街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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カナダで相次ぐ安易なホッキョクグマ射殺 ~ 自然保護官の対応にカナダ国内の地域差存在の可能性

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射殺された幼年個体 Photo(C)Brandon Spence/CBC

カナダ・オンタリオ州北部のカシュチェワン (Kashechewan) 地区で先週の月曜日の夜に双子を伴ったホッキョクグマの姿が街から数キロ先の地点に見せたのを住民の一人が目撃し、早速警察に連絡するとともに自らも警官と共にホッキョクグマ親子の姿のあった地点にトラックで向かったそうです。その場所にいたのは一頭のホッキョクグマの幼年個体であり、この個体は現場に急行した警官と住民のほうに向かってきたため警官はサイレンを鳴らしたり光線を照射したりしてその個体を追い払おうとしたものの、その個体は方向を変えてフェンスのある場所に立ち入り吼えだしたそうです。そしてフェンスを破って逃げて行ったそうで、その夜はそれだけのことでした。しかし翌日にまたこの幼年個体が同じ場所に姿を見せたので、警官はその幼年個体を射殺したそうです。警察はカナダの天然資源省(Department of Natural Resources) との協力においてやむを得ない状況でホッキョクグマの幼年個体を射殺したのだと述べています。しかし射殺時点には目撃者がいません。本件を取材したカナダ放送協会(CBC)の記者にも全く情報を与えてくれないそうです。
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こういった場合は本来は自然保護官 (Wildlife officer) が対応すべき案件ですが、このカシュチェワン地区は本来のホッキョクグマの生息地域のやや南側に位置しているそうで通常はこの季節にはホッキョクグマはほとんど姿を見せない場所であることから自然保護官がホッキョクグマの出没を想定していなかったために現場に迅速に急行できず、したがって地元の警察が対応したということなのかもしれません。カナダの天然資源省(つまり自然保護官を管轄する官庁)も地元の警察も今回の件については多くを語ろうとはしていないようです。これはどうも過剰な対応であるような気がします。ホッキョクグマの幼年個体は射殺された時の状況は一切公に明らかにされていないわけで、要するに面倒くさいから射殺したのだと勘繰りたくなるわけです。

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次に、先週の土曜日のことですがカナダ北部のバフィン島のシルヴィア・グリンネル公園(Sylvia Grinnell Territorial Park)でホッキョクグマが人間の設営したいくつかのテントのうち6つのテントを引きちぎってしまったそうで、自然保護官によってそのホッキョクグマは射殺されてしまったそうです。ケガ人はいなかったそうですが、この時の状況についても自然保護官はカナダ放送協会(CBC)の取材に具体的な状況の説明を行っていません。
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Photo(C)CBC

具体的な状況は明らかにされていないものの、これだけのことで射殺されてしまうというのは実におかしな話です。カナダという国は例えばハドソン湾西岸地区(つまりチャーチルのある地域)においては自然保護官はホッキョクグマへの対応にはかなり配慮がなされているものの、それ以外の地域ではかなり安易な判断で射殺を行っているのではないでしょうか? この今回の二つの地区はホッキョクグマと人間との遭遇が頻繁なものではない場所であるという点で共通しています。つまり目撃者が多かったり関係者の数が多かったりするハドソン湾西岸地区ではホッキョクグマの射殺については一定レベルの要件がないと射殺は行われないものの、それ以外の地域ではかなりルーズに射殺の判断が下されているのではないかという疑念を強く持ちます。つまり自然保護官に与えられる裁量の大きさには黙示的に地域差が存在しているのではないかということです。ハドソン湾岸では裁量が大きく与えられていないためにホッキョクグマの射殺には一定の厳格な要件が求められるものの、その他の地域では大きく裁量が認められているために比較的安易にホッキョクグマを射殺しているのではないかということです。

私はそもそもこのホッキョクグマが人間に危険を与えるという状況そのものが人間の「自招行為」であると考えています。ホッキョクグマの生息地のような場所に入り込んで、その結果として人間がホッキョクグマに襲われるという状況そのものは人間が自ら招いたことなのです。今回の件は自然保護官(及び自然保護官を管轄している天然資源省の了解を得ていたらしい警察)が対応したわけですから「正当防衛」の事案ではありませんが、一般的には人間の「正当防衛」というものは野生のホッキョクグマに対しては基本的には成立しないというのが私の考え方です。札幌市の円山公園付近に出没するクマなどは人間の生息地にクマが現れた場合であり、これに対しては「正当防衛」は成立しますがホッキョクグマの場合は全く条件が逆なのです。

(資料)
CBC (Jul.21 2016 - Polar bear shot after wandering through Kashechewan)
Timmins Press (Jul.21 2016 - Police forced to shoot polar bear in Kash)
CBC (Jul.23 2016 - Polar bear rips 6 tents pitched in Iqaluit park)

(過去関連投稿)
カナダ・チャーチルで狂暴化したホッキョクグマが射殺される
カナダ・ニューファンドランド島で民家に押し入ったホッキョクグマが射殺される
カナダ・ニューファンドランド島で再びホッキョクグマが射殺 ~ カナダ警察による 「緊急処置」 との説明
カナダ・ニューファンドランド島で目撃されたホッキョクグマがまた射殺される
カナダ・ニューファンドランド島で目撃されたホッキョクグマ、生け捕りにされ無事に無人地帯に移送される
カナダ、ニューファンドランド・ラブラドール州でまたホッキョクグマが射殺される
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カナダで人里に現れたホッキョクグマに対する2つの事件への自然保護官の対応
カナダ・マニトバ州、チャーチルのホッキョクグマ保護収容施設 (俗称 “Polar Bear Jail”) について
by polarbearmaniac | 2016-07-26 01:30 | Polarbearology

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