街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・ウラル地方、チェリャビンスク動物園のアルツィンの行動に対する専門家の奇妙な(?)解釈

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アルツィン (Белый медведь Алтын)
Photo(C)Виталий Визаулин

飼育下のホッキョクグマが我々に見せてくれる行動について専門家は時として非常に意外な解釈を行うことがあるようです。それが今回の例です。ロシア・ウラル地方のチェリャビンスク動物園で飼育されている野生出身で推定15歳の雄のアルツィンの行う、一見非常にユーモラスとも見える(常同)行動については以前に「ロシア・ウラル地方、チェリャビンスク動物園のペアの演じる「タンゴ」 」という投稿でもご紹介したことがありました。その彼の行動についてまた見てみることにしましょう。



このアルツィンの行動ですがロシアの動物園で飼育されているホッキョクグマではよく見かける光景です。欧州や日本の動物園では極めて稀でしょう。さて、この彼の行動についてロシアでは一流と見なされているタス通信が専門家の解釈を報じています。回答しているのはロシア科学アカデミー・ウラル支部の動植物生態学研究所(Институт экологии растений и животных УрО РАН) のヴィクトル・シュトロ(Виктор Штро) 部長ですが、シュトロ部長はこのアルツィンの行動について、彼の行動は人間の関心を引き寄せようとしている行動であって、代償として何かおいしいものを得たいと欲しているために行っているのだと解釈しています。さらに付け加えて、動物たちの行動は彼らのおかれている条件次第で変わってくるのものであり、そうすることによっていろいろな環境に適応できるのであるとも語っています。新しい解釈であると同時に、何か非常に難解な解釈のようにも思われます。しかし私が非常に不思議に思うのは、何故ロシアのホッキョクグマにはこの行動がよく見られるにもかかわらず欧米や日本ではあまり馴染のない行動なのかということです。横浜のズーラシアのジャンブイもこの行動を見せることがあります(彼は野生出身ですが、かつてロシアの動物園で飼育されていました)。シュトロ部長の解釈が正しいとすると、たとえば以下のノヴォシビルスク動物園時代のシルカの行動(彼女が母親であるゲルダから引き離された後にこの行動を始めたわけですが)は、ストレスを意味するというよりも、何かを欲しているために行っている行動と解釈すべきということになるのでしょうか? (もっとも、何かを欲してもそれが得られないことにストレスを感じていると解釈すれば同じような話にはなりそうですが。)



私はこのシルカの行動はストレスが原因で起こっている常同行動であるという従来の解釈の方がやはり正しいと考えます。こういった行動をさせないために天王寺動物園の担当飼育員さんはおもちゃなどを頻繁にシルカに与えているわけです。ところがシュトロ部長の解釈では、何か代償を得る目的でこの行動を行っているのだということになりますが、それはいささか順序が逆なのではないかと思います。「ニワトリが先か卵が先か」といったことにもなりますが、私はあくまでもストレスが先にあるのだと考えています。チェリャビンスク動物園のアルツィンの行動はユーモラスに見えることから、その行動を積極的(positive)に解釈しようというシュトロ部長の考え方は私には奇妙に感じられます。それから、以前にノヴォシビルスク動物園のシロ園長はこうしたシルカの行動について「このシルカの行動は人間の子供が何かに不満を持ってだだをこねるような抗議をするときに行うような行動と同じであり、こちらがそれに反応してしまってはこの行動自体がシルカの習慣・習性となってしまうので、こちらがそれにいちいち反応せず無視していればシルカはこの行動を止めざるを得ないだろう。」と語っていたわけです。しかしシルカのこの行動を止めたのは天王寺動物園の担当飼育員さんであって、しかもその方法は「無視」とは正反対の「関与(すなわち、おもちゃを与えること)」という方法だったわけです。ですからシュトロ部長の解釈とシロ園長の解釈は、前者は発想の順序が倒錯しているという点で実に奇妙であり、そして後者の場合はその解釈は間違いであったということになるわけです。

(資料)
ТАСС (Jan.15 2016 - Белый медведь станцевал перед посетителями зоопарка на Южном Урале)

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by polarbearmaniac | 2016-01-18 23:55 | Polarbearology

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