街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

イギリス・ヨークシャー野生動物公園で暮らす四頭の雄たち ~ 「集中基地システム」の持つ別の意味

a0151913_063963.jpg
ニッサンとノビ Photo(C)Yorkshire Wildlife Park

イギリスのサウス・ヨークシャー州 ドンカスター近郊にあるヨークシャー野生動物公園(Yorkshire Wildlife Park) は総面積110ヘクタール(110万㎡ - つまりズーラシアの約2倍強)の膨大な広さを有し、そのなかでホッキョクグマが飼育されている "Project Polar Reserve" は10エーカー(約4万㎡)という面積を誇っています。このヨークシャー野生動物公園は欧州におけるホッキョクグマ繁殖のための雄(オス)の幼年・若年個体の「集中基地」として、彼らが繁殖可能な年齢となるまでプールされる場所として機能し始めたことは今までも何回が御紹介しています。ちなみに雌(メス)の幼年・若年個体の「集中基地」はオランダのエメン動物園の新飼育展示場となるわけです。
a0151913_1431662.jpg
(C)Yorkshire Wildlife Park

現在このヨークシャー野生動物公園に暮らしているホッキョクグマは雄の四頭であり、2012年の11月にオランダ・ヌエネンの 「動物帝国 (Dierenrijk)」 で誕生した3歳のピクセル(ピセル)、2013年12月にロシアのイジェフスク動物園 (Зоопарк Удмуртии - ウドムルト動物園)で誕生した2歳のニッサン、2013年12月にドイツ・ミュンヘンのヘラブルン動物園で誕生した2歳のノビという三頭の若いホッキョクグマに加えて、オランダ・レネンのアウヴェハンス動物園で長年飼育されてきたものの繁殖に多くの実績を残したために繁殖計画からは引退となった16歳の雄のヴィクトルも暮らしているわけです。
a0151913_1373235.jpg
ニッサンとノビ (C)Yorkshire Wildlife Park

さて、こうした雄ばかりの四頭を飼育しているヨークシャー野生動物公園ですが、年少のニッサンとノビの二頭が同じスペースを共有し、そしてピクセル(ピセル)とヴィクトルに二頭が別のスペースを共有するという形で同居が行われているようです。とりわけニッサンとノビは大の仲良しになってしまったようです。それはノビが今年の2月にミュンヘンから移動してきたあとからすぐにニッサンとは非常に相性が良くなり、そして現在に至っているそうです。このニッサンとノビの二頭の様子を映像で見てみましょう。



a0151913_134965.jpg
ヴィクトルとピクセル(ピセル)Photo(C)Yorkshire Wildlife Park

さて、一方でヴィクトルとピクセル(ピセル)ですが、この二頭には13歳の年齢差があり、やはりピクセル(ピセル)はヴィクトルに対して若干遠慮気味のようです。この二頭の様子を見てみましょう。陸上で背中を地面に擦っているのがピクセル(ピセル)、水の中にいるのがヴィクトルです。



こういったように実は雄同士を同居させるのはかなり神経を使うわけで、相性が極めて悪いと最悪の場合は闘争といった結果を招いてしまうわけですが、この四頭については最初から全く問題が無かったようです。こういったことがうまくいった大きな理由の一つは雌(メス)が全く存在していないということだからでしょう。以前に「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(9) ~ 同居を許容しうる雌雄の頭数構成 という投稿を行っていますが、その中で同居を許容するパターンとして「C.Group of multi-males (雄だけの2頭以上 - 条件付き)」という項目を挙げているのですが、このヨークシャー野生動物公園の場合はまさにその条件に合致しているわけです。欧州の「集中基地システム」は雄(オス)と雌(メス)にそれぞれ分かれて二つの基地を設けるシステムはこれに合致していて都合が良いということにもなります。

さて、ここで今年の「国際ホッキョクグアの日」におけるヨークシャー野生動物公園の様子を御紹介しておきます。



こういった広々とした場所で彼らは繁殖可能となる年齢まで過ごすわけですから理想的な環境と言えるわけですが、次に彼らが移動する場所は、たとえ欧州内であってもこのヨークシャー野生動物公園に匹敵するほどの環境の良さはなかなか見出し難いわけです。デンマークのスカンジナヴィア野生動物公園ならばこのヨークシャー野生動物公園に優るほどの環境なのですが、そこには現在2012年11月生まれのネヌとヌノの雄と雌の双子が誕生以来暮らしており本来は雄のネヌはこの「集中基地」であるヨークシャー野生動物公園に移動してくるのが当然なはずなのですが、それがなされていないということを見ると、実はこの「集中基地システム」は単に幼年・若年個体を雄と雌に分けて一か所でプールするということと同時に、そういった若い個体たちを非常に環境の良い場所で若い時を暮らさせてやるという意味もあるということを示しているように思います。スカンジナヴィア野生動物公園にはその環境が十分にあるために、あえてネヌとヌノを「集中基地」となっているヨークシャー野生動物公園(あるいはエメン動物園)に移動させる必要はないということを意味しているように思います。

もう事実上は「マニトバ基準」などというものは過去の異物のようなものであり、現在ではそういった基準を無意識的に乗り越えてしまっているのがこうした欧州のスカンジナヴィア野生動物公園、ヨークシャー野生動物公園、スコットランドのハイランド野生公園に代表される場所なのだということです。こういった欧州を相手に日本のホッキョクグマ界がホッキョクグマの繁殖について協力関係が構築できるかと言えば、それは極めて難しいということなのです。となれば、やはり日本のホッキョクグマ界が頼りにすべきなのはロシアなのです。ただしかし、ロシア(特にクラスノヤルスク動物園やゲレンジークのサファリパークなどのように野生個体を有している動物園)だけを繁殖計画のパートナーにするのでは、もう血統的に行き詰っている日本のホッキョクグマ界には不十分な段階となってしまっているのが頭の痛いところなのです。「ダメで元々」で欧州へのアプローチはやはり必要でしょう。

(資料)
South Yorkshire Times (Feb.19 2016 - Polar bears meet up at Wildlife Park for first time)
ITV (Feb.19 2016 - When Nobby met Nissan: Polar bears meet at Yorkshire Wildlife Park)
Daily Mail (Feb.21 2016 - Heart-warming video shows the moment two polar bears become instant best friends as they go for a swim together the very first time they meet)

(過去関連投稿)
イギリス・ヨークシャー野生動物公園のヴィクトルの姿 ~ 「飼育下の集団の維持」について
イギリスのヨークシャー野生動物公園に移動した二歳の雄のピセル ~ 「基準」を超えた環境へ進む欧州
モスクワ動物園の生後22ヶ月の雄のニッサンがイギリスのヨークシャー野生動物公園に到着
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブルン動物園のネラとノビの双子が同園を出発、オランダとイギリスに到着
(*「集中基地システム」関連)
欧州がホッキョクグマの幼年・若年個体をプールする 「集中基地」 を計画 ~ 雌はオランダ、雄はイギリスへ
オランダ・ヌエネン、「動物帝国」のピセルがイギリスへ ~ 欧州の若年個体「集中基地システム」が発動
オランダ・エメン動物園、来春に新施設が完成 ~ 幼年・若年個体集中基地システムの機能拡充へ
by polarbearmaniac | 2016-05-09 23:55 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ロシア・西シベリア、ボリシェ..
at 2017-08-18 02:00
*新規投稿お知らせ
at 2017-08-17 23:00
ロシアのクラスノヤルスク環境..
at 2017-08-17 01:30
チェコ・プラハ動物園のホッキ..
at 2017-08-16 01:30
ロシア・サンクトペテルブルク..
at 2017-08-15 01:30
ロシア・ウラル地方、エカテリ..
at 2017-08-14 01:30
大阪・天王寺動物園のシルカ ..
at 2017-08-13 01:30
フィンランド・ラヌア動物園で..
at 2017-08-12 22:30
カナダ・ウィニペグ、アシニボ..
at 2017-08-11 23:30
ロシア・カザン市動物園のマレ..
at 2017-08-10 21:30

以前の記事

2017年 08月
2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin