街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ロシア・ペンザ動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場が9月にオープン ~ それが意味する重要なこと

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ベルィ (Белый медведь Белый) Photo(C)ПензаИнформ

ロシア南部・ヴォルガ河流域の都市であるペンザの動物園に新しいホッキョクグマ飼育展示場の建設工事が行われていますが、この工事が最終段階に入っているそうで、9月にはオープンとなるそうで、その前にはこの動物園で飼育されている野生出身の推定5歳の雄のホッキョクグマであるベルィが新しい住居に移動することになります。このペンザ動物園の新しい飼育展示場建設については非常に多難な道のりを辿り、途中で園長さんが解任されたりなどもしたわけですが、とうとうここまでこぎ着けたというわけです。地元のTVニュースを御紹介しておきます。



現在ロシア国内の動物園のホッキョクグマ飼育展示場の新設・改良工事は多くの都市で行われており、たとえばサンクトペテルブルク、ペルミ、カザンなどは新動物園の建設計画が具体的に進行しており、その新動物園に設けられるホッキョクグマ飼育展示場は従来のものよりも遥かに規模が大きく内容も充実したものになります。また、クラスノヤルスクやハバロフスクでは園内に新しいホッキョクグマ飼育展示場が設けられることとなり、後者はすでに完成しているわけです。こういった一連の流れの中に、数週間前に御紹介していた「ロシア動物園水族館協会(RAZA)」の設立というものが連動しているわけです。つまりこの「ロシア動物園水族館協会」が事後的にホッキョクグマの飼育基準を設定することとなるはずで、こうした形でロシアの動物園は独自のホッキョクグマ繁殖計画を新しい形で作成し、それを上部組織となるであろうEARAZA (Евроазиатская региональная ассоциация зоопарков и аквариумов / Еuro-Аsian Regional Аssociation of Zoos and Аquariums - ユーラシア地域動物園水族館協会) に拡大していくという戦略をとっていくことは間違いないと思われます。つまりこれが何を意味するかといいますと、もうロシアからは今までのようにホッキョクグマを単純購入することはほぼ完全に不可能になるということです(モスクワ動物園はすでにこの方針を採っています)。ロシアの動物園で誕生するホッキョクグマというものの存在の意義が今までとは全く違った方向性に進むことを意味しているということです。

日本のホッキョクグマ界も何らかの形で「ロシア動物園水族館協会」と繁殖に関する協力関係を構築したほうがよいのかもしれません。ただしロシアがホッキョクグマの繁殖についてこの「ロシア動物園水族館協会」が作成する繁殖計画に全面的に移行するまではあと2~3年はかかると思われますので、その前の段階では単純購入で個体をロシアから日本に導入することは可能だと思われます。ただし近年はEARAZAの盟主であるモスクワ動物園の意向によって、その導入個体のパートナーとなりうる個体を有している日本の動物園だけが交渉のテーブルに乗ることができるということです。大阪はすでにゴーゴというカードを切ってシルカを導入できたわけです。そうすると当面は札幌と浜松だけがこの権利を持つということになるでしょう。特に前者の有しているカードは強力です。しかし翻って考えてみれば、たとえば日本の大都市である横浜や名古屋や神戸などの動物園は、これからどうやってホッキョクグマの飼育展示を続けていくのかについて真剣に考えなくてはならないのです。ロシアから個体を導入しようにも横浜や名古屋や神戸はいくら資金があったにしてもロシアとの交渉のテーブルに乗る資格がないからです。ではどうするかということです。

横浜についてはツヨシを釧路市から購入して、そのツヨシをカードにしてツヨシのパートナーとしてロシアからの個体導入を図るという有力な手段があります。しかし、いかんせんツヨシは幼年個体ではありませんのでロシアからの雄の導入(つまり単純購入)はツヨシとの年齢差の問題が生じてくるわけで難しいかもしれません。名古屋や神戸はララファミリーの個体を購入して、その個体をカードにしてそのパートナーをロシアから導入するという形をとる方法が考えられるのですが、これは現実性は非常に乏しいと思われます。何故なら、ララファミリーの幼年・若年の個体は札幌が持っている有力なカードであり、それを金銭で日本国内の他園に譲渡する可能性は薄いということです(天下の上野動物園すらイコロの購入には成功しなかったのです)。

ペンザのようなロシアの地方都市のニュースの裏には、我々日本のホッキョクグマ界の将来に大きな影響を与える重要な意味が隠されているというわけです。一人のホッキョクグマファンがいくらどうこう言ってみたところで、日本の動物園関係者には何の影響ももたらさないでしょう。ただしかし欧州やロシアのホッキョクグマ界の動向を「オープンソース・インテリジェンス(公開情報諜報)」の手法で探っていくと、見える人間には見えるものが確かにあるということです。そういったものの中に、日本における飼育下のホッキョクグマたちをいくらかでも救う道が隠されていることがわかるわけです。

(資料)
ПензаИнформ (Jul.31 2016 - В сентябре медведей Пензенского зоопарка переселят в новые вольеры) (Aug.1 2016 - В Пензенском зоопарке появится зона для молодоженов)
Пензенская правда (Aug.1 2016 - В пензенском зоопарке поселятся ягуар и северная волчица)

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by polarbearmaniac | 2016-08-03 23:55 | Polarbearology

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