街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ウクライナ・ムィコラーイウ動物園のジフィルカとナヌクの背負わされた不幸 ~ "It should have been..."

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ジフィルカ(右)とナヌク(左) Photo(C)Владимир Топчий

モスクワ動物園で2011年11月にシモーナから誕生した三つ子のうちの雌の一頭のジフィルカ、そして2012年11月にチェコのブルノ動物園でコーラから生まれた雄のナヌクが暮らしているのはウクライナのムィコラーイウ動物園です。この二頭がわざわざ政治的な混乱の続くウクライナ、それも地方都市にあるムィコラーイウ動物園に移動してきた経緯は非常に複雑で、チェコとロシアの多くの情報を組み合わせなければ理解できない、まさにスラヴ文化圏・旧ソ連圏ならではの複雑怪奇なものでした。全ては過去関連投稿を御参照頂ければ理解していただけると思いますが、しかしこれらはマニア向けの話が多く簡単には内容を把握していただくことは難しいかもしれません。これらは近年の世界のホッキョクグマ界におけるホッキョクグマの移動で最もその背景を読み取ることが難解であった一件でした。私としては非常にやり甲斐のある情報収集と考察の数々だったわけですが、しかしこのジフィルカとナヌクのムィコラーイウ動物園への移動、そしてナヌクの双子の妹であるコメタのロシア・ロストフ動物園への移動は、結果的には非常に場当たり的で無責任な移動であったと今でも思っています。そもそもその原因はブルノ動物園がEAZAではなくEARAZAの繁殖計画に参加したことにあったわけです。

2012年11月にチェコのブルノ動物園でコーラお母さんが産んだ双子の雌のコメタと雄のナヌクですが、コメタは2014年4月にロシアのロストフ動物園に向け出発し、そして取り残されたナヌクとコーラお母さんはコメタが姿を消してしまったために非常に困惑して動揺してしまったのです。このコーラお母さんとナヌクの姿をチェコのTV局の映像でご覧いただきましょう。音声はonでお願いいたします。



さて、双子のうちブルノ動物園に残った雄のナヌクも翌年2015年1月にウクライナのムィコラーイウ動物園に向けて出発したのですが、これは本来は前年のコメタの移動と同時に行われるはずだったものの、そこには非常に複雑な裏事情によってナヌクの移動が遅れてしまったということだったわけです。ジフィルカもナヌクも、ウクライナのような腐敗した国の動物園に移動してきた不幸を背負ってしまったわけです。ブルノのホッキョクグマファンの方々は今でもこのコメタとナヌクに非常に強い愛直を感じて、おもちゃなどを贈っているわけです。さて、このジフィルカとナヌクの非常に最近の姿を映像で見てみましょう。





日本の動物園がホッキョクグマの繁殖に関して海外と協力しようとするならば欧州のEAZAよりも旧ソ連圏を中心としたEARAZAとのほうがハードルははるかに低いわけですが、しかし仮にEARAZAと協力関係を構築しても今度は日本から移動させたホッキョクグマがいったいどこの動物園に行くことになるかが問題です。中国と違って旧ソ連圏では個体情報を追いかけることが十分に可能なのですが、実際にそうした日本から移動したホッキョクグマが移動先の動物園でどういう生活をしているかは情報が十分ではなく、そして日本から会いに行くといってもかなり難しい場所の動物園に行ってしまうという難点があります。ですから日本のホッキョクグマ界としてロシアと何らかの関係を深めようと思えば、やはり個体の導入(購入)以外にはないと思われます。しかしノヴォシビルスク動物園からシルカに続く幼年・若年個体の二頭目を日本に導入することは、現在ですら瀕死の状態となっている日本のホッキョクグマ界にとっては血統的観点から言えば「死刑宣告」に等しいことになるでしょう。円山動物園(札幌市)ならば、姉妹都市であるノヴォシビルスク市からいとも簡単に雄のオイゼビウス(仮称)を導入することは可能でしょう。しかしそれをやった瞬間に日本のホッキョクグマ界は "C'est fini" (お終い)だということなのです。そして同様にこのムィコラーイウ動物園のジフィルカとナヌクの間で繁殖に成功した個体(権利はモスクワ動物園に帰属します)を導入することも日本のホッキョクグマ界の「心肺停止状態」と同様なことを意味するわけです。

男鹿水族館が結局のところモスクワのムルマの息子である豪太を導入せざるを得なくなったのは痛恨事でした。当初の予定通りカナダの野生孤児のハドソンかネルソン(どちらも現在はオーストラリアのシーワールドで飼育)のうちのどちらか一頭が男鹿水族館に来るべきだったのです。今になって言えることは、豪太は実はその時点では "ursus non grata" だったというわけです。そしてムルマの息子であり豪太の弟であるこの雄の個体を円山動物園は入手してアイラ(又はマルルとポロロ)のパートナーとすべきでした。2014年の時点でこの2歳の雄の個体はたったの12万5千ドルだったのです。その金額でこの雄の個体は中国に売却されたのでした。大阪の天王寺動物園はイタリアからデアを購入してゴーゴのパートナーとすべきでした。シルカは上野動物園が購入すればよかったのです。そしてシルカのパートナーは男鹿水族館のネルソン(or ハドソン)とクルミの間に誕生する雄にするということです。釧路市動物園はカザン市動物園からピリグリムを購入してツヨシのパートナーにすればよかったわけです。.....これならば血統的に全てが完全にクリアしたのです。しかし現実はそうはなりませんでした。「こうすべきだ」という戦略なしに全てが進行したわけです。

日本の動物園のホッキョクグマというのは、所詮はもう刹那的快楽を求めるカメラを持ったファンの被写体としての意味でしかないということです。しかし世界には被写体にすら簡単にはなれないホッキョクグマたちもいるわけです。ムィコラーイウ動物園のジフィルカとナヌクなどもそういったホッキョクグマたちに属しているのかもしれません。

(資料)
НикВести - новости николаева (May.8 2016 - В зоопарке Николаева белые медведи порадовали посетителей игрой в «водный волейбол»)
NewsYou (May.7 2016 - Как резвятся белые медведи в Николаевском зоопарке)

(過去関連投稿)
(*以下、ナヌク関係)
ロシア南部・ロストフ動物園とウクライナ・キエフ動物園との間の紛争 ~ 「ホッキョクグマ詐欺」事件の概要
チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園へ ~ ブルノ、モスクワ、ロストフの巧妙な三角関係
チェコ・ブルノ動物園のコメタのロシア・ロストフ動物園への移動が大幅に延期 ~ 複雑な背景を読み解く
チェコ・ブルノ動物園のコメタとナヌクの将来への不安 ~ 忍び寄るロシアとウクライナの紛争の暗い影
チェコ・ブルノ動物園のコメタが4月にロシア・ロストフ動物園へ ~ 表向きのニュースの裏側を探る
チェコ・ブルノ動物園のコメタがロシア・ロストフ動物園に向けて出発 ~ 双子に遂に別れの日来る
チェコ・ブルノ動物園の双子の雄のナヌクがウクライナ・ムィコラーイウ動物園へ移動か?
チェコ・ブルノ動物園の2歳になったばかりのナヌクが年内にウクライナのムィコラーイウ動物園ヘ
チェコ・ブルノ動物園のナヌクがウクライナのムィコラーイウ動物園に来週出発
チェコ・ブルノ動物園のナヌクが同園を出発、ウクライナのムィコラーイウ動物園に向かう ~ 物語の終幕
チェコ・ブルノ動物園のナヌクが無事にウクライナのムィコラーイウ動物園に到着
ホッキョクグマ・アイカ と レディン一家の物語 ~ 愛情の日々、そして悲劇的な終末へ
ウクライナのムィコラーイウ動物園に移動したナヌクのその後 ~ 複雑なスラヴ圏のホッキョクグマ事情
(*以下、ジフィルカ関係)
モスクワ動物園のシモーナお母さんの三つ子の一頭の雌がウクライナ・ムィコラーイウ動物園に移動へ
ウクライナ、ムィコラーイウ動物園がホッキョクグマの輸入許可を取得するものの立ちはだかった難題
ウクライナのムィコラーイウ動物園にモスクワ動物園のシモーナの三つ子の一頭の雌のジフィルカが到着
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園にモスクワ動物園から到着したジフィルカを伝えるニュース映像が公開
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園にモスクワ動物園から到着したジフィルカが元気に展示場に登場
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園に来園したジフィルカの近況 ~ 場当たり的なEARAZAの繁殖計画か?
ウクライナ南部・ムィコラーイウ動物園に来園したモスクワ動物園生まれの雌のジフィルカの人気高まる
ウクライナ南部・ムィコラーイウ動物園のジフィルカの近況 ~ ロシアの狙う自国内、旧ソ連圏内の展示充実
ウクライナ、チェコ、ポーランド、スロヴァキアの四か国の動物園が「欧州スラヴ圏動物園共同体」を形成か?
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園の「国際ホッキョクグマの日」のジフィルカの姿 ~ 与えられた赤いボール
(*以下、ナヌクとジフィルカ関係)
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園のジフィルカとナヌクの初顔合わせは、やや不調に終わる
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園のジフィルカとナヌクとの近況 ~ 旧ソ連地域のホッキョクグマ界
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園のナヌクとジフィルカに誕生日とクリスマスのお祝いが行われる
ウクライナ・ムィコラーイウ動物園、ナヌクとジフィルカの「国際ホッキョクグマの日」
by polarbearmaniac | 2016-05-22 07:00 | Polarbearology

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