街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカの控訴裁判所がホッキョクグマ保護の「重要指定地区」への開発規制を無効とした下級審の決定を覆す

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ラダゴル(カイ) (Белый медведь Ладогор)
(2013年2月3日撮影 於 仙台・八木山動物公園)

アメリカ内務省の魚類野生動物保護局 (U.S. Fish and Wildlife Service - FWS)が2010年にアラスカの北側の沿岸地区及び海上の約18万7千平方マイル(約48万4千平方キロ)を「重要指定地区(Critical habitat designation)」に定めるという施策を打ち出し、そしてそれに引き続いてその具現化のためにこの地区内での開発、その他の活動には内務省への事前教示申請によりFWSの承認を必要とさせるという、行政規則による事実上の開発規制を設定しました。これに対して、この規制が資源開発の大きな障害となることに危機感を抱いたアラスカ州政府とアラスカの石油ガス協会が、その行政規則の無効を求めて訴訟を提起したわけです。それに対して2013年の1月にアラスカ州の連邦地方裁判所 (U.S. District Court)は、この「重要指定地区(Critical habitat designation)」そのものの設定自体は認めたもののFWSの規制はあまり広範囲な場所に恣意的に行われていると判断して行政規則の制定による開発規制導入のプロセスには瑕疵があって無効であるとの決定(decision)を下してアラスカ州政府とアラスカの石油ガス協会の訴えを認めたという一連の経緯については、「アラスカにホッキョクグマ生息重要指定地区を設定へ」、及び「アメリカ・アラスカの連邦地方裁判所がホッキョクグマ保護の「重要指定地区」の設定を無効と判断」という二つの投稿をご参照下さい。
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さて、この連邦地方裁判所の決定を不服とした内務省の魚類野生動物保護局 (FWS)は上訴を行いました。上訴審を担当した合衆国第9控訴裁判所(9th Circuit Court of Appeal)の三名の判事は2月29日に評決(verdict)を下し、下級審である連邦地方裁判所の決定を覆す判断を下したとのことです。つまり魚類野生動物保護局(FWS)が勝訴したということです。この評決は三名の判事の一致した意見によるものだったとのことです。このニュースを報じるTVニュースをご覧いただきたいと思います。



この控訴裁判所の評決はアラスカにおけるホッキョクグマ保護にとって大きな意味を持つものだと思います。第一審であった連邦地方裁判所がFWSによる事実上の開発規制設定が無効であると判断した大きな理由の一つは、この地域のいったいどの場所にホッキョクグマの巣穴が分布しているかについてFWSが十分なデータを裁判所に提示することができなかったために規制範囲の設定に十分な根拠がなく設定が恣意的に行われたと判断されたためだったわけですが、控訴審である今回の控訴裁判所は、ホッキョクグマは広範囲に移動するものであり広大な「重要指定地区」の全てに対してFWSが行政規則によって開発の規制を定めることは別に恣意的であるとまでは言えないという判断を行ったというわけです。つまり、規制を課する範囲が何故広大な面積に及ぶのかについての根拠となる明確なデータが十分ではなくても移動範囲の広大さというホッキョクグマの生態を考慮しFWSデータの不十分さについては敢えて問題にはしなかったということを意味するわけです。大いに評価できる判断だと思います。この種の行政訴訟はアメリカでは確か法律審を行うこの控訴裁判所が事実上の最終審となるはずで、さらに上の連邦最高裁判所はこういった案件には管轄権がないはずです。何故ならば今回のFWSの規制はアラスカ州にだけ課されたものであり複数の州をまたいだ問題でもなく合衆国全体への規制の問題でもないからです。今回の控訴裁判所の評決は間違いなくホッキョクグマたちにとっては朗報だと思います。
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ナナ (Белая медведица Нана/Nana the polar bear)
(2013年2月2日撮影 於 仙台・八木山動物公園)

ただし、経済的損失はやはり無視できるのではないわけですし事実、アラスカ州政府やアラスカの石油ガス協会、そしてアラスカ州選出の上院議員までもが今回の控訴裁判所の評決に大きな不満を示しているわけですが、しかしそもそも化石燃料の開発・採掘なのですから、こうした形でブレーキがかるというのもこれからは不可避なことだろうと思います。

(資料)
The Daily journal of the United States Government (Dec.7 2010 - Endangered and Threatened Wildlife and Plants; Designation of Critical Habitat for the Polar Bear in the United States)
Courthouse News Service (Feb.29 2016 - Protected Polar Bear Habitat Restored by Ninth Circuit)
Alaska Dispatch News (Feb.29 2016 - Appeals court upholds designation of polar bear habitat in U.S. Arctic)
The Guardian (Mar.1 2016 - Court upholds federal plan to protect vast polar bear habitat in Alaska)
KTWA.com (Feb.29 2016 - Judge rules in favor of polar bears: 187K square miles of Alaska land labeled ‘critical habitat’)

(過去関連投稿)
アラスカにホッキョクグマ生息重要指定地区を設定へ
アメリカ・アラスカの連邦地方裁判所がホッキョクグマ保護の「重要指定地区」の設定を無効と判断
オバマ米大統領がアラスカ北部に原生地域 (“Wilderness”) 指定の意向を表明 ~ ホッキョクグマ保護へ
by polarbearmaniac | 2016-03-03 06:00 | Polarbearology

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