街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ウクライナ・ハリコフ動物園がホッキョクグマ飼育にEAZA(欧州動物園・水族館協会)への依存に傾斜深める

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ティム (Белый медведь Тим)
Photo(C)Комментарии

ウクライナ北東部の都市であるハリコフ(ウクライナ語ではハルキウ)の動物園に暮らす推定30歳の雄のホッキョクグマであるティムについては今まで何回か投稿してきました。同時にウクライナという国の複雑な動物園事情についてもご紹介してきたつもりです。このハリコフ動物園は現在閉園中であり二年後を目標に整備された形で再オープンする予定になっていることは前回の「ウクライナ・ハリコフ動物園の最低二年間の閉園期間中での老齢のティムの健康状態と将来を憂う」という投稿でご紹介してきた通りです。そもそもこのウクライナという国の動物園はロシアの側に顔を向けているのか欧州の側に顔を向けているのかがよくわからない状況です。政治的にウクライナがどちらの側に付くのかということと、動物園としてこのどちらの側に付くのかは全く別の問題であると考えたほうがよいように思います。実に複雑です。
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さて、報道によりますとこのハリコフ動物園は自園に建設する予定の新ホッキョクグマ飼育展示場について、そのアドバイスを欧州つまりEAZAに対して求めたようです。ハリコフ市のイーゴリ・チェレホフ副市長は9月5日にEAZA(欧州動物園・水族館協会)の代表と会談を行いホッキョクグマを初めとする動物たちの飼育環境その他、施設の概要や規模について相談したそうで、9月下旬に行われるEAZAの総会の際にその概要を提示することになったそうです。さらに将来的にはEAZA加盟園、つまり欧州からの個体導入へとつなげていきたい意思を示しているそうです。そうなるとハリコフ動物園はEAZAのEEPの枠の中に入っていくことも中・長期的な視野においては希望しているのだと考えることは十分可能でしょう。つまりハリコフ動物園はウクライナにありながらも欧州の動物園との密接な関係を構築する方向に舵を切ったのだという理解をしてよいように思います。

一方で同じウクライナにあってもムィコラーイウ動物園はモスクワ動物園と非常に近けて友好的な関係にあり、ムィコラーイウ動物園のヴラディーミル・トプチィイ園長はウクライナ動物園水族館協会の会長を務めています。かつて「ウクライナ、チェコ、ポーランド、スロヴァキアの四か国の動物園が「欧州スラヴ圏動物園共同体」を形成か?」という投稿でもご紹介していましたが、トプチィイ氏率いるウクライナ動物園水族館協会は同じ欧州でも旧東側のチェコ、ポーランド、スロヴァキアとの関係を重視したい考え方ですので、ハリコフ動物園はこうしたウクライナ動物園水族館協会とは異なる方向に歩み始めるということを意味するように思います。このあたりの関係は実に微妙ですね。さて、しかしあるマスコミの取材に対してハリコフ動物園のグリゴネフ園長は、同園で新ホッキョクグマ飼育展示場が完成した段階では現在飼育しているティムに加えて二頭の新しいホッキョクグマの若年個体がモスクワ動物園から来園することになると語っているのです。となると、穿った見方をすれば、すでにモスクワ動物園は背後でEAZAとホッキョクグマの繁殖計画について何らかの合意を行っており、そしてその結果としてEAZAに大きく傾斜しているハリコフ動物園に二頭のホッキョクグマを移動させるのだという考え方も成り立つように考えられるのです。つまり先日も私が述べたように欧露間ですでに見えない部分で何らかの協調関係ができつつあるということを示す根拠となりうると考えられるわけです。端的に言えば「欧露によるホッキョクグマ囲い込み体制」が少しずつ形を取りつつあるように感じられるわけです。

ハリコフ動物園のグリゴネフ園長が語る「モスクワ動物園から二頭の若年個体」という意味は、「モスクワ動物園が権利を有している二頭の若年個体」ということでしょう。そうなると真っ先に候補として頭に浮かんでくるのはイジェフスク動物園で昨年12月に誕生し人工哺育で育てられたシェールィとビェールィの雄の双子です。ハリコフ動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場の完成予定は二年後ですので、来年草々にこのシェールィとビェールィをイジェフスク動物園からモスクワ動物園のヴォロコラムスク付属保護施設に移して一年半ほど飼育し、そしてその後にハリコフ動物園に移動させるというシナリオなのかもしれません。

さてそうなると日本の動物園は短・中期的にはモスクワ動物園が権利を持たないロシア国内の幼年個体の入手を狙うか、それとも思い切ってモスクワ動物園に全面的に膝を屈して頼み込むかのどちらかでしょう。前者ならば、クラスノヤルスク、ペルミ、ノヴォシビルスク、ヤクーツクといった動物園と交渉することになるでしょう。後者を選択するならば入手には何年も待つことになるかもしれません。気になるのはハリコフ動物園が前のめりにEAZAとの密接な関係を構築しようとしている現在の状況です。ここには何かよくわからない不可解な要素が付きまとっているような気もするわけです。ロシア、ウクライナといったスラヴ圏の動物園事情、ホッキョクグマ事情は私の経験で言えば実に複雑怪奇なのです。

(資料)
Харьковский городской совет (Sep.5 2016 - В Харьковском зоопарке будут обитать новые животные)
В городе (Sep.5 2016 - Белые медведи, жирафы. бегемоты: в харьковском зоопарке появятся новые обитатели)
Настоящий Дозор (Sep.5 2016 - В Харьковском зоопарке появятся новые животные)
Сайт города Харькова (Sep.5 2016 - В Харьковском зоопарке появятся новые животные)
Status quo (Sep.5 2016 - В зоопарке появятся новые животные)
Вечерний Харьков (Sep.6 2016 - В Харьков приедут белые медвежата)
Комментарии (Apr.19 2016 - В Харьковском зоопарке живут 50-летний аллигатор и 31-летний медведь)

(過去関連投稿)
サーカスを「引退」し余生を送るホッキョクグマ ~ ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの夏
ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの近況 ~ 繁殖の「過去の栄光」をどう考えるか
ウクライナ ・ ハリコフ動物園に到来した暑い夏とサーカス出身のティムの近況 ~ 同園での繁殖の歴史
ウクライナ・ハリコフ動物園のティムにとっての不安 ~ 同国の政治的混乱とハリコフ動物園の窮状
ウクライナ東部、ハリコフ動物園のティムの無事を願う ~ ウクライナの動物園に蔓延した根深い腐敗
ウクライナ、チェコ、ポーランド、スロヴァキアの四か国の動物園が「欧州スラヴ圏動物園共同体」を形成か?
ウクライナ・ハリコフ動物園のティムの知られざる過去 ~ 1998年にキエフで起きた悲劇
ウクライナ・ハリコフ動物園の最低二年間の閉園期間中での老齢のティムの健康状態と将来を憂う
by polarbearmaniac | 2016-09-07 01:30 | Polarbearology

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