街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・カンザスシティ動物園のニキータが同園を出発 ~ 権利関係が繁殖計画にもたらす要素

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ニキータ Photo(C)Kansas City Zoo

アメリカ・ミズーリ州のカンザスシティ動物園で飼育されている現在9歳の雄のニキータがこのたびAZA (Association of Zoos and Aquariums) の繁殖計画 (SSP - Species Survival Plan) によってノースカロライナ州アッシュボロのノースカロライナ動物園に移動して16歳の雌であるアナーナとのペアリングによる繁殖を狙うことが決定している件についてはすでに何度か投稿してきました。カンザスシティの地元でこのニキータは大変な人気者であり、以前にもご紹介していましたが彼の移動に不満を感じているファンは非常に多かったようです。このニキータは昨日の早朝、カンザスシティ動物園を出発したそうで、同園のスタッフも同行しているそうです。彼はフェデックス(FedEx)の貨物便でメンフィス経由でノースカロライナに空輸されるということだそうです。
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ニキータ Photo(C)Kansas City Zoo

カンザスシティ動物園はニキータの同園出発直後にSNSサイトでその事実を発表したわけですが、なぜニキータが移動せねばならないのかについてまだ不満の声は消えることはなかったようです。そういった声に対して同園は、この決定はAZAの繁殖計画 (SSP - Species Survival Plan)によるものであると再度説明を行っています。血統登録の付随情報で調べてみましたところやはり案の定、このニキータの権利(ownership)は彼が生まれたトレド動物園が依然として保持しており、カンザスシティ動物園はトレド動物園から彼を借りただけという法的関係であることがわかりました。アメリカのSSPを主導しているのはトレド動物園であり、今回の人気者のニキータの移動を勧告できたのもトレド動物園が彼の権利を保持していたことが非常に大きいと言えると思います。そういったものの前ではいくらニキータが地元で人気者とはいえカンザスシティ動物園はAZAのSSPにおける勧告に抵抗することは全く不可能だったということです。仮にそれに抵抗できたとしても今度は他の動物たちの繁殖のための移動のAZAの調整に大きな影響を与えてしまうこととなり、カンザスシティ動物園はAZA加盟のアメリカの他の動物園から孤立してしまうという状況になったでしょう。カンザスシティ動物園は自園のSNSサイトでこのニキータの権利については全く触れないままにファンに対して彼の移動についての説明を行っているわけですが、それはこの権利関係を持ち出すとことは「禁じ手」であるという理解をしているように思います。「ニキータは単に借り物だから我々は権利者の意向に逆らえない。」という説明はさすがにできなかったのでしょう。
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バーリン Photo(C)Kansas City Zoo

AZAのSSPを主導したトレド動物園の副園長格のランディ・メイヤーソン博士は、「今回の勧告を決定することは楽なものではなかった。もっと(繁殖可能年齢の)雄の頭数が多ければ別の雄を(ノースカロライナ動物園に)送ることになっただろう。」という発言を行い、要するにアナーナのパートナーとしてはニキータが数少ない存在であったことを認めています。さらに、この勧告が行われた当時25歳だったバーリンと15歳だったアナーナとを天秤にかけて繁殖の可能性を判断したためにニキータがアナーナの暮らすノースカロライナ動物園に移動すべく決断を下した経緯を語っています。しかし、その決断を可能にした背景にはニキータの権利を保持しているのがトレド動物園であるといった強みがあったとみて間違いはありません。ここでノースカロライナ動物園のアナーナの姿を見ておきましょう。私はこのアナーナに2009年の9月にシカゴのリンカーンパーク動物園で会っていますが、その時と同じように現在も水の中でスケールの大きな往復運動を行っているようです。

Anana playing in the rain

"Whoa!" Anana is enjoying playing and doesn't mind the recent rainfall.

Posted by North Carolina Zoo on 2015年12月30日


この下はカンザスシティ動物園におけるニキータの最後の姿です。



さて、ニキータの去ったカンザスシティ動物園には現在26歳になっている雌のバーリンが一頭になってしまったわけですが、そのバーリンに対してカンザスシティの地元ファンの一部やマスコミには彼女に対する冷ややかな視線といったものがあることをを感じざるを得ません。地元ファンの一部にはこのバーリンを追い出してアナーナをノースカロライナ動物園からカンザスシティ動物園に連れてきてニキータとペアにさせれば済む話だったなどと言う発言も出てくるわけです。そういったファンは、このバーリンがもともと暮らしていたミネソタ州ダルースのスペリオル湖動物園をどのような経緯で去らねならなかったか、そしてスペリオル湖動物園の担当飼育員さんがバーリンとの別れを悲しい気持ちで迎え、そして必死に自分を納得させようとした気持ちなどは全く知らないのでしょう。 そういったファンがニキータのノースカロライナ動物園への移動というSSPによる勧告を批判するならば血統問題とか他の候補個体の存在などを挙げて批判せねばいけないわけですが、そういった根拠のある批判は全くなく、ただ「ニキータは我々のアイドルでカンザスシティ動物園には不可欠な存在だ。」と言う程度の批判では全く説得力はないということです。

自園で誕生した若年個体の権利を保持しつつ、かつSSPで主導権を握っているトレド動物園のランディ・メイヤーソン博士は巧みだったと思います。ホッキョクグマを保有する権利(ownership)というもののメリットは、繁殖のために移動を繰り返すようになっている欧州のホッキョクグマ界を中心とした世界の潮流の中では有名無実化しているわけです。しかし繁殖計画を主導する動物園がそういった権利を保持する場合に限っては、現在でも非常に有効な意味があるということでしょう。

(資料)
Kansas City Star (Jan.6 2016 - Nikita the polar bear has left the (zoo) building)
WAVE3 News (Jan.6 2016 - Nikita surveys the Kansas City Zoo one last time) (Jan.6 2016 - Nikita leaves, Berlin the polar bear queen reigns at Kansas City Zoo)
KCTV5 News (The Berlin Polar Bear Cam at the Kansas City Zoo)
Superior Telegram (Dec.28 2015 - Berlin saying goodbye to polar bear beau)
Duluth News Tribune (Dec.26 2015 - Berlin bids adieu to polar bear beau)

(過去関連投稿)
アメリカ ・ コモ動物園のバーリンがカンザスシティ動物園へ ~ 「ニキータとバーリンの物語」は可能か?
アメリカ・ミネソタ州のスペリオル湖動物園で不在のバーリンのお誕生会 ~ “Berlin is our family."
アメリカ・コモ動物園のバーリンがカンザスシティ動物園に無事到着 ~ 繁殖に大きな期待を寄せる地元
アメリカ・ミズーリ州カンザスシティ動物園の展示場にバーリンが遂に初登場 ~ 期待に加熱する地元報道
アメリカ・カンザスシティ動物園の年齢差ペア、バーリンとニキータの初手合い ~ 圧倒的年齢差克服のカギ
アメリカ ・ カンザスシティ動物園のニキータの病状検査続く ~ 雌のバーリンへも投薬治療が再開
アメリカ ・ カンザスシティ動物園のニキータの病状快方へ ~ “Much Ado About Something ?”
アメリカ ・ カンザスシティ動物園のニキータ、体調が回復し展示場に完全復帰 ~ “Nikita is back !”
ビーグル犬のエルヴィス君の妊娠判定(1) ~ カンザスシティ動物園のバーリンは “妊娠なし”
アメリカ ・ミズーリ州、カンザスシティ動物園のニキータとバーリンの近況 ~ 沈静化した報道
アメリカ・カンザスシティ動物園のニキータがノースカロライナ動物園へ ~ 超人気者に移動を迫った繁殖計画
アメリカ・カンザスシティ動物園でニキータのお別れ会が開催される ~ “Logic has to overcome emotion.”
by polarbearmaniac | 2016-01-07 17:00 | Polarbearology

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