街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・コロンバス動物園のノーラがポートランドのオレゴン動物園へ ~ その背景を読み解く

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ノーラ Photo(C)Columbus Zoo and Aquarium

アメリカ・オハイオ州のコロンバス動物園 (Columbus Zoo and Aquarium) が8月10日付けで発表したところによりますと、同園で昨年11月6日にオーロラから誕生して人工哺育で育てられた雌のノーラ (Nora) が9月に西海岸オレゴン州のポートランド動物園に移動することとなったそうです。この移動はAZA(アメリカ動物園・水族館協会)の繁殖計画 (SSP - Species Survival Plan) によって推薦されたものだそうです。地元のTVニュースをご覧下さい。



コロンバス動物園の発表の内容から推察しますと、この人工哺育されたノーラの「母親代わり」を務めるのが先日オレゴン動物園で双子の片方であったコンラッドが亡くなったために一頭で暮らしている31歳の雌のタサルということになるようです。SSPの観点から言えば、このコロンバス動物園で雄のナヌークをパートナーとして繁殖に挑戦しているオーロラとアナーナにとっての生活環境をより一層充実させるためにはノーラを移動させたほうが良いという意味があるようです。この下のコロンバス動物園がノーラに送るメッセージは素晴らしいと思います。日本の動物園ではまずこういったことはできません。



前者の視点についてはオレゴン動物園の雌のタサルが果たして「母親代わり」になれるかどうかについては微妙でしょう。タサルは繁殖成功の経験がないために母親の立場となった経験がありません。ロシア・ペルミ動物園のアンデルマは若いセリクとユムカ(ミルカ)の母親代わりと後見を務め立派のこなしているのはアンデルマには豊富な育児経験があるからです。そういったことから考えればタサルの果たす役割はノーラの「母親代わり」ではなく、人工哺育されたノーラの「社会化(socialization)」への貢献、平たく言えばノーラ自身が自分はホッキョクグマであるという自覚を持たせるための「遊び相手」の役割といったことが正しいだろうと考えます。



後者のSSP(Species Survival Plan)の観点からは、このコロンバス動物園のオーロラとアナーナという双子姉妹の繁殖に対する大きな期待が背景にあるわけで、その成功の確率が非常に高いとSSPを主導しているトレド動物園のメイヤーソンさんが考えているらしいことが伝わってくるような気がします。問題は雄のナヌークの28歳という年齢ということになるのですが、それには楽観的であるようです。この問題については「アメリカ・コロンバス動物園のノーラの展示時間延長に慎重な同園 ~ 父親ナヌークへの期待と配慮が理由か」という投稿をご参照下さい。

生後一年経過しないうちに慣れ親しんだ環境から別の環境に移るノーラには可哀想な気がしますが、しかしオレゴン動物園での活躍を祈りたいと思います。
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ノーラ Photo(C)Columbus Zoo and Aquarium

(*追記)その後にオレゴン動物園よりも発表がありました。オレゴン動物園のスタッフはノーラがコロンバス動物園を出発する前から同園に行ってノーラと対面するそうですしコロンバス動物園のスタッフもノーラの出発に付き添ってオレゴン動物園まで行くそうです。それから、オレゴン動物園では現在新しいホッキョクグマの飼育展示場 ("Polar Passage") の建設計画に着手しており、すでにその設計が終了しているそうです。この新飼育展示場の完成は2019年だそうで、その建設中にもし必要とあればタサルとノーラを一緒に他園に移動させることもありえると述べています。これは困ったことですね。タサルはすでに31歳になっていますので、たとえノーラと一緒であってもそうした他園への移動の可能性があるとすれば年齢的に果たして2019年のオレゴン動物園の新飼育展示場の完成に再びポートランドに戻ってくるということは難しいと思います。このオレゴン動物園の側の事情というものが今回のノーラの移動について考慮されていたのかどうかに疑問も感じてしまいます。つまりこれはあくまでもコロンバス動物園の都合、つまりオーロラとアナーナの繁殖成功(そしてすでに28歳になっているパートナーの雄のナヌークの年齢面における今後の繫殖面での大きな不安)を第一に考えた移動であるにすぎないという見方は当然に出てくるわけです。私もこれはかなり問題だと思うようになってきました。
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2019年完成予定のオレゴン動物園の新飼育展示場("Polar Passage")
(C)Oregon Zoo



(資料)
Columbus Zoo and Aquarium (Media Alert/Aug.10 2016 - Polar Bear Nora is moving to Oregon Zoo)
Columbus Dispatch (Aug.10 2016 - Baby polar bear Nora will move from Columbus Zoo to Oregon next month)
10TV (Aug.10 2016 - Beloved Columbus Zoo polar bear Nora is moving to Oregon)
KVAL (Aug.10 2016 - I'm moving to Portland! Young polar bear leaving Ohio for Oregon Zoo)
NBC (Aug.10 2016 - Nora the Polar Bear being moved to Oregon Zoo)
(*追記資料)
Oregon Zoo (Zoo News/Aug.10 2016 - Beloved polar bear Nora is moving to Oregon Zoo this fall) (A New Zoo - Polar Passage)
KGW.com (Aug.11 2016 - Oregon Zoo polar bears to get bigger habitat)
Columbus Dispatch (Aug.11 2016 - Zoo employees know Nora has to leave, but 'our hearts are broken' )

(過去関連投稿)
アメリカ・オハイオ州コロンバス動物園でホッキョクグマの赤ちゃん誕生! ~ オーロラが待望の出産
アメリカ・コンロバス動物園のオーロラお母さん、赤ちゃんの育児を突然止める ~ 人工哺育へ
アメリカ・オハイオ州コロンバス動物園の人工哺育の雌の赤ちゃんが生後25日となる
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アメリカ・オハイオ州コロンバス動物園の人工哺育の雌の赤ちゃんが生後7週間が無事に経過
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アメリカ・コロンバス動物園のノーラの展示時間延長に慎重な同園 ~ 父親ナヌークへの期待と配慮が理由か
アメリカ・コロンバス動物園のノーラの「出漁」
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アメリカ・オハイオ州 コロンバス動物園のノーラが国務省の「北極地域特別代表」の訪問を受ける
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(*コロンバス動物園のオーロラとアナーナ関連
アメリカ ・ オハイオ州、コロンバス動物園のアナーナとオーロラ、美しき双子姉妹の楽しいハロウィーン
アメリカ ・ オハイオ州、コロンバス動物園に登場したナヌークへの期待 ~ 25歳の雄の繁殖能力への希望
アメリカ・オハイオ州、コロンバス動物園のアナーナとオーロラの双子姉妹、初産でのダブル出産なるか?
アメリカ・オハイオ州、コロンバス動物園がアナーナとオーロラの双子姉妹の出産に向け 「厳戒態勢」
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ビーグル犬のエルヴィス君の妊娠判定(5) ~ コロンバス動物園のアナーナとオーロラの姉妹は “妊娠なし”
アメリカ・オハイオ州、コロンバス動物園のアナーナとオーロラの双子姉妹はダブル出産ならず
アメリカ・オハイオ州、コロンバス動物園でホッキョクグマの双子の赤ちゃんが誕生するも二頭ともに死亡

(*オレゴン動物園関連)
アメリカ・オレゴン州 ポートランド、オレゴン動物園のコンラッドとタサル ~ 別離なき永遠の双子兄妹
アメリカ・ポートランドのオレゴン動物園が麻酔を使用せずにホッキョクグマの血液サンプル採取に成功
アメリカ・オレゴン州 ポートランド、オレゴン動物園のタサルがホッキョクグマの生態研究に協力
アメリカ・オレゴン州 ポートランド、オレゴン動物園で29歳となった双子のコンラッドとタサルの「雪の日」
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園の双子兄妹のコンラッドとタサルの近況 ~ 新施設計画
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園の双子兄妹コンラッドとタサルが元気に共に30歳となる
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園の「国際ホッキョクグマの日」のコンラッドとタサルの姿
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園のコンラッドとタサルの双子が31歳となる
アメリカ・オレゴン州ポートランド、オレゴン動物園のコンラッドが亡くなる ~ 31歳での双子の別れ
by polarbearmaniac | 2016-08-11 13:38 | Polarbearology

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