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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「ロシア血統の謎」に迫る(6) ~ エカテリンブルク動物園のアイナを巡る同園の奇怪な事実誤認

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アイナ (Белая медведица Айна/Росинка)
(2015年8月16日撮影 於 ロシア・エカテリンブルク動物園)

ロシア・ウラル地方の都市であるエカテリンブルクの動物園には野生出身の19歳の雄のウムカとペルミ動物園生まれでアンデルマの娘である17歳の雌であるアイナの二頭が飼育されています。この雄のウムカは地元では非常に人気の高いホッキョクグマで同園にて開催されるいろいろなイベントにもよく登場しています。一方で雌のアイナのほうは比較的地味な存在であるようです。先月27日の「国際ホッキョクグマの日」にはエカテリンブルク動物園では目立ったイベントが開催されなかったようですが、それは同園ではホッキョクグマの他のイベントの回数が多いためでしょう。
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さて、エカテリンブルク動物園の広報担当のエカテリーナ・ウヴァーロヴァさんが地元紙であるヴェチェルニー・エカテリンブルク(Вечерний Екатеринбург)紙の2月27日付の記事で記者のインタビュー答えてに同園のホッキョクグマのウムカとアイナについて語っており、そこで何故この雌のアイナが今まで繁殖に成功していないかの理由を述べているわけですが、その内容が全くの事実誤認によるものであり、アンデルマの名誉のためには到底このまま看過することができない内容ですので、本投稿ではそれについて述べておくことにします。
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アイナ (Белая медведица Айна)
(2015年8月16日撮影 於 ロシア・エカテリンブルク動物園)

ウヴァーロヴァさんが雌のアイナについて語っていることの内容の要点をわかり易く箇条書きにします。

1.(アイナの母である)アンデルマは高齢でアイナを産んだため授乳をせず、ペルミ動物園のスタッフにそれを委ねてしまった。アイナは人工哺育で育てられた。

2.アイナとウムカは一年に繁殖行動期である二週間しか同居させていない。

3.アイナは「ホルモンが途切れてしまい (“У неё возникают гормональные сбои,” は難しい表現ですが、一応こう訳しておきます)」、母性を発揮した行動を行わない。


この3の内容は非常に婉曲な言い回しなのですが、おそらくアイナは出産したが育児放棄したという意味に理解してよいのかもしれません。ともかくウヴァーロヴァさんは、アイナが人工哺育で育てられた個体なので母性を発揮することはない(つまり出産しても赤ちゃんをケアしようとしないという意味でしょう)ということを言いたいのは話の流れから明白であるわけです。
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アンデルマ (Белая медведица Амдерма)
(2015年8月11日撮影 於 ペルミ動物園)

さて、ペルミ動物園で余生を送っているアンデルマ(個体番号1195)ですが、彼女は7頭の成育に成功しています。最初は彼女が野生だった頃の1989年に双子を連れていたところを捕獲されたわけですが、その一頭が現在レニングラード動物園で飼育されている帝王メンシコフ(個体番号1196)です。この時の双子のもう一頭は捕獲の経緯のなかで死亡しています。彼女はその後以降を飼育下で暮らすわけですがレニングラード動物園からカザン市動物園を経て1997年にペルミ動物園へ移ってからペアを組んだのが故ユーコン(個体番号1197)でした。アンデルマはこのユーコンとの間に1998年に雄のペルミアク(個体番号1636)と雌のロシンカ(つまりアイナ - 個体番号1637)の双子、2000年に雄のルトヴィク(つまり姫路のホクト - 個体番号1694))、2002年に雌のアイリシャ(現 チェリャビンスク動物園 - 個体番号1732)、2004年に雄のクライ(つまり白浜のゴーゴ - 個体番号1773)を産んでいます。そしてこのうち人工哺育で育てられたのは2002年生まれのアイリシャだけなのです。このアイリシャの人工哺育については「ロシア・ペルミ動物園で一般公開された生後3ヶ月のゴーゴ(現・天王寺動物園)の様子」、及び「ロシア・ウラル地方、チェリャビンスク動物園のホッキョクグマたちの夏の日の姿」を御参照下さい。エカテリンブルク動物園のウヴァーロヴァさんは、アンデルマが同園のアイナを産んだときはすでに高齢だったと述べています。アンデルマの生年は二つ説があって一つは1980年、もう一つは1982年です。仮に1980年説が正しければアンデルマがアイナを産んだのは17~18歳となり、仮に1982年説が正しければ15~16歳となります。どちらであってもこれは雌のホッキョクグマとしては高齢にはあたりません。

さらに次に、エカテリンブルク動物園のウヴァーロヴァさんが述べている「アイナは人工哺育で育てられた」という意味の発言が全く事実ではないことの決定的な証拠をご覧いただきましょう。以下の写真です。これは私が2011年9月12日にペルミ動物園で撮影した写真でペルミ動物園の歴史を写真で展示してあったコーナーで撮影したものです。キャプションは “Амдерма с медвежатами” (アンデルマと子供たち)です。これは双子に授乳しているアンデルマの写真ですが、彼女が飼育下で双子を出産したのは一回だけ、つまり1998年の雄のペルミアクと雌のロシンカ(つまりアイナ)だけなのです。つまりこの写真はアンデルマと彼女の子供であるペルミアクとアイナの写真なのです。アイナが人工哺育などではなくアンデルマから授乳されて育ったということを示す動かし難い決定的な証拠なのです。
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それにしてのこのエカテリンブルク動物園の広報担当のウヴァーロヴァさんの発言、いささかお粗末だと言えましょう。まるで、アイナが繁殖に成功しないのは彼女の母親であるアンデルマが彼女に授乳しなかったからだと言わんばかりです。これは全く事実に反しています。アイナは人工哺育で育てられたというそもそもの前提が事実ではないわけですから、その後のホルモン云々、母性云々のウヴァーロヴァさんの発言は全く意味をなさないということです。ここでエカテリンブルク動物園での最近のウムカとアイナの姿を御紹介しておきます。



さて、話をアイナに戻しますが、このアイナ(ロシンカ)の双子のもう一頭である雄のペルミアク、これが実は非常に謎の多いホッキョクグマなのです。このペルミアクはカザン市動物園であのマレイシュカ(個体番号1494)とペアを組んで2005年にクージャ(Кузйа - 個体番号1814)、2007年にプロメテイ(Прометей - 個体番号2890)、2009年にピリグリム(Пилигрим - 個体番号3018)という三頭の雄の繁殖に成功するわけですが、2009年の12月に忽然とその姿をカザン市動物園から消してしまうのです。
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ペルミアク(Белый медведь Пермяк) 
Photo(C)Казанский зооботсад

血統登録情報によれば彼はカザン市動物園で2009年12月に死亡したことになっているわけですが、実は私はそれは事実ではないのではないかと考えています。というのは、彼の姿が消える(死亡する)のとほぼ同時に、ある一頭の雄のホッキョクグマが突然中国のある施設に現れるわけですが、年齢といい姿といい実にペルミアクによく似ているのです。この件についてはもっと探求を深めたいと思っています。軽率には書けない内容です。 ともかくこのカザン市動物園というのはまるで暗黒の闇の世界とつながっているブラックホールのような存在に思えてしょうがありません。何かあの動物園に行くのが恐ろしく感じられるほどです。 さて、ここでアイナと双子だったペルミアクの生前の映像、つまり彼が動いている姿を見ることができる唯一のものを御紹介しておきます。これは2008年3月にカザン市動物園で前年12月に誕生したプロメテイが一般公開された時のニュース映像の一部を切り取ったものです。背後にいるのがペルミアクです。



このカザン市動物園というところは非常に不気味な場所です。マレイシュカと最初にペアを組んだペルミアクは死亡し(姿を消し)、そして彼の代役として同園に移動したペルミアクの父親であるユーコンもここで亡くなったのです。さらに遡れば、ここで飼育されていた偉大なる母であったディクサ(個体番号731)が産んだと言われている子供たちにも多くの重大な血統疑惑があるわけです。非常に不可解なディクサの出産年と出産日というパズルは別の一頭の雌の出産した個体をディクサの子供として血統登録したことは明白な事実ですが、そのなかでも不明なものが雄で2~3頭存在しているということです。ディクサというのはアンデルマとは別の意味で神秘的な存在でした。本当に彼女の血が入った娘はことごとく繁殖に成功し(その典型はウスラーダ)、血の入っていない娘(つまり血統登録上はディクサの娘とされているものの実際はそうでない個体)は繁殖に成功しないという、結果的には明白な差異を生んだわけですが、雄の場合はこういった雌の場合をヒントにした区分ができないという点で極めて判断が難しいわけです。「謎の国ロシア」の闇の部分を追及することは興味が尽きません。

(*追記 - 実は上のペルミアクが映っている映像の手前で話しているのがカザン市動物園の当時の園長ですが、この人は巨額の賄賂を受領したり動物園のスポンサーからの援助金を個人で着服したりなどして逮捕されています。この事件の根はこの動物園内部に蔓延していたようです。当時の地元の報道映像を以下でご覧下さい。ペルミアクが「死亡した(消えた)」のはまさにそういった時期だったのです。カザン市動物園というのはまさに「深い霧」の中にある動物園なのです。)


Директора казанского зоопарка поймали на взятке

(資料)
Вечерний Екатеринбург (Feb.27 2016 - Короткое косолапое счастье)
КультурМультур (Jan.23 2016 - Вечеринка в медвежьем стиле)

(過去関連投稿)
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ロシア・ペルミ動物園のアンデルマ、その日常の姿(2) ~ 遠征での映像より
ロシア・ペルミ動物園のアンデルマ、その日常の姿(3) ~ 遠征での映像より
ロシア・ペルミ動物園のアンデルマ、その日常の姿(4) ~ 遠征での映像より
(*2015年8月 エカテリンブルク動物園訪問記)
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アイナ (Белая медведица Айна) の素顔
(*2015年8月 カザン市動物園訪問記)
カザン市動物園、その疑惑と謎に満ちた不可解な状況 ~ マレイシュカとの再会
マレイシュカは年末に出産するか? ~ 劣悪な飼育環境にも逞しく生きるホッキョクグマのロシア魂
ユーコン (Белый медведь Юкон - 姫路ホクト、白浜ゴーゴの父)   (1988 ~ 2014)
by polarbearmaniac | 2016-03-11 21:00 | Polarbearology

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