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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか

ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか_a0151913_21513484.jpg
フェリックス (Белый медведь Феликс)
Photo(C)Туристический портал Красноярска

現在ロシアの動物園(正確にはロエフ・ルチェイ・クラスノヤルスク動物園 - Красноярский зоопарк "Роев ручей")では次から次へと新しいホッキョクグマの飼育展示場新設計画が進行しています。シベリア中部の都市であるクラスノヤルスクの動物園ではホッキョクグマの新飼育展示場の設計が完了し今年の秋から建設工事がスタートして2019年にはオープンする予定だそうです。
ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか_a0151913_1922035.jpg
クラスノヤルスク動物園の現在のホッキョクグマ飼育展示場は大きな檻といったもので中にいるホッキョクグマたちの姿は格子を通してしか見られないのですが、この状態を何が何でも無くしたいというのが同園の関係者の強い願いであるようです。ホッキョクグマ、その他の北方の動物たちのために現在の動物園に隣接した1.5ヘクタールの土地がこの新しい飼育展示場となるそうです。現在のホッキョクグマの飼育状態、そして3年後には完成が予定されている新飼育展示場のデザインなどについて地元のTV局のニュースをご覧下さい。



とにかくホッキョクグマの飼育展示場で格子の存在というものは好ましくありません。来園者にとって精神衛生上も良くないわけです。これは「格子があるとうまく写真が撮れない」などというような瑣末な話ではなく、そもそもそういった格子の存在そのものが彼らの尊厳を傷つけているということです。

こういったロシアで近年具現化されているホッキョクグマの新飼育展示場の新設計画というのはロシアの動物園が欧州の動物園と(部分的ではあれ)共同の繁殖計画を共有したいという意欲の表れであり先日もご紹介しています「ロシア動物園・水族館協会」の設立もそういった重要な流れの一つだということです。ホッキョクグマに関して言えば、もうロシアの動物園はホッキョクグマの単純売却などは行わずに、その移動は全て繁殖計画の枠組みの中で行う方針に舵を切りつつあることを意味しています。

これが日本のホッキョクグマ界にどのような影響をもたらすかということですが、少なくとも先日設立が決まった「ロシア動物園・水族館協会」が組織として完備され、さらにロシア国内の地方都市の動物園のホッキョクグマ飼育展示場が彼等の意味する「基準」を満たすものとしてオープンしたあかつきには、日本の動物園はロシアの動物園からホッキョクグマを導入することが一切できなくなるということなのです。つまりノヴォシビルスク動物園からシルカが来日したようなことはもう今後はありえなくなるということなのです。これがロシアのホッキョクグマ界が突入しつつある状況であるということです。日本の動物園関係者などはこうした状況など全く知らないでしょう。それでは困るのです。日本のホッキョクグマ界にとって対ロシアの問題について時間的に猶予が与えられているのはこれから2~3年の間だけだろうということです。日本としては早くなんとか手を打たねばならないのです。
ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか_a0151913_18552257.jpg
フェリックスとオーロラ
(Белый медведь Феликс и Белая медведица Аврора)

Photo(C)Красноярский зоопарк

以前から何度も申し上げていますが、このクラスノヤルスク動物園の10歳のフェリックスと6歳のオーロラ(本名ヴィクトリア)は共に野生出身であり、このペアの間に誕生が期待されている個体は世界のホッキョクグマ界において極めて貴重な「新血統」となるわけです。これについては「ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の野生出身の新ペアの繁殖への期待 ~ 日本は果実を狙え」、「ロシア・クラスノヤルスク動物園のフェリックスとオーロラの同居開始 ~ 新血統の誕生への大きな期待」、「ロシア・クラスノヤルスク動物園、野生出身のフェリックスとオーロラが繁殖に向け驀進 」という三つの投稿を御参照下さい。

さて、現在のようにホッキョクグマの繁殖について血統面で行き詰ってしまいつつある日本のホッキョクグマ界にとっては、このクラスノヤルスク動物園で誕生が期待されている個体は喉から手が出るほどに欲しい個体です。ロシア国内の動物園についても欧州の動物園についてもそれは全く同じでしょう。ですから、その入手は極めてハードルが高くなるわけです。この入手戦争に参戦できる資格があるのは日本の動物園では札幌・円山動物園以外にはないということです。現時点では円山動物園はララファミリーの雌の若年・幼年個体を何頭も所有しています。そういった個体をカードにして(つまりララファミリーの雌の個体のパートナーとしてどうしても雄の個体が必要であるという事情から、その雄の個体のロシアから札幌への移動を広域的な繫殖計画の一環であるとロシア側に説明することによって)、クラスノヤルスク動物園から雄の幼年個体の導入を狙うこと以外には日本のホッキョクグマ界がその個体を日本に導入する有効な手段はあり得ないのです。ただし導入は超難関となるでしょう。(かつての円山動物園のS園長さんは園長時代も局長になられた後もホッキョクグマの情報については非常に敏感な方で随分ここを御訪問いただいていたようですが。)
ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか_a0151913_1826552.jpg
フェリックス (Белый медведь Феликс)
Photo(C)КардиоRED

仮に2~3年以内にそれが果たせないとすれば、その時点では「ロシア動物園・水族館協会」の体制が整い、そしてそれ独自のホッキョクグマ繁殖計画を策定して欧州の動物園を巻き込んで欧州・ロシアの繁殖計画の協力関係が構築されるでしょう。ロシアはそれを狙っているのです。そうなった場合には日本の動物園全体(つまりJAZAということになりますが)としてそれに協力して参加するという形を採らざるを得なくなり、その場合には日本の動物園でホッキョクグマを飼育している全ての動物園に一定以上のホッキョクグマ飼育展示場の基準のクリアが求められてしまうわけです。十分ではないにせよその要求にある程度は耐えられるのは円山動物園の新施設、男鹿水族館、仙台・八木山動物公園、上野動物園、横浜ズーラシア、天王寺動物園の新施設、.....これくらいのものでしょう。あとの動物園は大規模な新飼育展示場を建設するか、それともホッキョクグマの飼育を一切止めてもらうかのどちらかなのです。欧州はホッキョクグマ(の飼育と繁殖)についてすでに「囲い込み」の体制を確立していますが、それに今度はロシアが参加して欧露の「囲い込み」がなされるわけです。日本のホッキョクグマ界において今まで頼りにしてきたロシアは「向こう側」に行ってしまうということです。それに日本はどう対応するかということなのです。

日本のホッキョクグマ界にはとにかく危機意識が足りないと思います。表に出ないところでロシアのホッキョクグマ界は着々と飼育環境の大改良、そして欧州のホッキョクグマ界との協力関係構築の態勢を整えつつあるわけです。ホッキョクグマについてロシアから流れてくる最近のニュースの底流には、ある方向への一定の流れを強く感じます。そしてその流れがどこに向かっているかについて私は当ブログをご訪問いただいている方々には全てここでお知らせしているつもりです。ノヴォシビルスク市のローコチ市長はノヴォシビルスク動物園を参加させて姉妹都市との交流を図りたいと発言していることもここでお知らせしています。これは明らかに札幌市を念頭に置いたシグナルなのです。ですからノヴォシビルスク動物園のゲルダの息子であるロスチクを円山動物園に導入することは円山動物園が望めば比較的容易でしょう(しかしシルカの弟を日本に連れてくるわけですから次世代の血統面では非常に危険であり私は賛成できませんが)。そういった隠れたロシアからのシグナルも全てここでご紹介しています。日本の動物園に暮らすホッキョクグマたちの次世代、次々世代....それについて我々は真剣に考えなければならないわけです。これはもう情報戦なのです。

(*追記)欧露の「囲い込み」に対抗して、では日本はアメリカ(つまりAZA)と繁殖に関する個体移動・交換による協力関係を構築したらどうかという意見が出そうですが、それは全く不可能です。何故ならアメリカは貸し借りも含めてホッキョクグマを自国から出すことも入れることも絶滅危惧種法 (Endangered Species Act) の条項によって一切不可能となっているからです。これを打破したいとアメリカ国内で動きがあったのですが不成功でした。これについては「アメリカで登場したホッキョクグマ輸入の特別枠要求への動き」という投稿を御参照下さい。

(*追記2)ロスゴスツィルク (Росгосцирк)に所有権のある野生出身の雄のこの二頭、何とか入手できないものでしょうか。中国は数年前にロスゴスツィルク所有の引退した野生出身のホッキョクグマを一度に5頭も購入したわけですが。

(資料)
Телеканал Енисей (Aug.18 2016 - Красноярский зоопарк "Роев ручей" ждет масштабная реконструкция)
Служба новостей ТВК (Aug.18 2016 - В Красноярске в «Роевом ручье» построят вольеры для северных животных)
Sibnovosti - Красноярск (Aug.18 2016 - К Универсиаде красноярский зоопарк пополнится новыми видами животных)
"Лаборатория новостей - Красноярск" (Aug.18 2016 - Красноярский зоопарк готовится к реконструкции и возвращению медведя Седова)
МК в Красноярске (Aug.9 2016 - Красноярский зоопарк каждый год доказывает свою уникальность)

(過去関連投稿)
(*オーロラ関連)
ロシア極北・タイミール半島でホッキョクグマの2頭の赤ちゃんを保護!
ロシア・タイミール半島で保護された赤ちゃん孤児の続報
ロシア・クラスノヤルスク動物園の2頭の赤ちゃん孤児、同市に留まり同居の継続が決定!
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(*フェリックス関連)
ロシア・クラスノヤルスク動物園の2頭の伊達男たち ~ 華麗なる独身生活を謳歌?
ロシア・クラスノヤルスク動物園のプール開き
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園のプール開き
(*フェリックスとオーロラ関係)
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の野生出身の新ペアの繁殖への期待 ~ 日本は果実を狙え
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の「プール開き」 ~ 夏に向けたフェリックスとオーロラの姿
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の野生出身のフェリックスとオーロラのペア形成への準備
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園の「国際ホッキョクグマの日」のフェリックスとオーロラの姿
ロシア・クラスノヤルスク動物園のフェリックスとオーロラの同居開始 ~ 新血統の誕生への大きな期待
ロシア・クラスノヤルスク動物園、野生出身のフェリックスとオーロラが繁殖に向け驀進
ロシア・シベリア中部、クラスノヤルスク動物園のホッキョクグマたちに欧州の来園者からプレゼント
by polarbearmaniac | 2016-08-21 00:30 | Polarbearology

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