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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

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アメリカ・オレゴン動物園のノーラの来園を歓迎しない地元ポートランド市民の意見 ~ So what ?

アメリカ・オレゴン動物園のノーラの来園を歓迎しない地元ポートランド市民の意見 ~ So what ?_a0151913_16481514.jpg
ノーラ Photo(C)Oregon Zoo

いやはや、やはり厳しい意見もあるようです。こうやってコロンバス動物園からポートランドのオレゴン動物園にやってきたノーラに対して、彼女の来園を全く歓迎できない、拒否せよという地元ポートランド市民が地元紙に非常に厳しい意見 ("Oregon Zoo should say no to Nora the polar bear") を寄稿し、そして市民に呼びかけています。 私はこの意見は一理あると思います。45%は支持できる内容だと思います。ある程度の説得力はあると思います。こういった意見が出てくるアメリカはさすがだとは思います。是非その内容を読んでいただきたいと思います。英語ですから私などがそれを翻訳などする必要はないと思いますが、一応その内容を要約してご紹介しておきます。ただし必ず原文はご自身であたってみて下さい。以下が要約です。便宜上、やや意訳して必要なところは補いながら箇条書形式にしておきます。

・今回のノーラの受け入れについてもオレゴン動物園のホッキョクグマ飼育展示場の大改装につぃても市民はオレゴン動物園を支持しないでほしい。

・動物の行動についての正しい知見が明らかになるにつれ、ホッキョクグマを飼育下に置くことには懸念のある種であることが明らかになってきた。飼育下のホッキョクグマは常同歩行や頭を振るなどの正常とは言えない行動(zoochosis)を行う傾向があり、動物園はそのような心理的問題を抱えがちであるホッキョクグマの飼育からは撤退していく方向に向かうべきであり、(ノーラを受け入れることによってオレゴン動物園はホッキョクグマの飼育を)前進させる方向に行くべきではない。

・(ノーラを受け入れることによってオレゴン動物園はホッキョクグマの飼育を前進させる方向に行くことは)種の保存を言い訳にすることはできない。ノーラは野生のホッキョクグマたちを助けるために行われる飼育下のホッキョクグマ繁殖プログラムの一部として誕生したわけではない。生息地の縮小と気候変動がホッキョクグマにとっては根本的な(primary)問題であり、そこにこそ(人的)資源(場所と金と教育 - More space, money and education)が割り振られるべきであって動物園におけるホッキョクグマのより多くの繁殖のためにそういった資源が投じられるべきではない。

・我々はオレゴン動物園とそこに暮らす動物たちを愛するがこそ、オレゴン動物園が現状に盲目的に追随する動物園であって欲しくはないのである。動物福祉と保存について実体のある革新を望みたい。オレゴン動物園がこういった観点において動物園界においてリーダーシップをとることを切に促したい、

.......こういったような内容です。非常に理屈は通っていると思いますし傾聴すべき点はあると思います。正論であるといっても言い過ぎではないでしょう。しかし私に言わせればこの意見はいささか「書生的」であると感じます。「大相撲には八百長がある」と書いて一時批判キャンペーンを行った朝日新聞のように感じます。



動物園というところは確かに来園者は子供たちが多いわけですが、実はその本質は「大人の世界のフィクション」によって成立しているわけです。動物園の意義の一つとして「種の保存」というものが挙げられています。ホッキョクグマに関するならば、「ホッキョクグマの生態は気象変動によって脅かされており絶滅も危惧されているから、飼育下であっても繁殖に積極的に取り組んで、せめて種の保存にいくらかでも寄与したい。」ということはよく語られるわけです。しかしこ飼育下におけるホッキョクグマの繁殖がホッキョクグマという種のトータルな保存に寄与するなどということは全く有り得ません。ウスラーダやシモーナやララが何頭出産してみたところでホッキョクグマという一般的な意味での種の保存には全く寄与しません。種の保存というのはあくまでも自然生息下におけるものが全てであって、野生の種が絶滅しても飼育下で種を保存できるなどということは有り得ないのです。しかし我々は「飼育下における種の保存は、一般的な種の保存にも寄与できる」というフィクションを構築し、それを動物園の意義として自分たちを納得させているだけなのです。それは「大人の世界の知的なフィクションによる芝居」なのです。しかしこの芝居にはやはり意義はあるのです。

大相撲には昔から八百長があります。力士の属する部屋同士の星の貸し借りなどというものは昔からあったわけです。そんなことは贔屓筋でも全て知っている話です。そういったことを暗黙の了解で知った上で相撲ファンは大相撲を楽しんできたわけです。過去の偉大な横綱たちのそれぞれの姿については、いかに大相撲に八百長があってもその姿は我々の心に焼き付いているわけです。しかしそれを「大相撲には八百長があるのはケシカラン」と声を荒げて「常に真剣勝負せよ」と語ったのは正論ではありますが大人の世界の暗黙の了解事項を知らない人々の「書生的」な意見だったわけです。

上でご紹介したオレゴン市民の意見は正論でしょう。それに反論するのはロジックでは難しいかもしれません。何故ならこのオレゴン市民の方の述べることは correctness つまり"conformity to fact or truth" に立脚しているからです。この市民の方は実際に何回オレゴン動物園を訪問したのかはわかりません。しかし仮に何度訪問していたにせよ、この方は「一見さん」でしょう。動物園を一度も訪問せずとも動物園という存在の虚構性を認識し、そしてその意義についてのフィクションを受け入れて芝居を楽しむことができる人々は「常連」なのです。

(資料)
The Oregonian (Sep.18 2016 - Oregon Zoo should reflect our values and say no to Nora the polar bear)

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by polarbearmaniac | 2016-09-22 17:30 | Polarbearology

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