街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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男鹿水族館のクルミが着々と出産準備体制に移行 ~ 繁殖成功を仮定した場合の今後の展望

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クルミ(Kurumi the Polar bear/Белая медведица Куруми)
(2013年6月22日撮影 於 男鹿水族館)

男鹿水族館で飼育されている19歳の雌のクルミ(1996年12月26日生まれ - 血統番号#1577) に対して同館では着々と出産準備体制が採られていることが秋田魁新報の10月9日付けの記事によって報じられています。男鹿水族館というのはホッキョクグマ飼育に関してはオーストラリアのシーワールドの方法論に準拠しているわけで、オーストラリアのシーワールドはアメリカ動物園・水族館協会 (AZA) が作成した「ホッキョクグマ飼育マニュアル (Polar Bear Care Manual)」を採用しているため、結果的には男鹿水族館は日本の他の動物園とはやや異なるやり方や概念規定、用語使用を行います。日本の動物園では「放飼場」という言い方をするところを、男鹿水族館では「飼育展示場」とするなどといったことで、これは「飼育」はしていても「展示」していない場所 (off-exhibit)と、「飼育」も「展示」も同時に行う場所 (exhibit)といったものの二つの概念を区別しようという考え方が背景にあるわけです。日本での「放飼場」という言い方は展示の有無を明確にしない言い方です。ですから日本語の「放飼場」は "exhibit" と "off exhibit" の両方を含む場合があるということです。さらに「飼育」はしていても「展示」していない場所を "inner holding area" という別の概念を導入しているのもAZAのマニュアルの特徴であるということです。こういった概念規定を頭に入れておきませんと男鹿水族館におけるホッキョクグマの出産準備についての情報をすんなりと理解できないことになります。円山動物園や天王寺動物園におけるホッキョクグマの出産準備の状況と男鹿水族館の準備過程は、外見からみれば似ているところがありますが、実は明確に異なる概念と考え方によって行われているということです。ホッキョクグマを飼育し、そして雌に出産が期待されているという動物園は世界にいくつもあり、それらを全てここで取り上げていくのは無理ですが、今回は久しぶりにこのクルミについて考えてみたいと思います。
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クルミ(Kurumi the Polar bear/Белая медведица Куруми)
(2013年6月22日撮影 於 男鹿水族館)

クルミは御存知のように2012年12月24日に最初の出産でミルクを誕生させたわけですが、その後2014年、2015年と二回の繁殖シーズンについては繁殖に成功していなかったわけで、そろそろ今年はどうだろうかという期待が集まっているわけです。繁殖に成功すれば秋田県(男鹿水族館)にとっては待望の自己で所有権を持つホッキョクグマの出現ということになります。仮に誕生した赤ちゃんが雌(メス)ならば、「コマチ」という名前になるのは決定的でしょう。秋田県にゆかりの歴史上の美女である小野小町に由来しているわけです。何故そう言えるかといいますと、前回のミルクの命名についての投稿である「男鹿水族館の赤ちゃんの名前が 「ミルク」 に決定!」を御参照下さい。少なくとも私は、仮に来年の春にこの赤ちゃんが性別判定で雌(メス)とされ、一般公開されたあと正式に命名されるまでは「コマチ」という仮称で呼ばせてもらうことを今のうちから宣言しておきます(笑)。
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クルミ(Kurumi the Polar bear/Белая медведица Куруми)
(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

さて冗談はさておきとして、これからが問題です。実は日本のホッキョクグマ界に不足しているのは雄(オス)の幼年・若年個体であり、そうなるとクルミの第二子は雄(オス)であることが本当は望ましいわけです。というよりは、どうしても雄(オス)であってもらわねばなりません。その次が問題なのですが、この「秋田県所有の雄(オス)」の将来のパートナーです。真っ先に頭に浮かんでくるのは浜松市動物園のモモでしょう。モモは「アンデルマ/ウスラーダ系」と血がつながっており(アンデルマの孫にあたるわけです)、そしてララファミリーとは遠い血の繋がりもあります。となればモモは「秋田県所有の雄」のパートナーとしては血統的に極めて適しています。さて、そうなった場合にですが浜松市はモモを男鹿水族館に移動させるという選択はしにくいでしょう。秋田県(男鹿水族館)も自己所有の雄を浜松市動物園に移動されるという選択は難しいでしょう。しかしその時点、つまり2022~23年頃はまだ豪太 (2003年11月26日生まれ) は悠々と繁殖可能年齢ですからクルミ以外のパートナーと繁殖に挑戦していて当然だと思います。となれば、やはり「秋田県所有の雄」が浜松市動物園に移動してくると考えるほうが可能性はありそうです。ただし何らかの形で秋田県(男鹿水族館)がどうしても「秋田県所有の雄」を同館以外に出すことに難色を示せば、この「秋田県所有の雄」のパートナーはララファミリーの個体となるでしょう。この組み合わせも血統的には何の関係もないため優れた組み合わせとなるでしょう。
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クルミ(Kurumi the Polar bear/Белая медведица Куруми)
(2013年7月27日撮影 於 男鹿水族館)

仮に今シーズン、クルミが出産に成功しなくてもクルミは当分の間は男鹿水族館に留まるだろうと思います。それはBL契約の有効期限が実際にどうなっているかという形式的な話とはやや異なる視点が必要です。クルミは出産・育児に一度成功していますから、こういった個体の次の繁殖成功を引き続いて狙うというほうが確率は大きいと思います。そしてもうクルミは釧路に帰ろうにも居場所がなくなってしまったからです。そうなるとこのクルミのBL契約期間は適時に延長されていくことは多分間違いないというわけです。そうなると横浜のツヨシは「横浜後 (après Zoorasia)」として男鹿水族館を想定することは難しくなるかもしれません。「ツヨシ/ジャンブイ」による繁殖挑戦は実質的には二シーズンですが、その終了後にツヨシをどうするかということが問題です。仮に「豪太/クルミ」の組み合わせで二度目の繁殖に成功しない場合に契約期間の形式性にこだわって来年か再来年にこのペアを解消させた場合にはツヨシの男鹿移動は非常に現実味が出てくるでしょう。この場合、「ゴーゴ/クルミ」という組合せも視野には入るのですが、いかんせん場所がありません。

あれこれ想定していくときりがありません。しかし私は前回のクルミの育児を見ていると「私はお前たち人間が切望していたようにちゃんと(ミルクの)出産を実現し育児を行った。だから私はもう自由である。これ以上また私に何を期待しようというのか。もういい加減にしてほしい。」とでも言いたげな顔に見えたということです。

(資料)
秋田魁新報 (Oct.9 2016 - ホッキョクグマのクルミ、出産準備 男鹿水族館)
アメリカ動物園・水族館協会 (AZA) 「ホッキョクグマ飼育マニュアル (Polar Bear Care Manual)

(過去関連投稿)
独立自尊のミルク、その涙無しの旅立ち ~ また釧路でお会いしましょう、お元気で!
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by polarbearmaniac | 2016-10-09 18:30 | Polarbearology

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