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旭山動物園、ピリカの「失われた三年半」 ~ 空白期間の存在に奇妙に符合する、ある出来事の謎

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ピリカ(Pirka the polar bear/Белая медведица Пирыка)
(2014年3月23日撮影 於 旭山動物園)

今年2016年の繁殖シーズンの新しい組み合わせは横浜・ズーラシアのジャンブイとツヨシが唯一のものとなりそうで、それ以外に新しい組み合わせが形成するために移動が行われる個体があるようには見えません。繁殖可能な年齢となっている個体でパートナーがいないのは浜松のキロルだけとなっています。新しい組み合わせというには語弊がありますが、今年1月から(*注 - 下の映像の解説では昨年12月下旬からとなっています)旭山動物園でピリカとイワンの同居が限定的に行われており、これを同園では「お試し同居」という位置付けを行っています。



このイワンとピリカの同居ですが、最初に試みられたのは2012年5月のことであり、その時の様子は「ピリカとイワン、そのお互いにとっての試練の場」という投稿をご参照下さい。その時からもう三年半を経過しているわけですが、その時から現在までの間にピリカとイワンの同居が本当に全くなかったのかについては100%確信は持てないものの、もろもろの情報を総合的に把握すると、多分なかったらしいということになりそうです。よって本投稿は「なかった」ということを前提にして述べます。
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ピリカ(2014年3月22日撮影 於 旭山動物園)

現時点でのピリカとイワンの同居の状態、そして今後の見通しはもちろん極めて興味のあるところではありますが、その前にもっと別の重要なことを振り返ってみる必要があると思っています。それは、何故ピリカとイワンの前回の同居と今回の同居再開との間に三年半もの「空白期間」があったのかということです。まずピリカが札幌から旭川へ移動したのは「共同声明2011」による決定のためであり、実際に移動したのは2011年3月初頭のことでした。札幌でピリカのお別れ会というものが開催され私も出席していました。その時の円山動物園の公式映像です。

(C)札幌市円山動物園

この時ピリカは5歳だったわけですが、彼女が旭川に移動することの理由を「共同声明2011」(2011年2月18日)は以下のように述べています。

「円山動物園で新たなペア(デナリ×キャンディ)での繁殖体制を進めるには、飼育繁殖スペースの確保が必要なため、旭山動物園に移動。旭山動物園「イワン」(10 歳)とのペアリングも視野に入れた移動となる。 契約内容:繁殖を目的とした貸借契約」

ピリカの旭川への移動の最大の理由は札幌のスペース問題であり、イワンとの間での繁殖挑戦は少なくとも表向きは副次的な意味合いをもたされていたにすぎなかったということを再度理解しておく必要があるわけです。



こうして当時5歳のピリカ(つまり現在のアイラと同年齢)は2011年3月に旭川に移動したわけですが、翌年2012年5月にイワンとの同居の最初の試みがなされたわけで、その結果はともかくとしても、この試みの時期自体はごく自然なものであり常識的な範囲内での試みであったと思います。ただしこの時点でピリカは6歳になっており、その当時のピリカと年齢的には同じだった2014年のノヴォシビルスク動物園のゲルダは前年12月に産んだシルカの育児を行っていた段階であったということも頭の片隅には置いておく必要があるでしょう。さて、この2012年5月のピリカとイワンの最初の同居の試みについて旭山動物園が公式的にどのような評価を行っていたかについては私は知りません。
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ピリカ(2014年3月22日撮影 於 旭山動物園)

そしてそれから三年半が経過しました。その間にピリカの繁殖への試みがなされていなかったということの理由は何なのかということです。当然考えられる理由の一つは、サツキとルルの繁殖に手一杯でありピリカまでは手が回らなかったということでしょう。しかし少し考えてみるとこれはおかしいわけです。ここ何年間も毎年のようにサツキとルルは繁殖に挑戦しており、ピリカがイワンとの最初の同居の試みが行われた2012年のシーズンもその例外ではなかったからです。ではその他の理由がないかと考えてみますと、たとえば同園は最初のピリカとイワンの同居の試みに否定的評価を下したために再試行までもっと時間をおいたほうがよいと考えたような場合です。しかしせめてこの再試行を二年後の2014年に行うならばともかく、さらにもっと時間をおいた今年2016年まで引き伸ばすという理由には成り得ないように思います。最後に一つ、非常に穿った見方をしてみたいと思います。それは釧路のツヨシの存在です。旭山動物園がイワンをこのツヨシの繁殖挑戦に関与させる可能性と選択肢を考えてツヨシより年少のピリカの繁殖につなげるイワンとピリカの同居再試行を躊躇していたという可能性です。この見方を採れば、ツヨシが横浜に移動することが決定したことと時期を同じくして今回のピリカとイワンの同居の再試行が行われたことの説明がつきそうです。(*追記 - 上野の故ユキオがツヨシのパートナーとして釧路に移動したのは2012年4月です。つまりその時点で「ツヨシ問題」は短期的には決着したことになり、それによってイワンの背負っていた「ツヨシの重し」が一時的に外れたために翌月の5月のイワンとピリカの最初の同居への試行が行われたという理解をすればまさにピッタリです。そして今回ツヨシは横浜に移動が決まり、イワンの背負っていた「ツヨシの重し」が再度外れたわけです。それを機会に今回の二度目のイワンとピリカの同居への試行が行われた...つまりイワンとピリカの同居試行は「ツヨシ問題」の推移と時期的に奇妙に符合しているわけです。)「ツヨシの重し」が外れたイワンは、今度はピリカとの同居の再試行を行う素地ができたという解釈です。しかしこれも非常に穿った見方であるわけで、旭山動物園がそこまで本当に考えていたかどうかはわかりません。だたし数年前に同園が「イワンの釧路出張」という選択肢を提示してまで釧路市動物園のホッキョクグマの繁殖に関与しようとしていたのは事実です。私の記憶ではそれは札幌のデナリが釧路へ出張する以前のことだったと思います。
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ピリカ(2014年3月22日撮影 於 旭山動物園)

いかなる事情があったとしても、ともかくこの「空白の三年半」は長かったと言えます。仮に万が一にでもその理由がツヨシのパートナー問題にでもあったとすれば、旭山動物園も「暗黒の闇の得体の知れぬ不気味な力」と戦っていたことを意味するわけです。仮に最初の同居の試みの翌年の2013年に再試行を行ってみて、その成果に見込みがあるかどうかを判断すべきだったのではないでしょうか。だめならだめで、また別の個体との組み合わせはその当時ならば幾分かはありえたわけです。 ともかく「ツヨシ問題」の解決の遅れがピリカに大きく影響した可能性は否定できないようにも思われます。現時点となってしまえば、もうピリカには退路がほとんどないわけです。つまり、イワン以外にパートナーになりそうな雄の個体はほとんど存在していないということです。

ともかくもピリカとイワンの同居の今回の再試行の行方は今後の日本のホッキョクグマ界に大きな影響を与えるでしょう。

(資料)
北海道新聞web (Feb.1 2016 - ホッキョクグマ繁殖目指し「お試し同居」<旭山動物園わくわく日記>)
ホッキョクグマ繁殖プロジェクト共同声明」(2011年2月18日)

(過去関連投稿)
小雪舞う日、やがて送られる主役の「美しきもの」ピリカ
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by polarbearmaniac | 2016-02-15 22:00 | Polarbearology

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