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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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「レニングラード封鎖(Блокада Ленинграда)」の危機を乗り切ったレニングラード動物園

「レニングラード封鎖(Блокада Ленинграда)」の危機を乗り切ったレニングラード動物園_a0151913_2245616.jpg
(C)Ленинградский зоопарк

今回の熊本地震で被災された方々には本当にもう何と申し上げたらよいかわかりません。避難所で不自由な生活を送っている方々には希望を失っていただきたくないと思いますが現実は当分の間はなかなかそうさせてはくれないものと思います。

第二次大戦の欧州における東部戦線でドイツ軍が当時のソ連の大都市であったレニングラード(現在はサンクトペテルブルク)を約900日間(1941年9月から1944年1月)近く包囲したことは「レニングラード封鎖(Блокада Ленинграда)」、または「レニングラード包囲戦(Siege of Leningrad)」などと呼ばれるわけですが、この期間中にレニングラードは食料や燃料その他の補給線をほぼ絶たれ、完全に孤立してしまったわけです。
「レニングラード封鎖(Блокада Ленинграда)」の危機を乗り切ったレニングラード動物園_a0151913_22201062.jpg
この当時レニングラードには約320万人の人口があったわけですが、食料不足によって当然配給制が実施され、肉体労働者は1日にパン500g、労働者と子供は300g、その他の市民は250gと定められたそうです。冬となって食料が切れた市内には飢餓地獄が訪れ、死体から人肉を食らう凄惨な状況が常態化したそうです。燃料欠乏に冬の寒さが加わり餓死者が続出し、またドイツ軍による空襲による犠牲者も入れて市民だけで約110万人から130万人(ソ連時代の公式発表は犠牲者のうち餓死者だけで67万人、アメリカの研究者は犠牲者総数は市民と戦闘員合わせて150万人といったように死因や死者に戦闘員を含めるかなどで数字が異なってきます)の犠牲者をこのレニングラードという一都市だけで出したわけです。日本本土における民間人の戦災死者数の合計(東京大空襲、沖縄戦、広島・長崎を含む全て)を上回るということだそうです。この「レニングラード封鎖」について非常にうまく要約した5分ほどの映像がありますのでご紹介しておきます。音声はonにして下さい。これはいくつかある「レニングラード封鎖」を紹介・解説した映像の中でも短く最も見事に編集されたものです。



さらに次の映像は回顧形式で英語で語られていますが、やや長いです。



この下の映像も長いですが見応えがあります。ロシア語です。



さて、こういった当時の状況の中でレニングラード動物園はどう対応したかということです。1941年9月から始まった「レニングラード封鎖」ですが、その年の7月に同園は重要だと考えた80頭の動物たちを事前にカザン、その他の都市に「疎開」させたわけです。黒豹、トラ、ライオン、ジャガー、ケブカサイ、希少種のサル、そしてこの中にホッキョクグマも含まれていたわけです。ですからホッキョクグマたちは「レニングラード封鎖」という困難な時期にはレニングラードにはいなかったということです。しかし残されたバイソン、鹿、ゾウ、カバ、ロバ、サル、ダチョウ、クロハゲワシ、その他たくさんの小動物たちが問題です。ドイツ軍による「レニングラード封鎖」が始まった1941年9月8日の夜にドイツ軍のよる空襲があり、レニングラード動物園の獣舎などにも命中して動物たちに多大な犠牲が出たわけです。この下の当時の同園の案内図のうち赤く記された場所が爆弾が命中した場所ですが、一番左端のホッキョクグマ飼育展示場にも見事に被害があったいうわけです。事前に疎開していなければホッキョクグマたちも犠牲になっていたでしょう。
「レニングラード封鎖(Блокада Ленинграда)」の危機を乗り切ったレニングラード動物園_a0151913_1946473.jpg
さて、この時のドイツ軍の空襲で犠牲になった動物たちのうちでは市民に愛されていたベティという象も含まれていました。このベティは園内に葬られたそうです。空襲とあってはスタッフも全くなすすべがなかったということでした。
「レニングラード封鎖(Блокада Ленинграда)」の危機を乗り切ったレニングラード動物園_a0151913_20205813.jpg
空襲で死亡した象のベティ (C)Ленинградский зоопарк

さて、1941年から1942年の冬到来までに石油と石炭も尽き電力の配給がストップし唯一の燃料は倒木だったそうです。さらに水道も止まり、その冬に到来した厳しい寒波のために亡くなる動物たちが出てきたわけです。動物たちへの飼料の確保にスタッフは忙殺されることになります。園内や近くの公園で栽培していた野菜を集めたりなど必死の努力が続いたわけでした。1942年の夏に動物園は再び開園し、園内で残っている100頭もの動物たちを市民に見せることができたというわけです。来園者数は夏だけで7400人だったそうですが、市内中心部からは歩いて距離のあるこの動物園の位置を考えれば随分と多かったということになります。その他いろいろな悲しいエピソードも多くあるのですが長くなりますのでこの辺にしておきます。さて、こうして「レニングラード封鎖」を何とかのりきった同園のスタッフの行為は「英雄的」であると現在も多くの賞賛を浴びているわけです。この「レニングラード封鎖」時代のレニングラード動物園の歴史を簡単に紹介した映像がありますのでご紹介しておきます。



レニングラード動物園のホッキョクグマ飼育展示場の近くに、この「レニングラード封鎖」時代からの建物が残っており現在内部は小さな資料展示場となって公開されているそうです。申し込むと担当者と一緒に入れてもらえるそうですが私はまだ入ったことがありません。この建物の横を通るとき、これは当時のものだとわかって非常に興味深く外から眺めているだけでした。当時の写真とかプレートとか、飼料のサンプルなども当時の飼育員さんの部屋を利用して展示されているようです。その映像をご紹介しておきます。





さて、この「レニングラード封鎖」時代のこの街の人々の暮らしについて、息詰まるほどの苦しさを感じさせてくれる本があります。それはロシアの大歌手だったガリーナ・ヴィシネフスカヤ(Галина Вишневская) の回想録である「ガリーナ自伝―ロシア物語」(みすず書房)です。現在は絶版になっているかもしれませんが、英語版("Galina: A Russian Story") ならば入手可能です。この本で読む彼女自身がレニングラードで体験した「レニングラード封鎖」時代の生活は言語に絶する印象を持ちました。いったいどうやったらこれ以上つらい生活がありうるのか、全く理解できないほどです。最近出版された本では「レニングラード封鎖: 飢餓と非情の都市1941-44」(白水社)があります。内容はクリックしていただいてレビューされている方々が全て述べている通りです。この二冊の本でいえば私は最初の本のほうが個人としての体験を語っているという点で心に残る感じがします。しかしどうであれ、熊本市動植物園のスタッフの方々はまさに「レニングラード封鎖時」のレニングラード動物園のスタッフの方々と近い状況にあるということでしょう。なんとかうまく乗り切っていただればと祈っています。

(資料)
Wikipedia (Siege of Leningrad) (Effect of the Siege of Leningrad on the city)
Аргументы и Факты (Sep.8 2013 - Непокоренный город. 10 фактов о блокаде Ленинграда)
EyeWitness to History (The Siege of Leningrad, 1941 - 1944)
World War II Database (Siege of Leningrad)
THEN AND NOW: LENINGRAD BLOCKADE 1941-44 (by Sergey Larenkov)
Ленинградский зоопарк (Зоосад в годы Великой Отечественной войны и блокады Ленинграда (1941-1945)) (Белый медведь - символ Ленинградского зоопарка)
English Russia (Saving Animals of the Sieged City)
Batona.net (Зоопарк во время блокады Ленинграда)
ロシアNow (包囲下のレニングラード
スプートニク(Jan.28 2016 - レニングラード包囲戦)

(過去関連投稿)
ロシアのマスコミ、カイ(仙台)とロッシー(静岡)の地震・津波からの無事を大きく報じる
熊本市動植物園の動物たちは全て無事が確認! ~ 同園が本日深夜の午前2時頃に正式発表
熊本市動植物園、及び日本動物園水族館協会(JAZA)よりの発表
by polarbearmaniac | 2016-04-19 00:30 | 動物園一般

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