街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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アメリカ・コロンバス動物園、「遅咲き」の28歳の雄のナヌークに最後の栄光は輝くか?

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28歳のナヌーク Photo(C)The Columbus Dispatch

昨年11月6日にアメリカ・オハイオ州のコロンバス動物園でオーロラから誕生して人工哺育で育てられた雌のノーラ (Nora) が来月にも西海岸オレゴン州ポートランドのオレゴン動物園に移動することが決まった件についてはすでに「アメリカ・コロンバス動物園のノーラがポートランドのオレゴン動物園へ ~ その背景を読み解く」で投稿しています。コロンバス動物園よりこのノーラの移動のニュースが発表されてから今日までSNSなどでいろいろな意見が出てきており、また担当の飼育員さん(のチーム)からもノーラの移動については、ノーラが移動すべきということはわかっていても非常に悲痛 ('our hearts are broken')な気持ちであることを全く隠さずに地元紙に語っています。心の中にある不満を隠しきれないようです。また、地元のファンからも当惑と不満の意見が出てきています。

私は今回のノーラの移動についてはやむを得ないと思っていたわけですが、しかし移動先のオレゴン動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場の新設工事計画が動き出し、そしてオレゴン動物園はその期間中にタサルとこのノーラを一緒に他園に預ける可能性もあるなどと今になって言い出している点を考えれば果たしてこのノーラの移動先が本当にオレゴン動物園でよかったのかという点についてはやはり疑問を感じてしまいます。それはともかくとして、コロンバス動物園で一日に非常に短い時間しか公開しなかったノーラをこうして一歳にならないうちにオレゴン動物園に移動させなければならない事情については、やはり現在28歳となっている野生出身の雄のナヌークと双子姉妹である9歳のオーロラとアナーナとの間での繁殖について今シーズンが最後の成功のチャンスであると考え春にあった繁殖行為の結果として秋口からこの三頭に十分なスペースと時間と安らぎを与えるためのはノーラの存在がたとえ僅かであっても障害になると考えてのことだったのだろうと思います。なにしろ世界のホッキョクグマ界では「双子姉妹の神話」というものが存在しているわけですし、バッファロー動物園ではルナの父親となり、そしてこのコロンバス動物園ではノーラの父親となった雄のナヌークがもう28歳になっているわけですから、ホッキョクグマの雄の繁殖年齢の上限(世界記録は29歳あったはずです)に迫った野生出身のナヌークにとっての最後のチャンスを何が何でもオーロラとアナーナの自然繁殖の成功につなげたいというコロンバス動物園(そしてAZAのSSP担当者)の悲壮な覚悟といったものがノーラの移動の背景に最も強く存在していることは間違いないことなのです。ここで以前にもご紹介していますがコロンバス動物園に25歳の時点で来園した25歳のナヌークの映像を再度ご紹介しておきます。25歳にしてはかなり老けて見える感じがします。しかし私はこの彼の姿は非常に好きですね。素晴らしい雄のホッキョクグマだと思います。そしてこれはもちろん気のせいですが、繁殖についての実力のある雄のホッキョクグマは見ていてやはりどこがが違うように見えてきてしまいます。



双子姉妹のうちオーロラは2014年に出産したものの赤ちゃんは死亡(「アメリカ・オハイオ州、コロンバス動物園でホッキョクグマの双子の赤ちゃんが誕生するも二頭ともに死亡」、そして翌年2015年にはまたオーロラが出産し、そして人工哺育となったのがノーラだったわけです。

この雄のナヌークは1987年の暮れに野生で誕生したあとに翌年に保護され、1988年から2009年までの約20年間以上をウィスコンシン州のヘンリー・ヴィラス動物園で暮らしていたわけですが、その間にはパートナーはいたものの繁殖には全く成功しなかったわけです。そして2009年の春にようやくバッファロー動物園に移動してそこで雌のルナ(やはり人工哺育)の父親となったわけでした。これについては、「繁殖のために住み慣れた動物園を旅立ったホッキョクグマ ~ ヘンリー・ヴィラス動物園のナヌークへの期待」及び「アメリカ・バッファロー動物園のナヌークがコロンバス動物園へ ~ 新ホッキョクグマ展示場の建設開始」という投稿をご参照下さい。今にして思えば、ナヌークは20年以上もヘンリー・ヴィラス動物園で過ごしたのは本当に惜しいことをしたわけです。何年も繁殖に成功しないペアは、やはりどちらかを移動させてペアの組み替えを行わねばならないわけですが、それができなかったのがアメリカであり、そして日本だったというわけです(アメリカも日本も幾分まだこの状態は現在形なのですが)。
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ナヌーク Photo(C)The Columbus Dispatch

人間の不作為のために「遅咲き」を強いられたナヌークですが、移動後は素晴らしい活躍をしたというわけです。野生出身の彼にはまだまだ活躍してもらわねばならないはずなのに移動させた時期があまりに遅かったために彼はもう28歳になってしまっているわけです。これは痛恨事だと言えましょう。ましてや彼の現在のパートナーは「双子姉妹の神話」の担い手であるまだ9歳のオーロラとアナーナだというわけですから、コロンバス動物園も今年は繁殖有望な最後のチャンスであると悲壮な覚悟でいることは間違いないわけです。それがノーラの移動をもたらせてしまったというわけです。さて、ここでオーロラとアナーナの双子姉妹に対するエンリッチメント、そして訓練(トレーニング)の様子をご紹介しておきましょう。音声はonにして下さい。



世界のホッキョクグマ界における今年の繁殖シーズンの結果について最も注目すべきなのはこのコロンバス動物園であることは、公正に世界のホッキョクグマ界全体を見渡してみれば間違いないことだろうと思います。地元のファンや飼育員さん(チーム)が困惑と不満を心の底に抱きながらもノーラを移動せざるを得ないという決断を行ったコロンバス動物園とAZAのSSPの担当者、そしてそれに応えることができるかどうがが試されているオーロラとアナーナの双子姉妹です。そして今年はすでに自分の仕事を終えているナヌークに最後の栄光が輝くかどうかということです。ここには息詰まるドラマがあると言って過言ではないでしょう。

(資料)
Columbus Dispatch (Aug.11 2016 - Zoo employees know Nora has to leave, but 'our hearts are broken' )
The Inquisitr (Aug.14 2016 - Columbus Zoo Preparing To Say 'Goodbye' To Beloved Nora The Polar Bear)

(過去関連投稿)
アメリカ ・ オハイオ州、コロンバス動物園のアナーナとオーロラ、美しき双子姉妹の楽しいハロウィーン
繁殖のために住み慣れた動物園を旅立ったホッキョクグマ ~ ヘンリー・ヴィラス動物園のナヌークへの期待
アメリカ・バッファロー動物園のナヌークがコロンバス動物園へ ~ 新ホッキョクグマ展示場の建設開始
アメリカ ・ オハイオ州、コロンバス動物園に登場したナヌークへの期待 ~ 25歳の雄の繁殖能力への希望
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by polarbearmaniac | 2016-08-15 06:00 | Polarbearology

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