街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アイスランドでホッキョクグマがまた射殺される ~ 同国で依然として進まぬ対処法の整備に向けた議論

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Photo(C)VÍSIR/KARITAS
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大西洋に浮かぶ小さな島国であるアイスランドはホッキョクグマの本来の生息地ではないものの、グリーンランドから長い距離を泳いできたホッキョクグマが稀に上陸し、そして例外なく人間への脅威を口実として射殺されています。警察などの公的機関ではなく民間人の判断によってこれがなされている点は非常に問題が大きいわけです。今回は7月16日に2010年以来久し振りにまた同じようなホッキョクグマの射殺が行われました。

アイスランドにおける報道から簡単に事実関係を纏めます。北部のクヴァルネス(Hvalnes)という寒村で16日の夜に農民が村から約500メートルあたりの地点にいるホッキョクグマの姿を発見しました。農民は早速警察に連絡し警察は村民に対して決して外出しないように指示を出して早速その村に向かうこととし、同時に射撃手を現場に急行させる手配を行ったそうです。この射撃手は警察が村に到着するより早く、そのホッキョクグマを一発だけの射撃によって射殺したということだそうです。射殺された個体は雌の若年個体だったそうです。最初からこのホッキョクグマを射殺することが方針として出されていたわけで、アイスランドではこれが通常の対応方針であることを報道は伝えています。地元TVのニュース映像をご紹介しておきます。



麻酔銃を発射して眠らせてしまえばよかったという指摘に対してアイスランドの自然史研究所(Náttúrufræðistofnun Íslands)の所長は、その後にどうやって飼育するか別の場所に移すかについては費用の面からも負担が大きく、そもそもホッキョクグマはアイスランドにとっては外来種であり住民にとっても危険な存在であると述べています。ホッキョクグマは発見次第、射殺というのが哀史ランドの方針となっているそうです。こういったあたりが、ホッキョクグマの生息地を領土内に有しているカナダやロシアやノルウェーとは異なるということだと思われます。

実はアイスランドでは前々回の2008年にやはり上陸していたホッキョクグマを射殺したケースがあったのですが、この時にはデンマークのコペンハーゲン動物園のスタッフ数名が移動用ケージを用意してアイスランドに派遣され、このホッキョクグマを麻酔銃を用いて捕獲しようとしたわけですが、結局はアイスランド当局によって射殺されてしまったわけで、その時も「捕獲しても飼育するのに金がかかる。」という当局の言い訳がなされたわけです。その2008年の事件の当時のTVニュース映像をご紹介しておきます。



アイスランドでは結局、この2008年の事件、そして過去関連投稿でご紹介している2010年の事件、そして今回の事件と、上陸したホッキョクグマにどう対処するかのまともな議論などされていないということですね。飼育した場合の費用のことをすぐに口実として持ち出すということは、そこに「保護」という観点からの議論は同国ではほとんどなされていないということを示しているわけです。しかもアイスランドでのケースはどれも、ホッキョクグマが人間に襲いかかってきたというような危険が急迫していた状況ではなかったわけで、「正当防衛」云々が議論されるようなケースではありませんでした。同国ではホッキョクグマにどう向き合っていくかという視点でのまともな議論など依然としてなされていないというわけです。アイスランドに現れたホッキョクグマはグリーンランドから恐ろしいほどの距離を泳いで、やっとのことでアイスランドに泳ぎ着いたわけですから、もっとデンマーク政府と協力してこういった場合のホッキョクグマのグリーンランドへの移送を含めた対応法を考えたらどうでしょうか。

ここで一つ興味深い映像をご紹介しておきましょう。これは1973年に撮影されたもので、アイスランド南西部の都市であるハフナルフィヨルズゥル (Hafnarfjörður) にあった水族館で飼育されていたホッキョクグマの姿です。



こうやって過去にはアイスランドでもホッキョクグマが飼育されていたわけですが、このハフナルフィヨルズゥル水族館は1987年に閉館となっているようです。この水族館で肥育されていたホッキョクグマはグリーンランドで保護された野生孤児だそうで、一頭は1980年代半ばに来館者投げたガラスのボトルの破片によって負傷し、その治療の過程で亡くなり、もう一頭はこの水族館が閉館する際に引き取ってくれる場所がなかったために殺処分されてしまったそうです。いずれにせよアイスランドという国、そしてそこに住む人々はホッキョクグマにとっては非常に冷酷なのです。

(資料)
Vísir.is
(Jul.17 2016 - Ísbjörn á land á Skaga: „Við trúðum þessu ekki“)
(Jul.17 2016 - Ekki val um annað en að fella bjarndýrið á Skaga að sögn lögreglu)
(Jul.17 2016 - Ísbjarnarhræið komið til Garðabæjar í hendur Náttúrufræðistofnunnar)
(Jul.17 2016 - Enginn veit fyrir víst hvers vegna ísbirnirnir koma hingað)
mbl.is (Jul.17 2016 - Eng­ir litl­ir sæt­ir bangs­ar) (Jul,17 2016 - Polar bear shot and killed in North Iceland)
BBC (Jul.18 2016 - Polar bear shot dead in Iceland)
Vísir.is
(Jun.17 2008 - Danskur sérfræðingur kemur í dag til að fanga ísbjörninn)
(Jun.17 2008 - Björninn bíður hinna dönsku)
(Jun.17 2008 - Fara þarf gaumgæfilega yfir stöðuna segir ráðherra)
(Jun.17 2008 - Björninn unninn)
(Jun.18 2008 - Ísbjörninn tekinn af lífi - myndir)

(過去関連投稿)
しろくま君、早く逃げて!!!
アイスランドのホッキョクグマ、射殺される.....
by polarbearmaniac | 2016-07-18 23:00 | Polarbearology

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