街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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カナダ・オンタリオ州政府の調査報告が示唆するホッキョクグマの生息数安定崩壊の「臨界点」の接近

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イコロ(2015年7月18日撮影 於 恩賜上野動物園)

数日前に「ロシアのホッキョクグマ生息数未調査地域への調査進行中 ~ 世界推定生息数約2万5千頭が上方修正必至の情勢」という投稿で、ホッキョクグマは近年の温暖化の進行にもかかわらず全世界的なレベルで見ると、ほとんど生息数を減少させた形跡がないという内容を述べました。つまりこのことは、温暖化による海氷面積の縮小という歴然とした事実が生じているもののホッキョクグマの生息数を確実に減少させる要素としての「臨界点」にまでは達していないという理解となるわけです。そしてその「臨界点」が迫ってきていることを示唆する研究報告がカナダのオンタリオ州政府が行ったハドソン湾南岸、つまりチャーチルのあるマニトバ州ではなくオンタリオ州がハドソン湾に面している地域での最新の調査によって明らかにされつつあります。
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これはホッキョクグマの生息している地域を分類した例の地理的な区域ではSHとして略記されている区域の一部であり、従来からホッキョクグマの生息数は「安定(stable)」とされてきた地域です。実は同種の調査はハドソン湾の他地域でも行われてきたわけですが、今回の調査結果が重要であるのは1984年から一貫して連続的・継続的に行われている調査であるという点で特徴的であるわけです。実際に900頭のホッキョクグマを対象としたものです。
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Polar Bear Population Status Map 2014 (by IUCN)

先月に公表された調査報告 ("Trends in body condition in polar bears (Ursus maritimus) from the Southern Hudson Bay subpopulation in relation to changes in sea ice") によりますと要点はこういうことです。ごく簡単にまとめます。

・雄(オス)の体重が平均45kg減少し雌(メス)の体重は平均31kg減少している。雌(メス)の平均体重は250kgであり雄(オス)の半分であることから、雌(メス)の体重の減少割合が非常に大きくなっていることを示している。
・1984年と比較すると30日間、彼らが陸上で過ごす日数が多くなっている。つまりそれだけアザラシ狩りを行う日数が減っている。


この結果はここ数年、ハドソン湾岸の他の地域で行われてきた調査・研究でも挙げられていたわけですし何も目新しいことではないのですが、それらはおおむね過去の複数の一時点と調査時点との点的比較によって導かれていた内容であり、今回の調査報告は、そういった他の調査結果が偶然のものではなく継続的に一貫した傾向であることを示したものとして意義があると言えましょう。そしてそれは、こういった温暖化による影響の拡大によっても少なくとも現時点までではホッキョクグマの生息数減少はもたらさなかったということを示している点でさらに興味深い内容であると言えます。「ホッキョクグマは近年は頭数が減り続けている」という主張は正確ではない可能性が強いということが示されているわけです。ホッキョクグマ、特に雌(メス)がこれだけ平均体重を減らしていてもまだなんとか頭数の維持はできているということが言えるわけです。しかし現実的には雌(メス)の出産と育児に重大な影響を与えつつあるわけで、現時点では潜在的な危機と考えたとしても、これから5~10年後からはホッキョクグマの生息数の急速な減少という結果が顕在化して見えてくることは間違いないわけです。オンタリオ州政府の行っている調査の様子を映像で見てみましょう。



ホッキョクグマについてより深く調べていくと暗いニュース一色という感じです。私も最近気分が憂鬱になってきてしょうがありません。

(資料)
"Trends in body condition in polar bears (Ursus maritimus) from the Southern Hudson Bay subpopulation in relation to changes in sea ice" (Mar. 2016)
CBC (Apr.4 2016 - Southernmost polar bears losing weight as ice shrinks: study)

(過去関連投稿)
ロシアのホッキョクグマ生息数未調査地域への調査進行中 ~ 世界推定生息数約2万5千頭が上方修正必至の情勢
by polarbearmaniac | 2016-04-05 11:00 | Polarbearology

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