街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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カザフスタン・アルマトイ動物園のアリコルの近況、そして同園のスキャンダルと背後の「黒い影」

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アリコル Photo(C) Дана Толепбекова/Казинформ

中央アジア・カザフスタンのアルマトイ動物園に暮らす26歳の雄のアリコルについては今まで何度も投稿してきました。つい先日も「カザフスタン・アルマトイ動物園がアリコルのパートナー探しを開始 ~ 旧ソ連圏の事情の背景を読む」という投稿で、このアリコルのパートナー探しが報じられる背景の意味について考えてみたわけですが、実はここ数日の報道で同園を取り巻く厳しい状況の存在、そしてその裏側に跋扈している「黒い影」の存在について現地でいくつかの報道がなされており、そこから読み取れるものはこのアルマトイ動物園の存続問題にもつながる極めて不気味な影におびえる善良な市民の存在です。さすがに旧ソ連圏という地域の魑魅魍魎とした状況が反映しているわけです。今回問題となっている事件についてはいくつかのやや異なる見方の報道があるのですが、事実関係はある程度一致していますので、それらを簡単にご紹介しておきます。
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まずホッキョクグマのアリコルの最近についてですが、彼は歯の状態に問題があるそうでモスクワ動物園専属の専門の獣医さんがモスクワからアルマトイに出張してきて彼の歯の診察を行うそうです。下に今年の2月27日の「国際ホッキョクグマの日」におけるアリコルの映像を一つだけ再度ご紹介しておきます。



さて、モスクワ動物園からアルマトイ動物園に出張してくる獣医さんの一番の目的はこのアリコルの歯の診察というよりも、実はアルマトイ動物園で飼育されている6歳の雌のアムールトラのクラライ(Куралай)の診察なのです。このクラライについては重病であるもののアルマトイ動物園はまともな治療もせずに放置された状態であるという現地の動物保護活動家の主張があります。いくつかの事実を重ねあわせてみますと、どうもこの件に関する限りでは現地の動物保護活動家の主張はかなりの部分で正しいようです。このクラライの現在の様子を映像で下にご紹介しておきます。(このクラライというのは間違いなく日本の動物園で飼育されているアムールトラと血統的に近い関係にあるはずです。私は飼育下のアムールトラの血統については無知ですので日本のどの動物園のどのアムールトラと血縁関係にあるかが全くわかりません。)



さて、こういった状況に怒った地元の動物保護活動家のグループが同園の園長さんに面会を求め、そして園長さんを直接非難したわけです。それを報じる地元のTVニュースをご紹介しておきます。





このアルマトイ動物園というのは確かに以前から動物たちへのケアが不十分であるらしいことは、私も過去何年かこうしてホッキョクグマの情報を得るためにいろいろな情報を収集する過程で察しはついていました。ホッキョクグマのアリコルについては確かに施設が狭くて飼育環境は良くないものの、飼育員さんは比較的良くケアを行っていることがわかっていましたので、あえて他の動物たちのことまで深く調べてみようという時間もなかったわけです。しかしこのアルマトイ動物園の現状は決して楽観できるののではないようです。このアムールトラのクラライは病気であるものの満足な治療も施されていない(らしい)ということを現地のマスコミが報道して人々の関心を集めている最中に、実は昨年2015年に一頭のチンパンジーが死亡していたものの同園はその事実をひた隠しにしていたことが発覚しました。飼育している動物が死亡するとその事実と死因をアルマトイ市の担当部門に報告せねばならない規則があるものの同園はその報告を全く行っていなかった事実も判明したわけです。そうなると、このチンパンジーの死因には同園が外部には知られては困る事実があったのではないかという疑念が生じてくるわけです。あるいはチンパンジーの「闇市場」の存在も否定できないように思います。

こういった一連の状況に業を煮やしたのが以前の投稿でもご紹介していました「アルマトイ動物園支援基金(Социальный фонд помощи алматинскому зоопарку)」の理事長である実業家のバタロフ氏です。バタロフ氏は自分でモスクワ動物園にコンタクトし、そして自分が費用を負担してモスクワ動物園専属の専門獣医さんをアルマトイ動物園に出張させてアムールトラのクラライへの診察を行ってもらおうとし、その獣医さんも間もなくアルマトイに到着する予定だそうです。

さて、こういう状況なのですが実はこの得体の知れない実業家であるバタロフ氏というのが何かといろいろな噂のある人物のようです。バタロフ氏は現在のアルマトイ動物園を援助・保護しようとしている背景には、実はこの動物園の運営をアルマトイ市から切り離して自分が理事長を務めている「アルマトイ動物園支援基金」に移行させ、そしてその運営を基金の理事長である自分が行いたいという意思のあることを地元の経済紙とのインタビューで語っているわけです。ところがどうもこのバタロフ氏の考えは、この動物園を市内にある便利なこの場所から他の場所で移転させ、現在のアルマトイ動物園のあるこの場所をバタロフ氏自身が自分の事業のために使用したいというのが本当の真意であるという見方をする関係者がいるのです。現在のこのアルマトイ動物園は市内にあって土地としては利用価値が高いため、その場所から動物園を「追い出し」て、そしてその跡地を自分の事業に利用しようとしているという見方が出てきているわけです。バタロフ氏はアルマトイ動物園で飼育されている動物たちの健康状態について大いに懸念を示しているという態度を見せてはいますが、結局は現在のアルマトイ動物園の運営はうまくいっていないということを逆の意味で世間に印象付け、そして現在の同園の運営を「基金」の側に移したいということが真意であるという読みが出てくるのも当然かもしれません。こういった一連の今回のアルマトイ動物園の混迷を報じる別の地元のTV局のニュース映像をご紹介しておきます。バタロフ氏も登場し、そしてそういった一部の見方を否定する発言を行っています。下のニュース映像で登場しているのはラーダ(Рада)という雌のアムールトラのようです。ちなみにロシア語ではアムールトラ(Амурский тигр) は性別を分けて表現します。雄(オス)の場合は "Амурский тигр"、雌(メス)の場合は "Амурская тигрица" です。ですので述べられている個体の性別がわかるということになります。ホッキョクグマの場合でも同じです。雄(オス)の場合は "Белый медведь"、雌(メス)の場合は "Белая медведица" です。ホッキョクグマの場合はよほど性別を意識しない限りは男性形が使用されるようです。アムールトラについても同じではないかと思いますが何とも言えません。余談になりました。



このカザフスタンという国の社会に存在している複雑な事情、特に根底にある腐敗の構造というものはなかなか外からは計り知れないものがあるようです。それはロシアやウクライナとはまた違った問題点があるように思えます。こういったカザフスタンのような「新興国」において実業家と呼ばれる人物が単に善意だけでそれほど金の儲かるはずもない「動物園事業」に手を出してくるものだろうかという疑問は残ります。一等地とはいえないものの市内の中心にある動物園を郊外に移転させて、その跡地の入手を狙うという状況は旧ソ連圏のような地域においては比較的容易に想定し得ます。私はこのアルマトイ動物園を移転させてその「跡地」を狙おうという勢力があってもおかしくはないと思いますが、それが果たしてバタロフ氏が事業で率いている企業グループなのかづかについては何とも言えないように思います。ともかく今回の事件は現在進行形ですので、その推移には目が離せなくなりました。そして、「影の部分」に存在している「闇の勢力」が間違いなく存在しているということです。

旧ソ連圏(それはスラヴ文化圏をも含み、さらに中央アジアのカザフスタンなどのスラヴ文化圏に大きな影響を受けた別の文化圏の地域にも及んでいるわけですが)、「AはBである。」ということを伝える時に往々にして「XはYである。」という報じ方がされるわけです。その際にはAとXとの関係、そしてBとYとの関係についてある程度推測できる人でないと正しい意味が理解できないというわけです。長年モスクワで勤務されたあの外務省の元主任分析官だった作家の佐藤優さんなどは、実に旧ソ連圏のそうしたことを良く理解していらっしゃる方だと思います。私もこうして数年ホッキョクグマのことを調べるために旧ソ連圏地域の情報をチェックするようになったわけですが、要するに「読む」だけではダメで「読み解く」ことが必要なのがこの地域の情報なのです。おぼろげながらもそうしたことがわかってきたはずの私ですが、このカザフスタンの情報についてはやはりよくわかりません。表面には出ていない「何か」はおそらく明らかなのかもしれないのですが、現在報道されているいくつかの事実とその「何か」との関係がよくわからないということです。

(資料)
31 канал (Apr.29 2016 - Скандал вокруг алматинского зоопарка перешел в другую плоскость)
Казахстанский портал NUR.KZ (Apr.29 2016 - Скандал вокруг алматинского зоопарка мог начаться из-за лакомого куска земли)
Инфополис (Apr.30 2016 - Ветеринара из Москвы позвали в Алматы для лечения больной тигрицы Куралай)
365info.kz (Apr.28 2016 - Алматинский зоопарк погибает под обещания директора все исправить) (Apr.28 2016 - В зоопарке Алматы умер шимпанзе, заболела еще одна тигрица)
Forbes Казахстан (Apr.30 2016 - Баталов готов взять алматинский зоопарк в доверительное управление)
(*追加資料)
ТЕЛЕКАНАЛ КТК (Apr.26 2016 - Новый скандал в алматинском зоопарке: больную тигрицу лечат шаманы)
(Apr.27 2016 - Полосатая королева алматинского зоопарка действительно на грани смерти)
(Apr.28 2016 - Ужасы нашего зоогородка: новые дикие подробности жизни животных)

(過去関連投稿)
カザフスタン・アルマトイ動物園、アリコルの独居の「孤独」
カザフスタン ・ アルマトイ動物園に暮らすアリコルへの朗報 ~ 動物園大改修計画による飼育環境改善へ
カザフスタン・アルマトイ動物園のアリコルの近況 ~ 地元のファンの温かいまなざし
カザフスタン・アルマトイ動物園の「国際ホッキョクグマの日」のアリコルの姿 ~ 氷のケーキのプレゼント
カザフスタン・アルマトイ動物園のアリコルの夏の日 ~ 情報の少ない旧ソ連圏のホッキョクグマたち
カザフスタン・アルマトイ動物園のアリコルが飼育展示場で三匹の猫たちと平和に共存
カザフスタン・アルマトイ動物園、アリコル(Алькор) の「国際ホッキョクグマの日」
デンマークのオールボー動物園が雌のメーリクとヴィクトリアのパートナー候補の雄を世界中に求めて調査中
カザフスタン・アルマトイ動物園がアリコルのパートナー探しを開始 ~ 旧ソ連圏の事情の背景を読む
by polarbearmaniac | 2016-05-02 06:00 | Polarbearology

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