街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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クヌートとフロッケの人工哺育、そのドキュメンタリー映像から見えてくるもの ~ 光と影のドラマ

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クヌートとトーマス・デルフラインさん
Photo(C)Westdeutsche Zeitung

週末となれば欧米からもロシアからもホッキョクグマに関する新しいニュースというのはほとんど発信されてきません。ホッキョクグマの赤ちゃんが誕生しているものの正式発表を行っていない動物園が複数あるはずなのですが、そういった動物園も週末にそういった発表がなされるといったことはまずありません。2015年の繁殖シーズンですが人工哺育されている赤ちゃんが北米で二例、アメリカのコロンバス動物園(2015年11月11日生まれ)とカナダのトロント動物園(2015年11月11日生まれ)とが一頭ずつあるわけですが、その成長の過程はなかなかセンスのある映像でネット上で発信されていると思います。やはり時代が変わってきたということでしょう。

今世紀に入ってからの人工哺育では特にドイツのクヌート(ベルリン動物園 - 2006年12月5日生まれ)とフロッケ(ニュルンベルク動物園 - 2007年12月11日生まれ)の二例がとりわけ印象が強いわけですが、この二頭の人工哺育についてドキュメンタリーとしてTV局が作成したものをここで振り返ってみましょう。 まずクヌートです。この下の二つの映像は私の記憶ではドイツのTV局が作成したものだったはずですが、デンマークのTV局のTV2がその映像を使用してまとめたものだと思います。ですから後日映画で使用されたシーンのエキスのようなものとなっています。合わせて19分ほどの映像です。





このクヌートについてはやはりトーマス・デルフライン(Thomas Dörflein)さんのイメージが大きく、どうしても人間とホッキョクグマのドラマとでもいったものを大きく感じさせたわけです。ファンの思い入れも大変に強いものでした。トーマス・デルフラインさんの急死、そして2011年3月のクヌートの悲劇的な死と、なにかクヌートには悲劇の影が付きまとっていたわけです。そしてサーカス出身という数奇な運命をもったクヌートの母でるトスカの昨年の死をもって、一つの大きなドラマが完全に幕を下ろしたというわけで、私にはなにか胸の痛みを感じるようなドラマだったと思っています。
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フロッケ Photo(C)Blick

さて、次はフロッケです。このフロッケが人工哺育に至った経緯については以前にかなり詳しく投稿していますので(「ドイツ・ニュルンベルク動物園の2つの選択」(1)~(5))内容はそれに譲ります。このフロッケの場合は一年前のクヌートの後でいかに人間が人工哺育に向き合っていくかということを考えさせるきっかけになったわけでした。ホッキョクグマの人工哺育というのはそれ以前にもうすでに欧米でもロシアでも行われていたわけですが、フロッケの場合は「クヌートの次」という意識の重圧があった点で特徴があったと思います。このフロッケの人工哺育についてはARD(ドイツ公共放送連盟)の系列であるバイエルン放送が実に素晴らし番組を制作していますので、それを是非ともご覧いただきたいと思います。ホッキョクグマファンならば必見の映像だと思います。下をクリックして下さい。音声はonにして下さい。大学の教養課程で学ぶ程度のドイツ語で十分に理解できる内容だと思いました。内容がわからなくてもフロッケ以外のホッキョクグマも登場していますので名前だけは聞き逃さないようにして下さい。 しかしそれにしても、よくこれだけ舞台裏まで入った映像が存在するのもだと驚きます。

Flocke 1 - ARD(Tiergeschichten von damals)(約29分)

Flocke 2 - ARD(Tiergeschichten von damals)(約29分)

さて、このフロッケは一昨年の11月に出産に成功し、ホッキョクグマの人工哺育個体の繁殖不能論を突き崩したという点でも意義があったわけですがフロッケの人工哺育の成功は「適応化(socialization)」の成功にあったということは間違いない事実でしょう。この「適応化(socialization)」についてはやはり以前にこのブログで考察してみたことがありました。

当ブログ開設以降のホッキョクグマの人工哺育の例はいくつもあり、スカンジナヴィア野生動物公園、トロント動物園、バッファロー動物園などがあります。いずれも早い段階から同年齢層のホッキョクグマの他個体と同居し、そして「適応化(socialization)」には成功した例ばかりです。とりわけ私の印象に残っているのはスカンジナヴィア野生動物公園のシークーの人工哺育でした。(*日本の白浜、及び中国の複数の施設については、非常に異なる状況と全く異なる考え方によって人工哺育がなされていますので、一応ここでの例としては除外しておきます。)

日本でもホッキョクグマの人工哺育を行なわざるを得ない場面がこれからも出てくると思いますが、しかしこの「適応化(socialization)」を行う条件はほとんどないといってよいでしょう。たとえば昨年札幌でキャンディが出産した赤ちゃんを人工哺育にしたと仮定した場合、一年後にその赤ちゃんをリラと同居させるというようなことが可能ならば「適応化(socialization)」への道筋はあるかもしれませんが、そういうことは現実的に難しいでしょう。「生かせておく」ことだけの人工哺育ならば可能ですし、日本においてはこの「生かせておく」こと、つまり第一ステージをもって人工哺育の成功だととらえる傾向があるわけですが、北米や欧州ではもうそうではないということをフロッケやシークーの例が示しているということです。第二ステージの「適応化(socialization)」はもう絶対に不可欠な要素でしょう。ここまでをもって「人工哺育」が成功したと言えるわけです。そしてその上にさらに第三ステージの「繁殖」というものがあるわけで、ここまでもクリアしたのがフロッケだということです。

(過去関連投稿)
(*クヌート関連)
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by polarbearmaniac | 2016-01-17 23:55 | Polarbearology

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