョートル(ロッシー)との違い
◎2014年9月13日(土曜日)訪問
ノヴォシビルスク動物園訪問三日目 ~ "Pour que Gerda et Shilka soient heureuse..."
シルカちゃん、ゲルダさん、クラーシン君、お元気で! そしてまた会う日まで!
by polarbearmaniac | 2015-11-16 01:00 | Polarbearology

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