街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園の22歳のフギースの繁殖へのさらなる挑戦

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フギース (Белая медведица Хугис)
(2015年5月1日撮影 於 オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園)

欧州屈指のホッキョクグマの繁殖基地であるオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園(Ouwehands Dierenpark Rhenen)で飼育されている現在22歳の雌のホッキョクグマであるフギース(フヒース - Huggies)については彼女の長女であるフリーダム (Freedom)と共に、この一つ前の投稿でご紹介した通りです。彼女は現在まで7頭の子供たちの出産・成育に成功している欧州の「横綱格」のホッキョクグマです。考えてみれば札幌のララは8頭の子供たちの出産・成育に成功しているわけで(リラは当然生後半年以上になっていますのでもう成功例にカウントできるわけです)、この8頭という数については現在欧州ではララを凌ぐ母親は存在していないわけです。これは欧州では「3年サイクル」の繁殖を採用しているものの日本やロシアでは「2年サイクル」の繁殖を採用しているという違いによって繁殖成功頭数の観点ではララに有利に働いているという考え方もできるでしょう。
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フギース (Huggies the Polar bear)
(2015年5月3日撮影 於 オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園)

さて、このフギースの最近の出産は2011年12月1日に雄のルカと雌のリンを出産した時であり、私は翌年の3月にモスクワ動物園でシモーナの産んだ三つ子の公開後の姿を見た後にオランダに飛び、このフギースの育児を終日じっくりと観察することができました。実はこのアウヴェハンス動物園におけるフギースのパートナーだった雄のヴィクトルはフリーダムのパートナーでもあったわけで、彼の血の入った個体が多く誕生したことによってヴィクトルはEAZAの繁殖計画からは外されてしまい、イギリスのヨークシャー野生動物公園に移動したのは2014年8月のことでした。その年の春にヴィクトルと繁殖行為を行っていたフリーダムは年末の2014年11月22日に二頭の赤ちゃんを出産したわけで、この雄のアキアクと雌のスラについても昨年私は現地でゆっくりと観察ができました。繁殖の順番でいけば昨年2015年はフギースが繁殖に挑む年だったわけですが、雄のヴィクトルがイギリスに去ったためにフギースにはパートナーがいなくなってしまったわけで彼女の昨年は繁殖からは遠ざかったシーズンとなってしまったわけでした。果たして彼女は今後繁殖に関してはどうなるのかと思っていたわけですが、ドイツのニュルンベルク動物園のやはり繁殖に関しては欧州での「横綱格」である14歳の雄のフェリックスが昨年11月にシュトゥットガルトのヴィルヘルマ動物園経由でアウヴェハンス動物園に移動し、そして今年2016年にフギースと共に繁殖に挑むこととなった件については過去関連投稿をご参照下さい。アウヴェハンス動物園の22歳のフギース、そしてすでに三頭の雌を出産させて合計6頭の子供たちの父親となった実績を引っ提げて同園に出張してきたフェリックス、この二頭の春先の様子とこのペアについて語っている同園の担当者の話をニュース映像でご紹介しておきます。



そしてこの下は今年の1月26日のこの二頭の映像です。



そして今年の2月19日の映像ではこの二頭の繁殖行為が確認できます。



なにしろ繁殖には実績のあるこの二頭であり、今年の年末のフギースの出産の確率は極めて高いと考えられます。一昨年の暮れの出産シーズンで私は世界のホッキョクグマで出産が確実と考える3頭のホッキョクグマを世界の 「大本命(S)」 の 「三羽烏」としてSランクを付けたことがありました。それはモスクワのシモーナ、札幌のララ、そしてレネンのフリーダムという3頭でした。そしてこの三頭は全て順調に出産したわけです。昨年についてはアメリカ・トレド動物園のクリスタルがやはり「大本命(S)」の最高ランクだったわけで、やはり彼女も順当に出産したわけです。今年の繁殖シーズンについてはまずこのフギースが文句なく最高ランクの「大本命(S)」のホッキョクグマでしょう。こういった「大本命(S)」ランクというのは、それこそ世界トップクラスのレベルの母親たちであるということです。2~3年後にはこういったクラスに仲間入りすることが確実なのはノヴォシビルスク動物園のゲルダでしょう。ただし、ゲルダには育児能力という点ではまだ課題が多いわけです。現時点では上に挙げた大物たちには、とてもまだ及ばないということです。特にシモーナやララには大きく水をあけられていると思いますし、フギースにも到底及びません。以下、2012年3月の映像ですが、フギースが双子の赤ちゃん(ルカとリン)と一緒に昼寝している映像です。親子は一緒に寝ているわけです。



そして同じ時期に私が撮った次の映像を見て下さい。赤ちゃんたちが活動的であるときにはフギースも歩き回って活動的になっているのです。



こういった姿を見ただけでもフギースの母親としての能力の高さというものがわかるのです。つまりフギースは自己の活動量を子供たちの活動量と一致させることができているからです。これはシモーナやララやフギースにはできてもゲルダにはまだ無理なのです。

さて、話をまたフギースに戻しますが、彼女は今年年末の確実な出産のあとに約2年間の育児期間があり、さらにその次に繁殖に挑むとすればそれは2019年のことになるでしょう。その時に彼女は25歳となるわけですが、その時点でさらにもう一度繁殖に挑むかどうかということです。その場合パートナーが問題となってくるでしょう。再びフェリックスの出張があるか、それとも他の雄かということです。欧州域内の雄の個体たちがここ2~3年にどのような活躍を行いどのような成果をあげていくかによってフギースの2019年の繁殖挑戦の成否が大きく影響されてくるでしょう。このフギースのような繁殖経験のあるホッキョクグマの場合は25歳でもさらに繁殖に挑ませるということは決して回避すべきことにはならないということです。ところが、繁殖成功経験のない個体の場合ですと大いに問題となるだろうと私は考えています。この差異は体力的な消耗という要素に対する耐性、慣性といったもので説明が付くと考えます。そういう身体的・生理的リズムが確立しているのがウスラーダに代表されるタイプのホッキョクグマの特徴であり、こういったタイプは出産や育児を自らの体調のリズムに合わせる術を会得していることに間違いないだろうと思われます。フギースもそういったタイプでしょう。下は昨年11月下旬のフギースの姿ですが、通常ならば彼女は産室入りしている時期なのですが昨年の春には彼女にはパートナーがいなかったため、こうしてこの時期にも歩き回っているということなのです。彼女はこうして神経質に何か落ち着きなく動いているよりも、出産準備で産室に入っているということが彼女の精神と健康にはむしろプラスだろうと思います。つまり彼女は繁殖の舞台に立っているほうがその本領を発揮でき、そして健康でいられるという感じを強く持ちます。



欧州のホッキョクグマ界、なかなかおもしろいですね。外野のファンは大きく騒ぐものの肝心の主役たちの活躍に今一つ精彩のない日本とは逆に、欧州のファンは静かに見守り主役たちは大いに活躍するというのが欧州のホッキョクグマ界です。しかしその欧州といえども、主役たちの個性の強さ、魅力という点ではロシアの動物園のホッキョクグマたちには及ばないのです。飼育環境の整備された欧州のホッキョクグマたちは「優等生」タイプが多いわけですが、貧弱で立ち遅れた飼育環境に暮らすロシアのホッキョクグマたちは「大物」タイプが多く、彼らは人生(Bear's life)を彼ら独自の強い個性で楽しんでいるようにすら見えます。ホッキョクグマ界というのはやはり地域でかなり様相を異にしているというのは事実です。

(*追記)オランダ語の発音と日本語表記は同国に居住経験のある私にとっても非常に難しいです。上でご紹介した映像のうちニュース映像でのナレーターの発音は非常に助かります。まず "Ouwehands" ですが、これは「アウヴェハンス」と発音しています。そして "Huggies" ですが、これも「フギース」と発音しています。この-gg と綴りが重なるのがオランダにはあまりない綴りですね。通常は "Hugies" と綴るはずで、これならばオランダでは「フヒース」と発音するのですが、このホッキョクグマの場合は "Huggies" ですので、この場合は「フギース」となるというのが正解らしく、本ブログでは以前からそう表記していますが、時々「フヒース」も併記することにしています。それから地名の "Rhenen" ですが、これは耳で聞くと「レーネン」と聞こえるのですが、実は最初の音に強いアクセントがあるために「レー...」と聞こえ易いということにすぎず、私は「レネン」と表記しています。これについては表記というものの考え方の違いもあり、非常に微妙です。オランダ語(そしてデンマーク語)には唯一の正しい日本語表記はない言語であるという理解をせざるを得ません。本ブログでは海外のホッキョクグマを多く取り上げますので、彼らの名前についてはいつも緊張感を持って最大限の注意で日本語表記を行っているつもりです。

(資料)
veenendaalsekrant.nl (Jan.13 2016 - Romantische ontmoeting in Ouwehands Dierenpark Rhenen)
Bild (Nov.25 2015 - Eisbär Felix verlässt seine Corinna und die Wilhelma)
The Telegraph (Polar bear twin dies: one of the cubs born at the Ouwehands animal park in Rhenen, the Netherlands, has died)

(過去関連投稿)
ドイツ・ニュルンベルク動物園、フェリックスの大活躍 ~ 欧州における偉大な雄の素顔
フェリックスさん、はじめまして!
スウェーデン、オルサ・グレンクリット、ベアパークのヴィルベア、静かに 「偉大なる父」 となる日を待つ
ドイツ・シュトゥットガルト、ヴィルヘルマ動物園のアントン、飲み込んだ異物が原因で急死
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ドイツ・ニュルンベルク動物園のフェリックスがシュトゥットガルトのヴィルヘルマ動物園へ ~ 仕事師登場
ドイツ・シュトゥットガルト、ヴィルヘルマ動物のフェリックス、その「天才的」な雌攻略能力の発揮を開始
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オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園のヴィクトルがイギリスのヨークシャー野生動物公園に無事到着
イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルは繁殖の舞台から「強制引退」 ~ 欧州の重大な転機
イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルの姿 ~ 「飼育下の集団の維持」について
欧州屈指の偉大なる母フギースは今何を考える?
ドイツ・ヴィルヘルマ動物園のフェリックスがオランダ・レネンのアウヴェハンス動物園へ
「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(6) ~ Courtship Behavior の位置付け
オランダ・レネン、アウヴェハンス動物園でフギースとフェリックスの同居が開始 ~ 偉大な二頭の出会い

(*アウヴェハンス動物園訪問記)
(2011年5月)
遂にレネン、アウヴェハンス動物園に到着!
シークーとセシ、その伸びやかさと無邪気さの大きな魅力
フリーダムを称える
(2012年3月)
レネン、アウヴェハンス動物園でホッキョクグマたちに御挨拶
アウヴェハンス動物園のフギースお母さんの双子の性格
フギースお母さんの性格と子育て
フリーダムお母さんと1歳になったシークーとセシの双子
(2015年5月)
フリーダムお母さんお久しぶりです、二頭の赤ちゃん、初めまして! ~ レネン、アウヴェハンス動物園へ
欧州屈指の偉大なる母フギースは今何を考える?
アウヴェハンス動物園二日目 ~ 三世代同居の問題点
アウヴェハンス動物園の双子の赤ちゃんの性格と素顔 ~ 「冒険家ちゃん」 と 「甘えっ子ちゃん」
フリーダム、偉大なる母のその素顔 ~ 「細心さ」から「鷹揚さ」を取り込み、咲かせた大輪の花
by polarbearmaniac | 2016-04-26 00:30 | Polarbearology

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