街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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大阪・天王寺動物園で終日展示となったシルカ ~ 担当飼育員さんとの新しい関係の構築はなるか?

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シルカ (Белая медведица Шилка) 
(2016年6月8日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

さて、こうしてバフィンとモモは大阪から浜松へ去り(本日6月15日の様子が浜松市動物園よりまたアップされています)、天王寺動物園にはシルカが当分の間は一頭で飼育されることになるわけです。シルカは来日後の一般公開開始より例外的な場合を除いて基本的には半日の展示で過ごしてきたわけですが、これからは当分の間は開園時間においては終日展示となるわけで、シルカの生活のリズムやパターンは以前とはやや異なったものとなるのは不可避です。今までは登場と同時の「おやつタイム」でしたが、これからは一日の途中で行われるということになるはずです。それからシルカは半日展示の時には担当飼育員さんから頻繁におもちゃをもらっていたわけですが、今後それがどうなるのかも私にはよくわかりません。
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シルカ (Белая медведица Шилка) 
(2016年6月8日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

以下に述べることはあくまでも私の理解です。担当飼育員さんはエンリッチメントをどう実現させるかについて、シルカの場合には「常同行動をさせない」という一点にポイントを絞っていたように私には見えます。つまり、シルカにバックステップをさせないという点にターゲットを絞っていたように私には見えるわけで、このエンリッチメントの成否を「シルカのバックステップの有無」というバロメーターとして誰にもわかる形で示したということです。そしてその手段として、おもちゃを頻繁にシルカに投げ与えるという手段をとったわけです。この点、実に見事だったと思います。
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シルカ (Белая медведица Шилка) 
(2016年6月9日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

さて、ここで問題になってくるのは、シルカにとっては与えられたおもちゃで遊ぶことと同時に、飼育員さんの姿が見えておもちゃが投げ入れられるという瞬間そのものにも多くの楽しみを感じるようになっているということです。そうなるとその目的や趣旨は全く別のものであるはずなのに、ノヴォシビルスク動物園での来園者の「エサの投げ入れ」と同じような刺激効果を、大阪ではあくまでもその「おもちゃ投げ入れ」という行為の瞬間そのものも同じような刺激効果としてもたらせているのだという考え方はあながち間違っていないようにも思うわけです。私は天王寺動物園の飼育員さんのやり方は正しいと思いますし支持します。しかし何か諸刃の剣という危険性は絶えず存在しているようには感じてはいました。以下は先週6月9日の映像ですが、シルカは来園者の方ばかりを見ています。


Shilka the polar bear searches for the keeper at Tennoji
Zoo Osaka, Japan, on Jun.9 2016.
youtube

シルカはひょっとしたら、おもちゃをもらって遊ぶこと以上に、もらうことそのもののほうに刺激と楽しさを感じるようになっているのかもしれないという感じがしないでもないということです。

さて、半日展示から終日展示ということになりますと、果たして今までのような頻度でのおもちゃの投げ入れを終日行うのかという点が問題となりそうで、仮に終日これを行うとすれば担当飼育員さんの負担はかなりのものとなりそうです。ここで一つの例を挙げてみたいのですが、それはとくしま動物園のポロロ(2012年12月8日生まれ)の場合です。ポロロは2014年3月、彼女が一歳になったあとで札幌から徳島に移動したわけですから、昨年のシルカとは同じ条件だったわけです。徳島ではポロロを退屈させないためにやはりおもちゃを頻繁に与えたわけですが、ポロロはおもちゃを与えてくれる飼育員さんの姿を求めるという姿を見せていました。以下の2014年5月31日の映像です。



こうしてやはりポロロもおもちゃを与えてくれる飼育員さんの姿を楽しみにしていたわけです。さらに月日が経過して2015年12月5日の映像です。



最初の映像より一年半が経過しているのですが、ポロロの飼育員さんの姿を楽しみにする姿には変化はありません。しかしシルカとポロロを比較してみると、ポロロの場合はもらった一つ一つのおもちゃそれぞれに執着して遊ぶ時間がシルカに比べて非常に長いということです。ですので、おもちゃを与えられる時間の間隔はシルカほど頻繁でなくてもよいということなのです。つまりポロロにとっての楽しみは、おもちゃをもらうこと以上にそれで遊ぶことなのです。ここもシルカとやや異なる点です。さらにポロロについて言えば、ポロロは徳島の飼育員さんに対しては正担当さんに対するのと代番さんに対するのと、ポロロ自身の態度が全く変わらないということなのです。何故なら正担当さんと代番さんとで、ポロロに接する態度に違いがないからです。どちらの方が来てもポロロは同じような喜び方をするわけです。ところが少なくとも私の見たところ大阪では正担当さんと代番さんにはシルカに接する態度や姿勢がかなり違うように思うわけです。これについては、「シルカ(Шилка)、その魅力を引き出すもの ~ エンリッチメントの属人化を憂う」という投稿をご参照下さい。言い方を変えれば、徳島では「ポロロに対して何を行うか」が組織として決まっているために正副の担当者の方は同じことをやるものの、大阪では「誰が行うか」のほうが問題になってしまっているということです。組織でポロロに対応する徳島と比較すると、大阪では個人の裁量が大きく支配しているように思うわけです。
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ポロロ (Белая медведица Пороло)
(2015年12月5日撮影 於 とくしま動物園)

ポロロは最初から終日展示され、シルカは今まで半日展示であったという差は大きいかもしれません。しかし私の考えではポロロの場合とシルカの場合の本質的な違いは、彼女たちが育ってきた環境の違いにあるだろうということです。ポロロの育った札幌では来園者がホッキョクグマにエサを投げ入れることは皆無です。しかしノヴォシビルスクでは全く逆なのです。
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ゲルダお母さんとシルカ (Белая медведица Герда и медвежонок Шилка) (2014年9月12日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

シルカそっちのけで来園者からエサを投げてもらうことを期待してさかんに来園者にアピールしているゲルダお母さんと、その正反対で意識を育児に専念することのできるララお母さん、この二頭の母親によって育てられた子供の違いということです。

来園者にエサをねだるゲルダお母さんを冷ややかに無視するシルカ
(Shilka the polar bear cub disregards her mother, Gerda, at Novosibirsk Zoo, Russia)
(2014年9月23日撮影)

天王寺動物園の飼育員さんは実はバフィン母娘の去ったこれからが本当の腕の見せ所だろうと思います。終日展示へと変わったシルカのこれからの彼女の成長と変化、そしてそれを引出し演出していく飼育員さんの創意工夫、これを観察していくのは意義深いこととなるでしょう。今年後半の日本のホッキョクグマ界での最大の見どころは「シルカに対する担当飼育員さんの取り組み」、つまりシルカと担当飼育員さんが、エンリッチメントを接点としての両者の新しい関係の構築がどうなされるか、まさにこれに尽きると言っても過言ではないでしょう。

(過去関連投稿)
ノヴォシビルスク動物園訪問三日目 ~ "Pour que Gerda et Shilka soient heureuse..."
師走の晴天の土曜日、とくしま動物園のポロロの快活な動き ~ 過不足無きエンリッチメントの充実さ
ポロロの確固とした成長 ~ いったい本当の「勝者」は誰なのか?
シルカ(Шилка)、その好奇心を駆り立てるもの ~ 多層的エンリッチメントの見事な成果
シルカ(Шилка)、その魅力を引き出すもの ~ エンリッチメントの属人化を憂う
ロシア橋北地域で働く人々とホッキョクグマの不思議な関係 ~ 「蜂蜜(мёд)を食べるお方」への敬意
(*注 - このシルカには日本で新しい名前が付いていますが、彼女のロシアでの誕生から成長、来日、そして日本でのこれからの生活を一貫して捉え、本ブログでは引き続き彼女の名前をシルカ - Шилка - で統一して記載するのを方針としています。)
by polarbearmaniac | 2016-06-15 23:55 | Polarbearology

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