街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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旭山動物園でイワンとルルの繁殖への同居開始 ~ 飼育下のホッキョクグマの繁殖成功の要因を考える

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旭山動物園の動物たちの姿の24時間ライブ配信を担当している 「Live Zoo In あさひやま」が報じているところによりますと旭山動物園で雄のイワンと雌のルルの繁殖のための同居がすでに始まっているそうです。ということはイワンとピリカの同居の試みは今季は終了したのだという理解でよいかもしれません。

さてイワンとルル....もう以前から何年も繁殖を期待され続けて久しいこのペアであるもののまだ朗報がなく、最近はこのペアの繁殖についてファンの間でもあまり話題にならなくなっているというのは事実です。あの「世界のララ」と双子姉妹であるルル、そして屈指の繁殖能力を誇る「アンデルマ/ウスラーダ系」のエリートホッキョクグマであるイワン、この二頭の間での繁殖の成功がまだないということ自体が私には「日本のホッキョクグマ界七不思議」の一つだと思っています。ホッキョクグマの繁殖というのは解明されていない要素があるというのは事実で、あれこれの予想を立てること自体に若干無理があるわけですが、私は飼育下のホッキョクグマの繁殖への試みをこうして何年か海外の情報やら、そこに自分でも出かけて行っていろいろと聞いた話などの情報を総合すると、大事なことは以下のようなことではないかと思っています。敢えて重要度の高いと考えられる順番から挙げてみます。

① 優れた繁殖能力を持つ雄(オス)の存在
② 普通程度の繁殖(出産)能力を持ち母性発揮への鋭敏な本能を持つ雌(メス)の存在
③ 雌(メス)が心地よく過ごせる産室
④ 雌(メス)に必要最低限の配慮を行う飼育担当者の存在


こんなところです。飼育下のホッキョクグマの繁殖、実はまず雌(メス)ではなく雄(オス)が問題なのだろうということです。①と②の順番が入れ替わるということはないというのが現在の私の考え方です。繁殖というとその成否は雌(メス)にあるという考え方を持つのは多くの方の意見かもしれませんが、私に言わせれば雌(メス)の繁殖能力は並み程度で十分だということです。ただし出産から授乳、そして育児への移行を促す鋭敏な本能が重要だということです。③ですが、これは産室が設備の整ったものであるということと雌(メス)が心地よく感じる場所であるということとは、別の問題であるということです。ホッキョクグマにとってどういった産室が心地良い場所であるかは実は謎であると思っています。何か我々人間にはわからない要素があることは間違いありません。④についてですが、これは担当者がいい加減でも必要最小限の配慮だけはきっちりと押さえていればよいということです。その飼育担当者が来園者に評判のよい人物であるかどうかは無関係だということです。具体例で見てみましょう。ちょっと生々しい話になりますのでお気に障る方は間違いなくいらっしゃると思いますがお許しいただきたく存じます。

札幌・円山動物園ですが、とにかく最も重要である①のデナリが抜群なのです。デナリは五段階評価ならば最高ランクの5です。いや、それ以上かもしれません。②ですが、実は私はララというのは繁殖(出産)能力は五段階評価ならば最高ランクの5ではなく4か4.5だろうと思っています。ところが母性発揮への移行を促す本能は最高レベルの5だと考えています。③についてはララに聞いてみないとわかりません。これは私の憶測にすぎませんが、円山動物園の産室をララが本当に心地よく思っているかについては必ずしもそうではないかもしれないと考えています。④は私はお話したことがないのでよくわからないのですが、かなり無口な方ですがしっかりとやっていらっしゃる手堅い方のように思いますので評価できると思います。単に前任者の方のやり方を踏襲するのではなく、細かいところでいくつもの新しい工夫をされていらっしゃる点で実に素晴らしいと思います。しかしやはり円山動物園はララの場合では①と②で勝負を決めてしまっていると思います。キャンディの場合は①は上と同様でデナリは最高レベルの5の評価ですが、②では母性発揮への本能が極めて低評価とならざるを得ません。これは③や④でカバーすることはできないレベルなのだということです。同園は昨年(いや、その前からも)いろいろなことがありました。いろいろと厳しい意見があるのは知っていますが私はララとデナリの顔を思い出すと同園を批判する側には加われません。このペアを世界的レベルで評価すれば、ウスラーダ/メンシコフが事実上繁殖から引退し、またレネンでは雄が交代した現時点ではララ/デナリはシモーナ/ウランゲリに次ぐ最高レベルでしょう。同園の改革、改良は札幌の市民の方々が担うべきことであり、私のような関東の人間が同園を批判することはしたくないというのが本心です。



デナリに邪魔されず寝ていたいララ (Mar.29 2014)

ララを追い詰めたデナリ (Mar.30 2014)

大阪・天王寺動物園ですが、まず①のゴーゴですが私の印象では五段階評価で4だろうと考えます。ゴーゴの母親はあの偉大なるアンデルマですのでゴーゴに繁殖能力が備わっていることは十分予想できたのですが若干気になる点もあるわけです。以前に何回か触れましたがゴーゴの二年上の姉のアイリシャは母親のアンデルマが母乳が出なくなって人工哺育に切り替えられたわけですが、その二年後に生まれたゴーゴの時はちゃんと母乳が出たとはいえ、実はゴーゴがなんとか成長できる最低レベル程度であり、やはり十分ではなかったのではないかという気がするのです。何故ゴーゴがバフィンの乳を求めたりしたのかということや、彼がなかなか一人前の男になるのに期間がかかったのかは、そのあたりに原因を求めたいという気がするのです。②についてですが、バフィンは繁殖(出産)能力はあっても実はその後の母性発揮への移行に非常に不安感があったわけで評価としては五段階で前者は3、後者は2ではないかという気がするのです。しかし私は彼女がモモの出産・育児に成功したのは、実は天王寺動物園の③に秘密があるような気がします。つまりバフィンは③が心地よかったために母性発揮への本能が働いたのだというのが私の憶測です。④については確かに素晴らしい方だと思いますし十分バフィンへの配慮ができていたでしょう。全体としてみれば天王寺動物園は①②③④の総合力で今回の繁殖に成功したと思います。比較的弱かった②を補ったのは③だったのではないかと思っています。ここで今から4年以上前の2012年1月19日の天王寺動物園でのゴーゴとバフィンの様子を御紹介しておきます。バフィンには発情の徴候が見られ始めたときだったはずですが、ゴーゴはまだこの時点ではバフィンを攻めきれないわけです。

バフィンに接近しようとして拒否されるものの、その後は一定の距離は保っているゴーゴ
接近には成功するものの、それ以上は踏み込めないゴーゴ
一定の距離を見計らっているゴーゴ

モスクワ動物園、ここは①のウランゲリが最高評価の5、②のシモーナは繁殖(出産)能力も5、母性発揮への本能も5ということで、これでもう勝負はついているわけです。さらに同園は④も素晴らしいわけです。③については見せてもらったことがありませんので私はわかりません。ともかく同園は①②だけで、もう圧勝なのです。

シモーナとウランゲリの秋まで続く同居(A) - Sep.20 2014
シモーナとウランゲリの秋まで続く同居(B) - Sep.20 2014

カザン市動物園ですが、現在①は不在ですが過去にはペルミアクとユーコンが飼育されていました。ペルミアクについては五段階評価で4、ユーコンについては彼はカザンでは飼育環境の悪さに影響されて健康面と精神面の不安が見られていたわけでペルミ時代の5ではなくカザンでは3だったと思います。②のマレイシュカは繁殖(出産)能力は5、母性発揮の本能も5の最高レベルだと思います。カザン市動物園があの劣悪な環境で何故あれだけの繁殖実績を誇るのかといえば、それは実は③に秘密があることは間違いないだろうと思うわけです。おそらく産室が雌にとって非常に心地よい場所なのではないでしょうか。④についてはぜいぜい普通レベルの3でしょう。つまりカザン市動物園は①はそこそこ合格のレベルで実際は②と③で勝負してきたということだろうと思います。アメリカのサン・ディエゴ動物園などホッキョクグマの繁殖についてはカザン市動物園の足元にも及ばないのです。

横浜・ズーラシアですが、まず肝心の①がダメです。五段階評価で1か、あるいはどんなに好意的に考えても1.5といった低レベルでしょう。なにしろ比較的若かったチロは繁殖に成功せず、出産経験のあったバリーバですら成功していません。ちょっと考えてみて下さい。物の道理としてペアが繁殖に成功しないときはその責任は雄に50%、雌に50%あるというのが大自然における神の摂理なのです。チロが繁殖に成功しなかった理由が雄にあった確率は50%、チロにあった確率も50%なのです。ところがチロの後継のバリーバは出産経験があって繁殖能力があったのです。そのバリーバと50%の繁殖不能の潜在責任を持っている雄が4回繁殖を試みて成功しないとなれば、雄の潜在的な繁殖不能責任は50%から限りなく100%に近づくのです。これが①がダメな理由です。①がダメだったらもう②以下を考えてみる必要などないというわけです。つまりツヨシに繁殖能力が備わっているかどうかなどは考える必要などないわけです。①がダメなら②③④では絶対にカバーできないのです。多分ズーラシアは③も④も最高レベルに近いかもしれませんが、それをもってしてもカバーできないわけです。どんなに飼育員さんが美人で優しくて気遣いのできる方であっても、そして我々が何日も夜を徹して千羽鶴を何羽も折っても①がダメなら全てダメなのです。

レネンのアウヴェハンス動物園ですが、①が以前のヴィクトルと現在のフェリックスも最高評価の5、②はフギースもフリーダムも最高評価の5です。これで簡単に勝負を決めてしまったわけです。

さて、問題の旭山動物園です。まず②のルルです。実は数年前に同園でうかがった話ではルルはホルモン値の変化は毎年見られるそうで出産の可能性に悲観的になる必要は全くないそうです(もちろん偽妊娠ということもあるわけですが)。それから、「双子姉妹の神話」というものの存在を忘れてはなりません。双子姉妹は一方が繁殖に成功してもう一方が成功しないという例は最近ではほとんどないわけです。 こう考えると私はルルは五段階評価で実は繁殖可能な普通の3のレベルではないかと憶測します。③については全くわかりません。④については多分最高レベルでしょう。そうなると問題は①、つまりイワンなのです。

私は今年の繁殖シーズンについては粘り強く旭山動物園に期待しておきたいと考えています。でも今年が本当に最後の期待だと思っています。それは私がイワンの母親であるシモーナに対する信頼感からなのです。イワンそれ自体というよりは、イワンの母親であるシモーナの力を最後まで信じたいと考えるからです。

瞑想するルル (Oct.11 2014)

瞑想するララ (Oct. 4 2014)

瞑想するシモーナ (Sep.20 2014)

ホッキョクグマの繁殖と言うのはオペラを例にとればヴァーグナーの作品ではなくヴェルディの作品なのです。ヴァーグナーの作品の場合は歌手が非力でも指揮者とオーケストラが優れていれば比較的優れた公演になるのです。ところがヴェルディの作品の場合は主役の歌手がダメならそれでもう全てダメなのです。ホッキョクグマの繁殖は、まず個体の問題なのです。個体(主役を歌う歌手)がダメならいくら飼育環境(指揮者とオーケストラ)を向上させても、それは動物福祉の面での向上にはつながりますが、繁殖の成功には無力なのです。ホッキョクグマの繁殖は個体の問題が重要なのです。そして第一にやはり雄(オス)がカギを握っているわけです。こんなことを書くとまた怒られますが、男鹿水族館のクルミはせいぜい平均レベルかそのちょっと下くらい、つまり五段階評価では3か2のレベルでしょう。しかしあそこが繁殖に成功したのは豪太に実力があったからです。19歳になるまで繁殖経験の皆無だった円山動物園のキャンディもせいぜいクルミと同じレベルでしょう。ところがデナリはキャンディを三回も出産させたわけです。デナリの繁殖能力がいかに最高のレベルであるかを証明しているわけです。雌(メス)がせいぜい普通程度の3のレベルでも雄(オス)が優れていれば繁殖に成功するわけです。ところが、ミレッラ・フレーニの歌う抜群のデズデーモナ、精緻であって輝かしい響きのベルリンフィルハーモニー管弦楽団、精妙かつスケールの大きなカラヤンの指揮、しかしそれらすべてをもってしても主役を歌うテノールのジョン・ヴィッカースのオテロ役の声の不安定さを補うわけにはいかないのです。つまり名演奏にはならないということです。

(*追記 - こういう言い方もできます。それは、①は英語と数学、②は国語です。①②が成績が良ければ全体の成績がよくなるのです。そして①と②についてどちらがより重要かとなればやはり①なのです。)

(資料)
Live Zoo In あさひやま (Mar.29 2016 - イワンとルルの同居開始

(過去関連投稿)
ルル、その剛直さ、朴訥さという「東北人」らしい性格の妙味 ~ 現実主義者ルルと理想主義者ララ
by polarbearmaniac | 2016-03-31 00:30 | Polarbearology

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