街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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「ホッキョクグマ計画推進会議」が大阪で開催 ~ 将来の方針と海外個体導入の可否は議題と無縁か

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モモ(2015年3月10日撮影 於 大阪・天王寺動物園)
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リラ(2015年4月5日撮影 於 札幌・円山動物園)

さて、今年も「ホッキョクグマ計画推進会議」が開催されたようです。場所は大阪の天王寺動物園で9月27、28日の両日にわたって行われたとのことです。テーマは「ホッキョクグマの飼育や繁殖についての意見交換」であったということ以上のものは明らかになっていません。ちなみに昨年のこの会議についていったいどのようなことが議題に上っていたのだろうかを推測してみたのが「「ホッキョクグマ計画推進会議(於 恩賜上野動物園)」について ~ 「ツヨシ問題」の行方や如何」という投稿でした。つまり昨年のこの会議については想定されていだであろうペアの交代という現実的な問題があったわけですが、今年の会議については昨年のようなペアの交代の問題が喫緊の議題ではなかっただろうと考えられます。つまり繁殖のためにホッキョクグマを移動させる計画は今回はあまり語られなかっただろうと思われます。仮に語られたとすれば非常にdrastic な案が机上にのぼったことを想定せざるを得ず(つまり必ず旭川が関わることになるでしょう)、そういう案が話し合われるということはこの会議の目的にはなりにくかっただろうということです。唯一の例外は札幌・円山動物園に完成する予定になっている新飼育展示場と、そのオープンに関連した個体の移動(つまり基本的には札幌への帰還)の問題だけだったろうと考えられます。これは預託契約終了による個体の粛々とした「帰還」であり、繁殖のための移動とは性格を異にするわけです。ですから今年の年末から来年の春にかけての日本における繁殖目的の個体移動は非常に少ないか全く無いかのどちらかだろうという予想は十分に成り立つわけです。


さて、私自身はこういった会議についてそこで何が語られたかを推測してみることにはもう関心が無くなってしまったというのが本当のところです。それは日本のホッキョクグマ界に関心を失ってしまったわけではないものの、こういった「ホッキョクグマの飼育」「ホッキョクグマの繁殖」をテーマとすることよりも、「将来の日本の動物園におけるホッキョクグマの飼育・展示をどうするか」という問題意識を抜きにして「ホッキョクグマの繁殖」を考えることは無理となってきたという段階に至っているのが正常な問題意識だと思っているからです。
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モモ(2015年3月10日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

具体的に言いますとこういったことです。たとえば横浜ズーラシアは「ジャンブイ後」のホッキョクグマの飼育展示をどうするのかといったことです。国内の他園から連れてきますか? 連れてくるといっても他園で繁殖に成功して誕生した個体を連れてきて展示するということでしょうか(たとえば熊本のマルルや徳島のポロロのように)? その場合に連れてきた個体の繁殖をズーラシアで試みるならばパートナーを確保せねばなりません。そのパートナーをどう入手しますか? パートナーの入手が不可能ならば、繁殖には挑戦せず、単に個体の飼育・展示を行うことだけに徹しますか? 熊本や徳島(そして帯広)は、現在のところは他園(つまり札幌)で繁殖成功によって誕生した個体を飼育・展示していますが、そういった預託個体の展示でホッキョクグマ不在問題を切り抜けられると考える動物園がこれから他に現れてきてもおかしくはありません。その一方で、「現在飼育している個体が高齢になって亡くなれば、もうホッキョクグマの飼育・展示は行わない(撤退する)」という方針を採るのならば、残念ですがそれはそれで一つの尊重すべき選択です。パートナーの確保ができないために一頭だけでの個体飼育・展示を続けるよりもはるかにましな選択でしょう。
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モモ(2015年3月10日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

こうしたことを考えていくと具体案として透けて見えてくるものはおのずと明らかです。それは海外個体の導入です。この場合ロシアから以外は想定しにくい(つまり不可能)ということです(札幌・円山動物園の欧州個体との交換構想を除く)。その頼みのロシアですら現実的には、そこからの個体導入はハードルが極めて高くなってしまっているのです。こういった件については「ロシア動物園水族館協会(RAZA)が設立 ~ ロシアでモスクワ動物園の主導的地位が一層強まる」、「ロシア・ペンザ動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場が9月にオープン ~ それが意味する重要なこと」、「ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか」という三つの投稿を御参照下さい。
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リラ(2015年4月4日撮影 於 札幌・円山動物園)

日本の動物園におけるホッキョクグマの飼育・展示を行う動物園の数の減少を防ごうとすれば飼育個体の頭数維持を第一の目的としてホッキョクグマの繁殖計画を推進することになります。あらためて復習しておきたいと思いますが、「2011声明」 が発表された時の記者会見の質疑応答で、当時の種別調整者であった旭山動物園のFさんは「デナリの血筋ばかり広がることについては?」という質問に対しての回答は「デナリとララ以外の血統をより広げていくことも必要であると認識しておりますが、今の状況はそうは言っていられない状況でもあると認識しています。繁殖可能なうちに実績のあるデナリに期待したいと思います。」 となっています。この国内の飼育頭数維持という方針が現在も維持されているわけです。しかし仮にこういった方針を極端な形で極限化すれば「デナリ/デア」「デナリ/ミルク」「デナリ/シルカ」「デナリ/ヴァニラ」「デナリ/モモ」といった、デナリの最大活用という驚愕の奇策すら登場する可能性があります。そしてこの奇策での繁殖成功の確率は高いかもしれません。しかしいくらなんでもこれらはないでしょう。次世代の血統の遺伝的多様性維持には致命的なダメージを与えることになるわけです(ただし私は「デナリ/シルカ」「デナリ/ヴァニラ」ならば有り得るとも考えます。これは「ゴーゴ/シルカ」「ロッシー/ヴァニラ」よりも血統的には優る組み合わせだからです)。 さて、では飼育個体の頭数維持を第一の目的としない場合、つまりこれは次世代の血統の遺伝的多様性の毀損を最小化しようという意図が比較的強く働く場合ですが、この場合はいくつかの動物園にホッキョクグマの飼育・展示の継続を断念してもらうということを意味します。この場合には他血統の個体を海外(すなわちロシア)から導入する以外にはないわけで、要求条件的に考えれば現時点でこれが可能なのは札幌と浜松だけです。しかし資金的に考えれば前者の札幌だけでしょう。

もう日本のホッキョクグマ界において「ホッキョクグマの繁殖」とは、上の前者の道を選択し続けるか、あるいは後者の道に方向転換するかを考えることを抜きにするわけにはいかないのです。つまり海外からの個体導入はどうしても必要なのです。
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リラ(2015年4月5日撮影 於 札幌・円山動物園)

今回の「ホッキョクグマ計画推進会議」に参加していらっしゃった方々は飼育の現場の最前線で汗をかいていらっしゃる方々です。こういった担当飼育員さんの不断の努力によって我々は日本の動物園でホッキョクグマたちの素晴らしい姿を見ることができているというわけです。心から感謝したいと思っています。しかしその一方で、未来においてもホッキョクグマの飼育・展示を行う方針を維持するか、それとも将来は断念するか(つまり撤退するか)という方針を決める「権限 (authority)」があるのはこういった飼育現場の最前線の方々ではなく、園(あるいは自治体)の上級管理職の方々でしょう。ましてや海外(つまりロシア)の個体を導入するような方針を決定する権限、そしてそのための資金調達(予算化)、そのための交渉、これらを行うのも現場の飼育員さんたちではありません。私が先に「こういった会議についてそこで何が語られたかを推測してみることにはもう関心が無くなってしまった」と述べたのは、私自身の関心が「日本における将来のホッキョクグマの飼育・展示についての方針」の方向生、そしてそれに密接に関係してくる「海外個体導入の方針決定への可否」へと意識が移行してしまっているからです。こう言い換えてもよいでしょう、それは戦いにおいて「ホッキョクグマ計画推進会議」は「戦闘 (Battle)」をいかに戦うかが論議された場所だっただろうということです。私は「戦争 (War)」にいかに勝つかに関心が移行してしまったというわけです。円山動物園は「戦闘」に勝とうとすればノヴォシビルスクからロスチクを導入してリラのパートナーにすればよいのです。ロスチク/リラは世界的に見ても素晴らしいペアになると思います。ところがこれでは「戦闘」には勝てても「戦争」に勝つことは難しくなるということなのです。

(過去関連投稿)
・「ホッキョクグマ計画推進会議(於 恩賜上野動物園)」について ~ 「ツヨシ問題」の行方や如何
・ロシア・サンクトペテルブルク、レニングラード動物園のウスラーダとメンシコフの不屈の挑戦
・大阪・天王寺動物園のモモの将来のパートナーを考える ~ 「二大血統」の狭間で苦しい展開を予想
・ロシア動物園水族館協会(RAZA)が設立 ~ ロシアでモスクワ動物園の主導的地位が一層強まる
・ロシア・ペンザ動物園の新ホッキョクグマ飼育展示場が9月にオープン ~ それが意味する重要なこと
・ロシア・クラスノヤルスク動物園の新飼育展示場計画発表 ~ 欧露の「囲い込み」体制に日本はどう対応するか
by polarbearmaniac | 2016-09-30 00:30 | Polarbearology

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