街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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赤道直下、シンガポール動物園のイヌカが25歳に ~ 動物園の場所の緯度と出産日との間の関係

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イヌカ Photo(C)AFP

赤道直下のシンガポール動物園で暮らす雄のホッキョクグマであるイヌカが間もなく25歳となります。彼は1990年12月26日に熱帯地方では初めてこのシンガポール動物園で誕生したわけですが、私は当時シンガポールに居住しており彼の誕生のニュースをよく覚えています。この件については以前の「シンガポール動物園のシェバ、35歳で一生を終える...」をご参照下さい。本日から10日間がイヌカの誕生祝い期間となり、併せて写真展なども開催されるそうです。本日はイヌカに氷のケーキのプレゼントがあったそうで、その様子を下の映像でご覧下さい。





シンガポールという都市は一年通して日本の真夏のような気温であり、四季といったものがありません。しかしイヌカは12月26日という、一般的に飼育下のホッキョクグマの誕生シーズンの範囲内の時期に生まれています。一方で南半球のオーストラリア、シーワールドで2013年に誕生したヘンリーは北半球とは逆の季節である冬の5月9日に誕生しています。この比較は実に興味深いことです。こういった南半球の特殊な例を除き、では北半球で緯度によってホッキョクグマの出産日には違いが生じてくるのかということについてのデータがありますのでご紹介しておきます。これは最近何回かご紹介している今年2015年に発表された最新の研究報告である “Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis”で、北米における動物園などでの1912年から2010年までの約100年間の北米の動物園で飼育されていたホッキョクグマの456回の出産によって誕生(そして成育)した697頭の個体についての血統登録台帳からの集積データです。今回も結論部分を散布図にしたものでご覧いただくこととします。以下を見ていただきましょう。
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(出典)"Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis" (Figure 5. A scatter plot of latitude (x-axis) by polar bear birthing dates (y-axis) sorted ordinally.)

このグラフの横軸はホッキョクグマに出産のあった動物園の緯度(latitude)をあらわしており、縦軸は出産日をあらわしています。同じ緯度の場所での出産日の上下の中心点をとっていきますと、ほぼ横軸と併行した直線となるわけです。つまりこの事実は、飼育下のホッキョクグマの出産日は緯度には影響を受けないという事実を明らかにしているわけです。つまり北米の動物園では、その場所が北部にあっても南部にあってもホッキョクグマの出産日はほぼ同じ傾向であるというわけです。さて、しかし私が不思議に思うのは、何故「緯度」という比較要素をこの研究報告が採用したかということです。ひょっとして緯度が高ければ気温は低く緯度が低ければ気温が高いという一般的な傾向があることから、実はその動物園が存在している場所の気温によってホッキョクグマの出産日には違いがあるのかどうかということを本当は導き出したかったのだろうと思うわけです。しかし不思議なことにこの研究報告ではこの散布図を「気温」という要素とは無関係に記述しているわけです。「気温」という比較要素で散布図を作成することができれば非常に興味深いことになったでしょう。つまり、気温の低い北海道の動物園と気温の高い近畿の動物園ではホッキョクグマの出産日に異なる傾向が存在しているのかといったことがわかったはずです。結局この研究報告は「緯度」だけに注目し「気温」には触れなかったというのを不思議に思うわけです。

しかし私なりにこれを考えてみれは、実はアメリカという国は緯度が高ければ気温が低く、緯度が低ければ気温が高いということは単純に言えないということを考慮せねばならなかったのだろうということです。何故かと言えばそれはロッキー山脈の存在です。コロラド州のデンバーやユタ州のソルトレイクシティは緯度がそう高くはないにもかかわらず、ロッキー山脈の存在の影響で気温は非常に低いわけです。そしてデンバーやソルトレイクシティの動物園(後者はデナリの生まれ故郷)は過去にホッキョクグマの繁殖に大きな実績を残しているわけです。ということはつまり、この北米におけるホッキョクグマの出産データを取り扱う場合に「緯度」を単純に「気温」と読み替えてデータを比較することが難しいということにならざるを得ないというわけです。何故なら、仮に「緯度」を「気温」と読み替えるならばデンバーとソルトレイクシティというホッキョクグマの繁殖に大きな成果を挙げた二つの都市の存在によって緯度の高くない場所がデータの傾向に影響を与えてしまうからです。こういった理由でこの研究報告書は単に「緯度」を比較要素にしたのではないかと私は考えます。
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Photo(C)The Straits Times

話しがかなり飛んでしまいました。さて、シンガポール動物園のイヌカ、これからも元気でいてほしいものです。シンガポール動物園も細心の注意を払って彼の健康には留意してほしいと思います。もう一つ、最近のイヌカの映像を見てみましょう。



(資料)
The Straits Times (Dec.16 2015 - 10-day birthday celebration for Singapore's polar bear Inuka kicks off with photo exhibition)
AsiaOne (Dec.15 2015 - Singapore's polar bear enjoys "ice kacang" treat for 25th birthday)
TODAYonline (Dec.16 2015 - S’pore Zoo begins 10-day celebration for Inuka’s 25th birthday)
Channel News Asia (Dec.16 2015 - Polar bear Inuka celebrates 25th birthday with giant ice cake)
"Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis" (2015)

(過去関連投稿)
シンガポール動物園のシェバ、35歳で一生を終える...
シンガポール動物園のイヌカが同園内にオープンした新施設 ”Frozen Tundra” に移動
シンガポール動物園のイヌカの24歳の誕生日が祝われる ~ 赤道直下に暮らす体重550キロのホッキョクグマ
by polarbearmaniac | 2015-12-16 22:00 | Polarbearology

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