街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシアのホッキョクグマ生息数未調査地域への調査進行中 ~ 世界推定生息数約2万5千頭が上方修正必至の情勢

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バフィンとモモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

全地球上でホッキョクグマがいったい何頭生息しているかについては実はそれほど精度の高くない推定値しか存在していないという点については以前にも投稿していま。この点については「ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する」という投稿を是非ご参照頂きたいのですが、要するに世界のホッキョクグマの生息地で近年まで生息数調査が極めて不十分だった5つの地域のうち3地域までがロシア領、またはロシア領海内であり、この地域でのホッキョクグマの頭数調査を急ごうということが2013年12月のモスクワでの「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」によって方針が打ち出されたわけです。3地域とはチュクチ海カラ海ラプテフ海の三地域であり、それにバレンツ海地域をさらに加え、ロシアにおける野生のホッキョクグマ生息数の精度の高い数字を出そうということです。
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さて、こういったことで調査が行われてきたわけですがラプテフ海地域の調査結果については「ロシア極北・サハ共和国のラプテフ海地域のホッキョクグマ生息数調査 ~ 頭数減少傾向が明らかとなる」という投稿を御参照下さい。バレンツ海地域についてはロシアとノルウェーとの共同調査が2015年に予定されていたわけですがウクライナ問題、クリミア問題などでロシアとNATOとの間の関係の冷却化によってロシア側がノルウェーのスタッフのロシア領海内への立ち入りに難色を示したといった経緯から、予定されていた2015年のロシアとノルウェーとの共同調査はロシア領海内以外での地域に限定されてしまった状況です。今年2016年にこれがロシア領海内まで拡大できるかについては、はっきりとは言えない状態になっているわけです。
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カラ海地域については2014年に初めての科学的調査が行われたのですが実に驚くべきことに、この調査の結果によるロシア科学アカデミーの正式報告書 ("Assessment of the Amount of Polar Bears (Ursus maritimus on the Basis of Perennial Vessel Counts" 2014) では生息数は約3200頭という、実は今まで想像していたよりもはるかに多くの頭数が生息していることが示されているわけです(当初の予想では確かこの地域では800頭~1000頭だったはずです)。ホッキョクグマの生息数の多いチャーチルのあるカナダのハドソン湾西岸地域とさほど変わらない頭数であったということです。
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モモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

さて、残るはチュクチ海地域なのですが、これはアラスカが含まれており今までアメリカの研究者はアラスカとその領海についてはデータを収集済みなのですが、今回ロシアはアメリカの研究者を入れて共同で今年の2016年から2018年までの三年間に行われることが発表されています。現時点ではこういった状況ですが、このロシアにおけるホッキョクグマの生息数調査が行われる前に推定されていた地球上でのホッキョクグマの生息数である約25000頭という数字は、最終的には上方修正されることは必至の情勢のようです。その理由はなんといってもカラ海地域のホッキョクグマの生息数が予想をはるかに上回る頭数であったということが理由になるでしょう。ロシア極北の全地域のホッキョクグマ生息数調査が終了する2018~2019年にロシア政府はその調査報告書を正式な形で「国際自然保護連合」 (International Union for Conservation of Nature and Natural Resources - IUCN) の「種の保存委員会」(Species Survival Commission - SSC) の「ホッキョクグマ専門家グループ」 (IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group) に提出することとなると思いますが、その結果を踏まえてIUCN/SSCは世界のホッキョクグマの生息数を現在の約25000頭から、上方修正して約27000~28000頭、場合によっては約30000頭近い数字にまで変更する可能性が非常に大きくなったということです。まさに「嬉しい誤算」と言えるでしょう。
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Polar Bear Population Status Map 2014 (by IUCN)

さて、上は2014年におけるホッキョクグマの各生息地における増減傾向を示しています。赤は減少(Declining)、黄色は安定(Stable)、緑は増加(Increasing)、そして灰色は不明、つまりデータ不足(Data deficient)の地域を示しています。上のロシアの調査地域は全て「不明 - データ不足」に該当する地域なのですが、このカラ海地域(つまりKS)のホッキョクグマの増減傾向を知ることが世界規模でのホッキョクグマの生息数の増減を判断する重要な地域として大きく浮上してきたということを意味するわけです。今まで生息数未調査地域であったカラ海地域のホッキョクグマ生息数が事前の予想をはるかに大きく上回る結果となったために、この地域における頭数増減の傾向が地球規模におけるホッキョクグマの生息数増減に大きな影響を及ぼすこととなったわけです。そしてそのカラ海地域の生息数がやっとかなりの精度で判明したにすぎない現時点では、現在に至るまでのこの地域の生息数増減については今後でなければ把握することができないということを意味するわけです。ということが何を意味するかと言いますと、現時点においては「近年ホッキョクグマの生息数は減少し続けている」というテーゼを証明する証拠はないのだということです。減少しているという証拠がないのだから減少していないのだと言い切る根拠も勿論ないわけです。こういった生息数評価に興味のある方は以前の投稿である「カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克」、「ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..」を御参照下さい。旭山動物園がホッキョクグマのもぐもぐタイムの時に飼育員さんが数年来「ホッキョクグマの数は減り続けている」と、いつも説明していますが、その科学的証拠は全くないものの、私は一般の来園者への説明としてはそれでいいと思っています。ホッキョクグマの未来(後述)は実は今まで言われている悲観的予想以上に極めて厳しいわけで、そういったことに危機感を持ってもらうためには「減り続けている」という便宜的な説明でよいと考えますし、そうしておくべきなのです。
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モモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

固い話になってしまいました、ここでロシア極北地域におけるホッキョクグマたちのシーンを二つご紹介しておきます。彼らはこうやってやはり食べ物を求めて人間の活動している場所近くに現れてきている傾向がここ数年非常に多くなっていることは間違いないということです。


ロシア・チュクチ半島のホッキョクグマ親子



ロシア・カラ海沿岸地域でのホッキョクグマ親子


要するに、「ホッキョクグマの生息数は近年非常に減少している」ということを地球規模で言い切るだけの科学的根拠は現時点では全くないということです。私個人の考えですが、実は彼らは近年に至っても地球規模での生息数では安定していたというのが真相だろうと思います。チャーチルのあるハドソン湾西岸地区ばかりを注目してその地域を調査・観察の対象にし、そしてその地域における短期的な小さな時間スパンでの減少をあたかもホッキョクグマ全体の減少の推定に直結させる傾向に問題があったと思うわけです。名の通った欧米の一流のマスコミですらこのことをわかっていないものが数社もあるわけです。世界規模で言えば生息数の安定している地域のほうが多いのです。それから今度また調査の入るチュクチ海ですが、ここは海氷面積が減少してもホッキョクグマの生息数は安定しているわけです。この件については「温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎 」という投稿をご参照下さい。それから、人によっては「ホッキョクグマは食べ物を求めて南下し、グリズリーと混血・共存して生き残る」などという意見を言う人がいますが、それは全くの間違いです。アメリカの地質調査所(USGS - United States Geological Survey)が遺伝子調査を行い調査結果としてホッキョクグマは集団レベルで北に移動しているということが証明されているわけです。これについては「近年の海氷面積減少によりホッキョクグマの集団レベルでの北極点方向への移動傾向が明らかになる」という投稿を御参照下さい。
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バフィンとモモ(2015年3月10日 一般公開初日の撮影)

現時点に至るまで彼らホッキョクグマは温暖化の進行にもかかわらず、ほとんど生息数を減少させた形跡もなく、よくぞしぶとく頑張ってきたと思います。それももうしばらくして続かなくなるでしょう。彼らホッキョクグマの将来については、昨年「アメリカ地質調査所(USGS)の報告書が語るホッキョクグマの将来 ~ 彼らへの挽歌」という投稿で述べた通りに、まさに悪夢の世界でしかないということです。私はこのUSGSの報告書の内容を読んで、一時期ホッキョクグマファンになったことを大きく後悔してしまったほどです。彼らの未来は壊滅的だということなのです。

(資料)
EuroActiv.com (Aug.25 2015 - Polar bears suffer from cooling of Russia-NATO relations)
"Assessment of the amount of polar bears (Ursus maritimus) on the basis of perennial vessel counts" (by Matishov, G.G., Chelintsev, N.G., Goryaev, Yu. I., Makarevich, P.R. and Ishkulov, D.G. 2014) (*Pdf)
Arctic Report Card (Polar Bears: Status, Trends and New Knowledge)
РИА Новости (Mar.25 2016 - Россия и США проведут изучение белых медведей на Чукотке и Аляске)
IUCN/SSC Polar Bear Specialist Group
(The official website for the Polar Bear Specialist Group of the IUCN Species Survival Commission) 
(PBSG global population estimates explained)
(Global polar bear population estimates)
(Summary of polar bear population status per 2013)
(The status table) (PDF 114.5 kB)
Polar Bears International
(Polar Bear Status Report)
(Are polar bear populations increasing: in fact, booming ?)
U.S. Geological Survey (USGS)
(Polar Bear Research)
(New Polar Bear Finding)

(過去関連投稿)
温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎
近年の海氷面積減少によりホッキョクグマの集団レベルでの北極点方向への移動傾向が明らかになる
カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克
ホッキョクグマの生息数評価をめぐる 「主流派」 と 「反主流派」 の主張の対立 ~ 過去、現在、未来..
モスクワで「ホッキョクグマ保護国際フォーラム」が開催 ~ 保護協定締結40周年と今後の行動方針に向けて
ロシアでのホッキョクグマ生息数未調査地域で研究者チームが本格的に生態・生息数調査を開始する
ロシア極北・サハ共和国のラプテフ海地域のホッキョクグマ生息数調査 ~ 頭数減少傾向が明らかとなる
by polarbearmaniac | 2016-03-27 23:45 | Polarbearology

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