街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

『猫は父親の性格が遺伝する』(「ネコの動物学」) ~ ホッキョクグマはどうなのか? (1)

a0151913_1154267.jpg
この種の話は非常に注意して取り扱う必要があります。人間の血液型(A,B,O,AB)と人間の性格との関係などのように、科学的根拠はないものの日本だけにおいて当たり前のように広く語られる話というものもあるわけで、「猫は父親の性格が遺伝する」「ネコの動物学」 - 東京大学出版会)という認識も、ひょっとして猫好きの方々の多くにだけ共有されている話かもしれないわけです。そしてさらに「行動の傾向」を「性格」に直結したような認識になりやすいわけで、そもそも「猫の性格」というものについていったいどれだけの性格の種類のカテゴリーの数によって猫の性格が猫好きの方々の間で語られているのかについても、私は猫を飼ったことがないので知りません。さらに、猫のペアを長年飼って、そのペアの間に生まれた猫の性格が父親に似ているか母親に似ているかを比較するほどの期間も飼う、つまり二世代の猫を飼うという方々が果たしてそれほど多いのかについてもよくわかりません。ですから今回の投稿の内容は飲み屋で酒を飲みながらの与太話という程度でお付き合い下さい。

仮にもし「猫は父親の性格が遺伝する」という認識が本当に正しいとすると、ではホッキョクグマもそうなのかということを考える際に前提として考慮しておかねばならないのは、猫とホッキョクグマでは生活条件が異なるという点です。「この猫の性格は母親よりも父親に似ている」と猫好きの方々が認識した場合、その「猫」とは家庭内で飼っている猫を指してそう感じているということだと思います。こういった場合の猫は人間(つまり飼い主)と非常に身体的なコンタクトの機会が多いわけです。ところがホッキョクグマの場合は野生下ではそれが全くと言ってよいほどありません。飼育下においても比較的接近した関係にあるのは飼育員さんだけです。生活条件において「猫」とホッキョクグマはまずこれだけ違うわけです。そういったことを踏まえて、ここでは飼育下のホッキョクグマの例を具体的に見ていきたいと思います。

まず、大阪・天王寺動物園のシルカです。
a0151913_2142074.jpg
シルカ (Белая медведица Шилка)
(2015年12月12日撮影 於 天王寺動物園)

このシルカの母親はロシア・ノヴォシビルスク動物園のゲルダ、父親は同園のクラーシン(カイ)です。
a0151913_158118.jpg
ゲルダ (Белая медведица Герда)
(2014年9月12日撮影 於 ノヴォシビルスク動物園)

a0151913_1524986.jpg
クラーシン(カイ)(Белый медведь Красин/Кай)
(2014年9月12日撮影 於ノヴォシビルスク動物園)

さて、シルカの性格は母親のゲルダと父親のクラーシン(カイ)のどちらに似ているでしょうか? これは実は非常に難しいです。私がノヴォシビルスク動物園で観察した限りでは、ゲルダというのは比較的感情に起伏がありますが、クラーシン(カイ)はマイペースといった雰囲気がしました。そして次に感じたのは、シルカの性格は母親のゲルダに比較的似た面があるものの、行動については父親のクラーシン(カイ)に近いということです。

次に浜松市動物園のモモです。
a0151913_2235070.jpg
モモ (Белый медвежонок Момо)
(2015年12月19日撮影 於 天王寺動物園)

このモモの母親は同園のバフィン、父親は白浜AWSのゴーゴです。
a0151913_1211741.jpg
バフィンとゴーゴ (Белая медведица Баффин
и Белый медведь Гого)

(2012年1月19日撮影 於 天王寺動物園)

さて、モモの性格は母親のバフィンと父親のゴーゴのどちらに似ているでしょうか? これは関西在住のファンの方々の意見を是非聞いてみたいところです。私の感じではバフィンはプライドは高くないものの責任感があるように見えます。ゴーゴは自我を強烈に発散することのない利他的な性格であるように見えます。私はモモは、その本質的な性格は父親のゴーゴに近く、行動もゴーゴに近いように思います。これについてはいろいろ意見があるでしょう。しかし今回は飲み屋での話という程度で御理解下さい。

さて、これからが問題です。白浜AWSのこのゴーゴについてです。
a0151913_1284090.jpg
ゴーゴ (Белый медведь Гого)
(2012年8月25日撮影 於 天王寺動物園)

このゴーゴの母親はロシア・ペルミ動物園アンデルマ、父親はカザン市動物園の故ユーコンです。
a0151913_1455818.jpg
アンデルマ (Белая медведица Амдерма)
(2013年10月1日 於 ペルミ動物園)

a0151913_1394838.jpg
故ユーコン (Белый медведь Юкон)
(2013年9月28日撮影 於 カザン市動物園)

さて、ゴーゴの性格は母親のアンデルマと父親の故ユーコンのどちらに似ているでしょうか? 私の感じですがアンデルマは非常に友愛精神に溢れた温和な性格です。故ユーコンは寡黙で忍耐強く紳士的な性格のように見えました。私はゴーゴは性格的にも行動的にも母親であるアンデルマに似ていると思います。

シルカ、モモ、ゴーゴ、たったこの三頭の例だけなのですが、ホッキョクグマの性格の場合には「猫は父親の性格が遺伝する」といったような猫の場合とは少々違うのではないかという気もします。さて、では次にもう一つ興味深い例を見てみたいと思います。それはロシア・ペルミ動物園のユムカ(ミルカ)の場合です。
a0151913_2292989.jpg
ユムカ(ミルカ)(Белая медведица Юмка/Милка) 
(2015年8月11日、10日撮影 於 ペルミ動物園)

このユムカの母親はカザン市動物園のマレイシュカ、そして父親は同園の故ユーコンです。つまりユムカは父親が白浜AWSのゴーゴと同じなのですが母親が違うわけです。仮に「猫は父親の性格が遺伝する」がホッキョクグマに対しても正しいのならば、ユムカとゴーゴは母親が違っていても父親が同じなのですからこのユムカとゴーゴという二頭の性格は非常に似ていなければおかしいということになるのです。
a0151913_2455021.jpg
マレイシュカ (Белая медведица Малышка)
(2015年8月14日撮影 於 カザン市動物園)

a0151913_256449.jpg
故ユーコン (Белый медведь Юкон)
(2013年9月28日。2011年9月16日撮影 於 カザン市動物園)

さて、ユムカ(ミルカ)はマレイシュカと故ユーコンのどちらに性格が似ているでしょうか? 私がカザン、及びペルミで見たところ、このユムカ(ミルカ)の性格は、母親であるマレイシュカが非常に気が強くて気性が激しくて芯が強いという性格によく似ているのです。そして行動もマレイシュカに似ているのです。ところがゴーゴの性格は非常に気が強くて気性が激しいというようには全く見えません。私にはユムカとゴーゴは正反対の性格に見えます。つまりゴーゴの場合もユムカの場合も、性格的には共に父親である故ユーコンの寡黙な性格よりも母親(ゴーゴの場合はアンデルマ、ユムカの場合はマレイシュカ)にそれぞれ近いということなのです。

私の印象では「猫は父親の性格が遺伝する」という認識はホッキョクグマには、どうもうまく当てはまらないようにも思います。 また別の「ネコ学入門」という本で紹介文を書いている方は、猫の性格は大きく言って二つのカテゴリーがあって、「人間に懐きやすい性格か、懐きにくい性格か」ということだそうです。随分と単純な話ですね。ホッキョクグマのほうが猫よりももっと多くの性格のカテゴリーがあることは間違いないのではないでしょうか。あくまでもこれは飲み屋でのホッキョクグマ談義ですので、決して真面目に受け取らないで下さい。

さて、次はララファミリーです。実はこれは一筋縄ではいかない複雑で微妙な話なのです。  
(続く)

(資料)
「ネコの動物学」 (東京大学出版会)
マイナビニュース (Mar.17 2016 - 猫は匂いで挨拶する ―気まぐれな猫の性格を決めるのは遺伝か、環境か?)
「ネコ学入門」(築地書館)
Animal Behavior Associates (Genetic Influences on Cat Behavior Traits)
Daily Mail (Mar.3 2015 - Why we're more like our fathers than our mothers: Scientists discover we 'use' more male inherited genes)
by polarbearmaniac | 2016-08-22 06:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

フィンランド・ラヌア動物園の..
at 2017-04-28 02:00
アメリカ・コロンバス動物園の..
at 2017-04-27 11:00
ロシア極東・沿海州、ハバロフ..
at 2017-04-27 00:30
チェコ・ブルノ動物園の一歳半..
at 2017-04-26 00:30
ベルリン動物園 (Zoo B..
at 2017-04-25 00:30
モスクワ動物園の二歳半の雄(..
at 2017-04-24 01:30
ロシア・西シベリア、ボリシェ..
at 2017-04-24 00:30
オランダ・ヌエネン、「動物帝..
at 2017-04-23 00:30
ベルリン動物公園で死亡した赤..
at 2017-04-22 01:00
ロシア・シベリア中部、クラス..
at 2017-04-22 00:30

以前の記事

2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin