街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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今年2016年のホッキョクグマの国内再配置を考える ~ 狭まる選択肢と限られたシナリオ

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バフィンとモモ (2015年11月23日撮影 於 天王寺動物園)
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キロル(2012年5月20日撮影 於 浜松市動物園)

今年2016年の日本のホッキョクグマ界、特にそこにおける個体の再配置(Relocation)について考えてみたいと思います。実は今年はこれが極めて難解なパズルとなっているわけですが、そういった状況を作り出している原因として以下の要因があるわけです。

(A)浜松のバフィン親子とキロルに対する考え方
(B)札幌の新施設建設工事に伴う環境の一時的変化
(C)ゴーゴ(白浜)の繁殖への関与


さて、これらを踏まえて考えてみましょう。まず(A)ですが、これはバフィンの余生を浜松で過ごさせてやりたいという浜松の意向はもちろんのこと、基本的にはバフィンの大阪出張のBL契約がその目的を達成したために終了することによるバフィンの浜松帰還は、その具体的時期はともかくとして必至の情勢でしょう。その際に娘のモモを同行させるかどうかという点はあるわけですが、モモの権利は浜松市にありますからモモがバフィンと一緒に浜松に移動するのはまあ不思議ではありません。モモをバフィンに同行させないとすればモモは他園に移動となりますが、浜松市はモモの移動先と預託契約を締結する必要がありますから、モモはバフィンに同行して浜松に移動する方がスッキリとする話ではあります。そしてそれが動物福祉(Animal welfare)にもかなっているでしょう。 キロルは「共同声明2011」(2011年2月18日)によってバフィンの大阪出張で生じる浜松でのホッキョクグマ不在を解消するため(共同声明の文言によれば、"浜松市動物園からホッキョクグマがいなくなることから、教育的展示並びに...")に帯広から浜松に移動したわけですから、バフィン(とモモ)が浜松に戻ればキロルは浜松から移動することが契約の趣旨から言っても当然というわけです。こうしたホッキョクグマの移動も契約という約束事で行われるわけですから、契約の目的が達成されるか、あるいは達成が無理である場合は契約が終了して現在の状態は解消されるということなのです。それは故ユキオの場合やキャンディやバリーバの場合も同様なのです。契約内容の状態を継続したいとするならば契約という約束事に適合するロジックがなければなりません。「余生をここで過ごさせてやりたい」とか「人気者だから」ということは、単にそれだけではロジックにはなりません。

(B)ですが、これは換言すれば札幌では少なくとも今年は繁殖への挑戦はないという事実上の円山動物園の意向があるということを意味しています。つまりララもその他の雌も少なくとも今年は繁殖には関与しないということです。

(C)ですが、これはゴーゴは早ければ繁殖行動期の終わる今年の7月には白浜での役目は一応は終了するということです。その後の彼をただちに繁殖の舞台で活用するならば最速でも来年2017年に大阪も白浜でもない第三の場所での挑戦となることを意味します。

以上のうち(A)と(C)を考慮する場合に必要なのは日本の動物園にホッキョクグマを飼育する現時点で未活用なスペースがあるかのという重要な問題です。考えてみれば以下の三つがあります。

(a)イコロの抜けた帯広の一区画
(b)札幌の「世界の熊館」の1~2区画
(c)一頭しか飼育していない動物園で交代展示に切り替えて捻出する全区画(例えば神戸、鹿児島など)


さて、(A)で「はみ出す」キロルですが帰還先(移動先)としては(a)(b)(c)のいずれもあり得ます。しかし普通に考えれば(b)の札幌のようにも思います。(C)におけるゴーゴは白浜でも大阪でもない第三の場所で繁殖に挑戦させるとすれば、敢えて挙げれば神戸しかないでしょう。東京や釧路は可能性としてすでに消えているからです。

さて、こうなると以下の二つのシナリオが浮かんできます。

(シナリオ1)今年7月にゴーゴは白浜での任務を終えて神戸に移動し、秋にはキロルが浜松から札幌に帰還し、バフィン親子が大阪から浜松に帰還する。

(シナリオ2)今年7月にキロルは浜松から札幌に帰還し、それに合わせてバフィン親子は大阪から浜松に帰還し、ゴーゴは白浜から大阪に帰還する。

「シナリオ1」の難点は仮にゴーゴを繁殖に活用させようとすれば、事実上は来年2017年春の繁殖行動期にみゆきとの間で行われることとなり、その頃にはみゆきは26歳になってしまっているという点です。「シナリオ2」の難点は、これらの移動は繁殖には何ら無関係な、契約目的の終了に伴う positioning としての移動であるという点です。
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ララとリラ (2015年11月3日撮影 於 円山動物園)

さて、こうして順序だてて考えていきますと問題の真の原因の所在があぶり出されてきるわけです。それは(B)、つまり札幌における新施設建設工事による環境の一時的変化(主に騒音)という不透明な要素の存在が日本のホッキョクグマ界の今年2016年に少なからぬダメージを与えているということなのです。この問題さえなければ札幌における繁殖の経験、「世界の熊館」の空いた区画、この両方の有効活用が図れたわけです。この新施設建設工事による問題さえなければ背に腹はかえられないということで実現性は全く別にしてもゴーゴ(そしてひょっとして姫路のホクト)の札幌出張(この場合は彼等のパートナー候補はピリカ)の可能性すら選択肢として持ち得たわけです。「シナリオ1」でも「シナリオ2」でも、キロルが札幌に帰還できるのは彼が今年2016年にはまだ繁殖に関与しないのだという前提から可能であるというにすぎないのです。種別調整者は必ず円山動物園と話しをしていただき、この新施設の建設工事の工程によっていつからいつまでどの程度の騒音が生じるのかを正式にきちんとした形で確認していただくことが必要だと思います。つまり(a)(b)(c)のうち繁殖に活用できるのはおおむね(b)だけだからです。その頼みの(b)が活用できないというところに問題点があるからです。
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キロル(2012年5月20日撮影 於 浜松市動物園)

キロルのパートナーをどの個体にするかは大問題です。浜松がかつてキロルのパートナーとして切望していたのはモスクワのシモーナの娘(2009年11月生まれ)のミラーナのようですが要するに日本のホッキョクグマ界が頼りにするのは結局はモスクワ動物園のシモーナということなのでしょうか? シモーナはララと並ぶ素晴らしい母親ですしこれからまだ何頭も子供を産むでしょう。しかしモスクワ動物園はシモーナの子供たちはもう単純売却などではロシア国外には出さない方針を示しています。日本のホッキョクグマ界がシモーナをあてにできないとすれば今度はシルカの母親であるゲルダ頼みですか? なかなか頭の痛い話ですね。
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シモーナ (2015年8月6日撮影 於 モスクワ動物園)
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ゲルダ (2014年9月13日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)
(*追記1 - 本論とは話が全く外れますが、本ブログご訪問の皆様に是非おうかがいいたしたいと思うのですが、血統登録情報では上の二つの写真のうち下のゲルダは上のシモーナの娘ということになっています。本当にこの上の二頭は似ていると思いますか? 私は血統登録情報の批判的研究 - critical studies - の過程で以前から、このゲルダの母親は本当はムルマであることはまず間違いないという論を展開しています。ムルマの姿を再度見て下さい。どうでしょうか?)

ツヨシは今春横浜に移動してきますが、極端に楽観的かつ希望的見方をするならばともかく、冷静・冷徹で現実的な見方をすれば2016年、2017年の二繁殖シーズンでの横浜でのツヨシの繁殖(出産+育児)成功は極めて困難でしょう。その次の2018年の繁殖シーズンとなればジャンブイの年齢ではもう無理というものです。となれば、ツヨシを次に横浜以外のどの場所で誰をパートナーとして繁殖に挑戦させるかを今のうちから考えておかねばなりません。毎年加速度的に苦しさが増している日本のホッキョクグマ界なのです。(*追記2 - 私見ではツヨシは横浜の後は男鹿に移動し、豪太はクルミとツヨシの二頭を相手に繁殖に挑戦させれば済む話です。かつての欧米では雄一頭に雌二頭という組合せが一般的だったのです。日本だってごく最近にはデナリはララとキャンディの二頭を相手にして両方と繁殖行為を行っているからです。釧路市長が秋田県知事に泣き付いて「秋田県さん、どうかツヨシも面倒を見てやって下さい。」と頼めば秋田県知事はこれを無碍に断ることはまず絶対にないでしょう。早速、男鹿水族館にもう一つの産室を別区画に設ける予算が付くでしょう。これしかありません。ただし事前に必ず種別調整者と相談し承諾を得ることが絶対に不可欠です。)
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ドゥムカ (2014年9月18日撮影 於 イジェフスク動物園)

キロルのパートナーをはじめとして、やはり年齢差は生じても日本のホッキョクグマ界は最終的にはロシア頼みしかないかもしれません。先日イジェフスク動物園でドゥムカお母さんから誕生した双子の赤ちゃんですが、この両方の権利はモスクワ動物園が持っています。この赤ちゃんたちの父親のノルドはシモーナの息子ですがドゥムカお母さんは野生出身ですので「アンデルマ/ウスラーダ系」とはいってもその血はかなり薄まっています。まだこの双子の性別がわからないのですが、権利を有しているモスクワ動物園に泣き付いてこのうちの一頭を日本に導入するという手はあるかもしれません。あとは、今までも触れていますがクラスノヤルスク動物園のオーロラ(本名ヴィクトリア)とフェリックスという野生出身同士のペアから誕生が期待されている新血統の赤ちゃん、これは狙いたいですね。それくらいでしょう。あと強いてあげるならばペルミ動物園のユムカ(ミルカ)セリクのペアの間に将来誕生する個体なのですが、まだ数年は待たねばなりません。いずれにせよキロルのパートナーを探すのは浜松ではなく札幌であるということです。札幌でなければロシアとの交渉は無理でしょう。何故ならロシア側から繁殖計画の提出を求められたときに提示できる個体(つまりキロル)を所有しているのは札幌だからです。(*追記3 - 現在ロシアの動物園でモスクワ動物園が全く権利を持っていないのはクラスノヤルスク動物園、ペルミ動物園、エカテリンブルク動物園、カザン市動物園で誕生するであろう赤ちゃんです。しかしこれらの動物園もEARAZAにおけるホッキョクグマ繁殖計画を主導するモスクワ動物園からの圧力によって繁殖計画の提示を必ず日本側に要求してくるでしょう。つまり、「自分たちの動物園から日本に行く個体の将来の具体的パートナーは具体的に誰なのか?」という問いに回答できなければならないわけです。それができるのはララファミリーを有している札幌だけだということです。)

それがら注意していただきたいのは、私の予想というものが外れれば、それは実は日本のホッキョクグマ界はまだまだ見込みがあるということです。仮に私の予想が当たるようになってきたとすれば、それは日本のホッキョクグマ界が相当に苦しいことを意味しているわけです。何故なら、採用されるペアの組み合わせに選択肢が縮まってきたために私の予想でも当たるようになってきてしまったということを意味するからです。「ジャンブイ/ツヨシ」のペア形成を私はこのブログでも提案し、そして実際にもそうなりましたが、これはもうそれ以外にないほど選択肢が縮まってしまったことを意味しているというわけです。

(資料)
ホッキョクグマ繁殖プロジェクト共同声明」(2011年2月18日)

(過去関連投稿)
来年2014年の日本のホッキョクグマ界の変動の選択肢を考える ~ 壮大なパズルへの挑戦
バリーバ、バフィン、キャンディの出張組の来シーズンを考える ~ 繁殖可能年齢上限付近の個体の処遇
存在感の希薄な「ホッキョクグマ繁殖検討委員会」 の昨今を憂う ~ 「共同声明2014」 は出るのか?
来年2015年の国内ホッキョクグマ再配置案を考える (試案)~ キャンディの札幌残留は何故問題なのか
バリーバ、クルミ、ポーラの「戦い」の休戦 ~ Female Bears of the Past, Present and Future
「ホッキョクグマ計画推進会議(於 恩賜上野動物園)」について ~ 「ツヨシ問題」の行方や如何
釧路市動物園のツヨシが、よこはま動物園ズーラシアへ ~ ツヨシの新しい出発
by polarbearmaniac | 2016-01-01 19:00 | Polarbearology

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