街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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カナダ北部・ヌナブト準州、アーヴィアト村落を悩ます近隣の街チャーチルのホッキョクグマ対処法

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アイラ (Белая медведица Аира / Aïra the Polar bear)
(2013年6月29日撮影 於 おびひろ動物園)

ここ数年というもの、カナダやロシアの極北地域で人間が住む場所にホッキョクグマが出没し、そして人間との危険な遭遇がなされる例が非常に増えてきているといった報道が多くなされています。これは気候変動によって生態を脅かされつつあるホッキョクグマたちが食べ物を求めて人里に現れる例が多くなってきたのだという理解で基本的には間違いないと思います。そういった彼等の人間への接近の一つの例をロシアでの映像で一つご紹介しておきます。登場しているのは二頭の若年個体で、あそらく生後二年半が経過して母親離れをした双子の個体です。私だったら思わず家に招き入れて食べ物を与えてやりたいとさえ考えるほどの二頭です。



そういったホッキョクグマと人間の遭遇が増加していることはカナダのハドソン湾西岸の街であるチャーチルでの統計にも表れてきています。こうした両者の遭遇の記録を例に取れば、自然保護官が何らかの形で対応した件数が2013年には229件だったものが昨年2015年には351件に増えているということです。このチャーチルの街で大胆な行動に出るホッキョクグマたちについて自然保護官がどのような対応を取るのかについては以前に「カナダ・マニトバ州、チャーチルのホッキョクグマ保護収容施設 (俗称 “Polar Bear Jail”) について」という投稿でまとめてみましたので是非ご参照下さい。本投稿はこのシステムの理解を前提としてなされています。ホッキョクグマの出没情報から自然保護官の出動、そしてこの “Polar Bear Jail”へのホッキョクグマの(強制)収容、そして空輸先での解放と言う流れをイギリスのBBCがまとめた映像がありますのでそれも再度ご紹介しておきます。



さて、この “Polar Bear Jail”、つまり「ホッキョクグマ保護(強制)収容施設」に収容されるホッキョクグマの数ですが、2013年は36頭だったものが昨年2015年ではほぼ二倍近い65頭にまで跳ね上がっているという点はホッキョクグマたちが食べ物を求める行動がより大胆になってきていることを示しているというわけです。そういうホッキョクグマたちへの対応でチャーチルの自然保護官たちは大忙しといったところでしょう。ところがこういったチャーチルの街のホッキョクグマへの対処法が思わぬ問題を引き起こしつつあることをカナダ放送協会が報道しています。
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チャーチルの街はマニトバ州の北端にあり、このチャーチルの北側にはヌナブト準州 (Nunavut) というイヌイットの自治準州が拡がっています。このヌナブト準州のチェスターフィールド・インレット村落 (Hamlet of Chesterfield Inlet) 付近にも最近はホッキョクグマの出没が激増しており、一日に3頭から5頭ものホッキョクグマたちの姿が付近で確認されているそうで、そのうちの何頭かは堂々と村を歩き回ったりしているそうです。以前とは違ってホッキョクグマたちの態度は次第に大胆に(原文の "aggressive" は「攻撃的」と訳するよりも「大胆に」と訳しておきます)なってきているように見えるとこの村の村長さんは語っています。村民はもう夜には外出できない状態にまでなっているとこのこです。ホッキョクグマたちはこのハドソン湾岸を南のチャーチルの方角から北へと移動してくるルート上にこの村があるため、すでに今まで歩いてきた場所でホッキョクグマたちは人間によって爆竹やゴム弾などで追い払われてきた経験があるためか、このチェスターフィールド・インレット村落に着いた頃にはそういった爆竹やゴム弾などに慣れてしまってもうあまり驚かなくなってしまっているそうです。そういったこともあってこの村ではホッキョクグマへの対応に苦慮しているのが現実だそうです。

さて、地図でもお分かりの通りこのチェスターフィールド・インレット村落 (Hamlet of Chesterfield Inlet) とチャーチルの街の中間にあるのがアーヴィアト村落 (Hamlet of Arviat) です。実はこのアーヴィアト村落ではWWFカナダ支部が住民と共同でホッキョクグマとの「衝突軽減計画」を行い大きな成果を挙げたことは以前に「カナダ北部・ヌナブト準州のアーヴィアト村落で試みられた「ホッキョクグマとの衝突軽減計画」が大きな成果」という投稿でご紹介したことがありました。このアーヴィアト村落に駐在して "Polar Bear Patrol" を組織しているWWFカナダ支部のピーター・エーウィンス氏ですが、最近このアーヴィアト村落付近のごみ投棄場で背中に印の付けられたホッキョクグマが投棄物を漁っている姿を見かけるそうで、つまりこの印はチャーチルで人間と遭遇してトラブルが生じたために自然保護官によって捕獲され “Polar Bear Jail”、つまり「ホッキョクグマ保護(強制)収容施設」に収容されたことを示すものであり、この “Polar Bear Jail” から拘置期間の終了したホッキョクグマたちはヘリコプターによる空輸によって主にチャーチルの北西の方角で解放されるわけですが、そうなると今度はアーヴィアト村落付近に姿を見せてきているということを示しているわけです。エーウィンス氏はこのチャーチルの “Polar Bear Jail” によるホッキョクグマへの対応はホッキョクグマたちを次第に「非行」に走らせるものであり、チャーチルの街は単にチャーチルで問題のあったホッキョクグマたちをアーヴィアト村落などのあるヌナブト準州に放り投げているだけであるとエーウィンス氏はチャーチルの対処法を批判しています。この件についてヌナブト準州の住民たちがチャーチルでワークショップに参加したもののチャーチル側はこのテーマについて話し合うことにはあまり協調的な態度ではなかったそうです。「チャーチルのホッキョクグマに対する対処法はアーヴィアト村落に問題を実際に引き起こしているのだ。」とWWFカナダ支部のエーウィンス氏は憤りを隠しません。ここでアーヴィアト村落のごみ廃棄場に現れたホッキョクグマの映像を御紹介しておきます。


こうしたホッキョクグマたちは本来は食料ではないものを食べていることもあるわけで、そういったことから言っても決して彼等のためにはならないわけですが、こうした廃棄物の管理もヌナブト準州では遅れているそうで、こうしたことの解決も人間とホッキョクグマの不幸な遭遇の機会を減らすことに重要なことであるとエーウィンス氏は語っています。アーヴィアト村落に次から次へと姿を見せるホッキョクグマたちに対する対応としては "Polar Bear Patrol" の人員の不足があげられヌナブト準州のハドソン湾西岸地域の村はいずれも対応に苦慮しているようです。

チャーチルの街の “Polar Bear Jail”、つまり「ホッキョクグマ保護(強制)収容施設」を設置することによって街に現れて問題を起こしたホッキョクグマたちへの対処法は非常に賞賛される場合が多いわけですが、問題のあるホッキョクグマたちをチャーチルの街がハドソン湾西岸の北側の村落に放り投げているという印象を持ちつつあるようです。問題の解決にはやはり自然保護官の増員を行い、そしてごみ投棄場なとを極力作らない徹底的な廃棄物管理を推し進める以外に当面のところは有効な手段はないようです。なかなか難しいですね。人間とホッキョクグマとの遭遇によって引き起こされる問題はチャーチルのことだけ調べていてもわからないということに気付かされます。野生のホッキョクグマと人間との関わり合いについて同じハドソン湾西岸に住む人々の間での人間同士の対立に発展していくとすれば、問題は相当に複雑になっていきます。そうなると結果的にはホッキョクグマたちにとっても何もよいことがありません。こういった件については今後も情報を集めていきたいと思っています。

(資料)
CBC (Feb.28 2016 - Polar bear encounters with humans on the rise, more put in Churchill jail) (Apr.6 2016 - Nunavut's polar bear problem growing in Hudson Bay communities)

(過去関連投稿)
カナダ・ニューファンドランド島で民家に押し入ったホッキョクグマが射殺される
カナダ・ニューファンドランド島で再びホッキョクグマが射殺 ~ カナダ警察による 「緊急処置」 との説明
カナダ・ニューファンドランド島で目撃されたホッキョクグマがまた射殺される
カナダ・ニューファンドランド島で目撃されたホッキョクグマ、生け捕りにされ無事に無人地帯に移送される
カナダ、ニューファンドランド・ラブラドール州でまたホッキョクグマが射殺される
カナダ・ニューファンドランド島で無許可でホッキョクグマを射殺した男が訴追される
カナダで人里に現れたホッキョクグマに対する2つの事件への自然保護官の対応
カナダ・マニトバ州、チャーチルのホッキョクグマ保護収容施設 (俗称 “Polar Bear Jail”) について
(*ヌナブト準州関連)
カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克
ワシントン条約(CITES)第16回締結国会議とホッキョクグマの保護について ~ 賛成できぬWWFの見解
カナダ北部・ヌナブト準州のアーヴィアト村落で試みられた「ホッキョクグマとの衝突軽減計画」が大きな成果
温暖化による海氷面積減少にも影響を受けず生息数が減らないチュクチ海地域のホッキョクグマたちの謎
カナダ北部・ヌナブト準州のアーヴィアト村落に現れるホッキョクグマたち
カナダ北部・ヌナブト準州のアーヴィアト村落が増大するホッキョクグマの来訪に手を焼き新方法を考案
カナダ北部・ヌナブト準州、アーヴィアト村落のハロウィン行事はホッキョクグマを避け屋内で行うことが決定
by polarbearmaniac | 2016-04-08 01:00 | Polarbearology

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