街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

カナダ・コクレーン「ホッキョクグマ居住村」のイヌクシュクの近況 ~ 彼の貢献が必要な日本

a0151913_23385236.jpg
イヌクシュク Photo(C)Air Canada

カナダのトロント動物園の13歳の雄のイヌクシュクが同園における繁殖プログラムから外されてオンタリオ州コクレーン(Cochrane) の「ホッキョクグマ居住村(Polar Bear Habitat)」に移動してきた件についてはすでに述べています。このイヌクシュクはもともとトロント動物園が権利をもつホッキョクグマであり、トロント動物園でオーロラとニキータの野生孤児双子姉妹の出産準備期間中にはこれまでも何度かイヌクシュクは期間限定でコクレーンに移動してきたわけですが、今回は彼が繁殖プログラムから外されてしまたっために彼のコクレーン滞在は長くなることが予想されます。
a0151913_2340256.jpg
イヌクシュク Photo(C)Polar Bear Habitat

このイヌクシュクについては今まで何度もご紹介してきましたが北米の飼育下における雄のホッキョクグマとしては最もその繁殖能力に信頼性があるわけで、たとえば彼がサンフェリシアン原生動物園に移動して再度エサクバクとの間で繁殖を狙うということは今後も選択肢としては十分考えられることだと思います。このイヌクシュクのコクレーンの「ホッキョクグマ居住村」における最近の様子が公式映像として公開されていますので見てみましょう。





このイヌクシュクには日本のホッキョクグマ界で活躍してほしいとさえ私は思っていますが、いかんせん日本とカナダの間でのホッキョクグマの個体移動というのは極めて困難です。今から12年前の2004年頃にカナダの野生孤児として保護された双子兄弟であるネルソンとハドソンのうちのどちらかが男鹿水族館に移動するという話が実現の一歩手前だったという件があって以来、カナダと日本のホッキョクグマ界にはつながりというものは全く無くなっています。この件については愚痴の一つも言いたくなります。野生孤児のネルソンかハドソンのどちらかが男鹿水族館に来てくれていたら、その時点でモスクワ動物園のムルマの息子(つまり豪太)は日本に来なかったはずです。そして日本のホッキョクグマ界はムルマの最後の息子でありノヴォシビルスク動物園に一時預けられていた2011年暮れに誕生した雄の個体の入手を実現できていれば実に都合がよかったのです。そうなっていればアイラやマルルやポロロのパートナー問題の半分は解決できたのです。2004年の時点ではまだまだムルマはその後の繫殖が大いに期待されていたわけで、事実ムルマは2003年に豪太を産んだあと4回で5頭の出産に成功し、血統情報上ではそのうち4頭は雄だったのです(私の説では3頭)。2004年の段階で早々とムルマの息子を日本に連れてくる必要は無かったわけでネルソンかハドソンが男鹿水族館に来てくれていれば日本の飼育下のホッキョクグマの血統の遺伝的多様性の維持にどれだけ貢献できたかしれません。ところが男鹿水族館(秋田県)がカナダと結託したオーストラリアのシーワールドによって「無理やり掴まされた」のは野生出身のハドソンやネルソンではなく飼育下出身の豪太だったというわけです。2004年の段階ではこれは「外れくじ」なのです。あと、浜松でジェイソンとバフィンとの間の繫殖に成功していてくれたら本当にその後の日本のホッキョクグマ界は楽だったのです。今更過去のことをどうこう言っても無駄な話ですが、しかしその時から血統の問題を重視していれば現在の日本のホッキョクグマ界はかなり違ったものになっていたのは間違いないのです。ただしその時その時において個々の施設が日本のホッキョクグマ界全体の問題を把握したり理解したりすることはほとんど不可能だったであろうことも間違いないわけで、要するに各施設が独自に考え行動してきたという状態こそが後になって結果として問題を生じさせてしまったという理解が正しいでしょう。仮にそうした理解を前提とすれば、「日本のホッキョクグマ界は運が悪かった」と言って済ますことも可能でしょう。ただし私にはどうしてもそう言ってしまってはいけないように考えています。やはり現在の日本のホッキョクグマ界の行き詰った状態は「回避可能だった」と考えています。

このコクレーンのイヌクシュクになんとか日本のホッキョクグマ界に貢献してもらいたいと考えるのは当然なのですが実現は困難なのです。

(資料)
Go Far (Oct.27 2012 - Polar bear Inukshuk reunited with his rescuer)

(過去関連投稿)
カナダでの飼育下期待の星、イヌクシュクの物語
カナダ・コクレーン、保護教育生活文化村のイヌクシュク、繁殖への期待を担って再びトロント動物園へ
カナダ・コクレーン、保護教育生活文化村へのイヌクシュクの帰還とEAZAの狙うミラクの欧州域外流出阻止
カナダ・コクレーン、保護教育生活文化村にイヌクシュクが無事帰還 ~ 息子のガヌークの近況
カナダ・オンタリオ州 コクレーンの保護教育生活文化村に暮らすイヌクシュクとガヌークの父子の近況
カナダ・トロント動物園に戻ったイヌクシュクのさらなる挑戦 ~ 優秀な雄の最後の課題は相性の克服
カナダ・トロント動物園のイヌクシュクが繁殖から事実上の「強制引退」か? ~ 同園の大胆な決断
カナダ・トロント動物園のイヌクシュクが無事にコクレーンの「ホッキョクグマ居住村」に到着
by polarbearmaniac | 2016-10-20 23:30 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

アメリカ・オレゴン動物園を去..
at 2017-05-28 23:50
ロシア・ペルミ動物園でセリク..
at 2017-05-27 23:50
ズーパラダイス八木山の二日目..
at 2017-05-26 23:50
ズーパラダイス八木山のホッキ..
at 2017-05-25 23:50
ポーラに迫りつつある正念場 ..
at 2017-05-25 23:30
ラダゴル(カイ)に備わってき..
at 2017-05-25 23:10
国内最高齢の32歳になったナ..
at 2017-05-25 23:00
ドイツ・ミュンヘン、ヘラブル..
at 2017-05-25 01:00
アメリカ・トレド動物園のホー..
at 2017-05-24 18:30
フランス・ミュルーズ動物園の..
at 2017-05-24 01:00

以前の記事

2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin