街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア極東・沿海州 ハバロフスク動物園のイョシのサーカス時代 ~ サーカス適性は雌(メス)が上か?

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イョシ (Белый медведь Ёши) 
Photo(C)ГТРК "Дальневосточная"

今年の2月にロシア南部のロストフ動物園からサーカス出身のホッキョクグマである推定14歳の雄のホッキョクグマであるイョシが極東・沿海州のハバロフスク動物園(正式には「シソーエフ記念・プリアムールスキー動物園」 - Зоосад Приамурский имени В.П. Сысоева)に移動してきたことはすでにご紹介していました。ハバロフスクでの報道によりますと実はこの彼の「イョシ」というのは日本語の名前だそうで、「吉」つまり幸運を意味するものとして命名されたそうです。そうだとは全く知りませんでした。サーカス団で付けられた名前だと思いますが、団員の中に日本に行った人がいるのではないかと思います。
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さてこのイョシですが、地元のハバロフスクでは大変な人気だそうでこの動物園を訪れる来園者は全て彼の名前を知っていてそれで呼びかけるために、彼はあたかも自分の名前が「イョシ」であることを知ってでもいるようにそういった声の良く反応するそうです。彼はロシアでも気候の温暖なロストフからこの冬の気候の厳しい極東のハバロフスクに移動してきたわけですが、当初はストレスを感じていたそうで、なかなか寒さにも慣れなかったようです。やはり寒さに強いはずのホッキョクグマといえどもそういうことはあるようです。ハバロフスク動物園はこのイョシがここで繁殖に成功することを期待しており、それまでの飼育展示場を改装して産室なども用意した件についてはすでにご紹介していました。問題はやはりパートナーでしょう。このイョシの入手を欧州の複数の欧州の動物園も狙っていたわけで、それは何と言っても彼は野生出身であるという血統的な強みがあるからです。
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ハバロフスク(プリアムールスキー)動物園 Photo(C)AmurMedia

彼は2002年の春に極北のカラ海で孤児となっていたところを保護されたそうで、その後は動物園で飼育されるのではなく、その年の6月にモスクワのサーカス団に移されてスケートの演技を訓練されたそうです。しかしなかなか訓練でもうまくいかずに、サーカス団は彼を「お払い箱」にして2004年の4月にサンクトペテルブルクのレニングラード動物園が引き取ったというわけです。このイョシが何故サーカスでの訓練がうまくいかなかったかについて、その当時の事情を知るレニングラード動物園は彼はサーカスでの訓練には「気乗りがしていなかった(ロシア語の ”крутой” にはいろいろな意味があるので非常に難しいのですが、一応こう訳しておきます)」ということだったそうです。このイョシがレニングラード動物園時代に健康チェックの「トレーニング」を受けている貴重な映像がありますのでご紹介しておきます。これはサーカス団での演技の訓練ではありませんから彼は従順です。



現在ロシアのサーカス団で唯一演技を行っている四頭のホッキョクグマたちは全て雌(メス)だったはずで、またさらにスケートの演技を引退したラパも雌(メス)だったわけです。旧東ドイツのサーカスでも複雑な演技を行っていたフロントラインは全て雌(メス)だったはずです。そうしたことを考えると少なくともホッキョクグマに関してはサーカスでは雄(オス)よりも雌(メス)のほうが適応性が強く長続きするということなのかもしれません。サーカスで「失格」の烙印を押されたのは、思い出してみれが雄(オス)がほとんどです。ともかくこうして彼は2010年の12月にレニングラード動物園からロストフ動物園に移動したわけでした。昨年の9月に私はロストフ動物園で彼に会うことができたわけですが、その彼は今年の2月に日本からも非常に近いハバロフスクに移動してきたというわけです。
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イョシ Photo(C)AmurMedia

この5月には250立方メートルの容積のある新設されたプールに水を入れて「プール開き」を行うそうです。今のところイョシは非常に小さなプールだけを使用しているそうですが、体が白くなってホッキョクグマらしい姿になっているそうです。最新の報道でこの動物園を簡単に紹介したTVニュースの映像がありますのでご紹介しておきます。今年同園で話題となるであろう動物たちが紹介されています。開始後1分20秒以降にイョシが登場しています。



日本のホッキョクグマ界にこれから新しい野生の血を導入するということは事実上不可能となっています。そういったことで日本のホッキョクグマ界の血統の多様性をある程度であれ維持しようということは極めて困難であるのが現実でなのです。一つの考え方として私は「北海道・ロシア極東、動物園繁殖協力共同体」とでもいう構想を実現し、BLによって北海道の動物園にロシアの野生個体の導入を可能とすべく共同の繁殖計画構築を狙ってみてはどうかと思うわけです。その実現性はともかくとして、そういった思い切った考え方でもしない限り日本の飼育下のホッキョクグマの繁殖はすでに血統的な行き詰りにきてしまっているわけで、それに対する何らかの打開策を考えねばならないのです。そうしませんと、イコロの息子とキロルの娘をペアにせざるを得ない状況が近未来には不可避となってくるわけです。そういった状況を少しでも遅らせようとすれば、やはり日本の近くに存在しているロシア極東、東シベリアあたりに目を向けていくくらいの大胆さがないと、日本のホッキョクグマ界は壊滅的な状態となる日は近いでしょう。ロシア極東、東シベリアといった地域は最近ホッキョクグマ飼育への熱意が大きく、飼育展示場の新設や大改修に乗り出しています。こういった地域の動物園に今後野生孤児が保護、飼育される可能性は大きいわけです。
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イョシ Photo(C)AmurMedia

欧州の動物園はこのイョシが野生出身個体ではあるもののロシア政府の自然管理局 (RPN - Федеральная служба по надзору в сфере природопользования) が何らの権利も持たないために彼をロシア国外に出すことができるということで(つまり野生出身個体入手の一種の「抜け穴」)を十分知っていて入手を狙ったのは当然のことなのです。「イョシ/デア」....私はこの組み合わせを過去に提案したのですが、仮に万が一にでもそれが実現していれば血統的優位性において「イコロ/デア」「キロル/ミルク」の組み合わせなど物の数ではないわけです。「第三の血統」をほぼ可能にする組み合わせだったわけです。「イョシの入手」などと言えば日本では冗談話として笑われますが、欧州の複数の動物園は真剣にそれを狙ったというわけでした。そしてそれは成功の寸前までいっていたわけでした。しかしハバロフスク動物園の園長さんの熱意で政治的なコネクションを用いて最後の段階でようやくイョシの入手に成功できたことを園長さんは語っています。

日本でロシア語でロシアのことを研究しようという人は「文学」か「政治」かのどちらかの分野を研究する人がほとんどで、それ以外の分野に興味を持つ人はほとんどいないわけです。しかしこうやってロシア語でホッキョクグマやら動物園事情を調べていくと、ロシアにおける環境保護の問題やらロシア社会の構造的な問題点やら、あるいはロシアの地方都市での公共事業の予算配分の問題など、いくつもの興味深い内容に触れることになり非常に勉強させてもらっていると思います。「謎の国ロシア」は非常に興味深い事象に満ち溢れているからです。

(資料)
ГТРК "Дальневосточная" (Apr.15 2016 - Пробуждение в зоосаде "Приамурский")
ВОСТОК-МЕДИА (Apr.16 2016 - Сегодня в зоосаде "Приамурский" пройдёт "Пробуждение")
AmurMedia (Mar.17 2016 - Маршрут выходного дня: В гости к хабаровскому "конькобежцу" Умке с нелегкой судьбой)
Newstube (Aug.14 2010 - Ленинградскому зоопарку - 145 лет)

(過去関連投稿)
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by polarbearmaniac | 2016-04-18 09:00 | Polarbearology

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