街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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デンマーク・コペンハーゲン動物園がボリスとノエルの相性を否定的に評価し同ペア間の繁殖を断念へ

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ボリス (Белый медведь Борис - 男鹿水族館・豪太の弟)
Photo(C)Jeppe Michael Jensen/B.T.

これはなかなか深く考えなければならない硬派のニュースです。タイトルはこのようにしてありますが、その実際の内容は「ペアの相性が良好でないことがホッキョクグマに常同行動 (Stereotypic Behaviour) を引き起こす要因の一つになり得るか?」というテーマであるということです。

デンマークのコペンハーゲン動物園には間もなく11歳となる雄のボリス(現地での愛称はイワン)と間もなく13歳となる雌のノエルという二頭のホッキョクグマが飼育されており当ブログでも何回かご紹介してきましたし私自身も5年前に彼らに会ったことがあります(過去関連投稿参照)。ボリスはモスクワ動物園でムルマを母親として誕生していますから男鹿水族館の豪太のすぐ下の弟に当たりますし、ノエルはイタリア・ファザーノのサファリ動物園生まれで上野動物園のデアの一番上の姉に当たります。どちらも日本のホッキョクグマには関係のある個体です。

さて、コペンハーゲン動物園では以前からこの二頭の間の繁殖成功に強い期待をかけ、ここ数年環境を整備して努力してきたわけですがここにきて思いもかけぬ状況が生じてしまっているようです。中国・広州市の「広州正佳極地海洋世界 (广州市正佳极地海洋世界 - Guangzhou Grandview Polar Ocean World)」で飼育されているハイブリッドのホッキョクグマである「皮扎/皮萨 (Pizza)」について動物権利保護活動家による新しい形でのメディアキャンペーンが行われているのですが、そこで新たに問題視されているのがホッキョクグマの「常同行動 (Stereotypic Behaviour)」であり、権利保護活動家は「皮扎/皮萨 (Pizza)」のこの行動によって彼女の精神状態が変調しているのだとして当該施設に対する批判キャンペーンをここ数日、一段と強化しているわけです。ところがコペンハーゲンのファンの方々のうちの何人かはこの「皮扎/皮萨 (Pizza)」と似たような反復行動をコペンハーゲン動物園のホッキョクグマも行っているとデンマークのTV局のSNSサイトのページに投稿したわけです。それについて意見を求められたコペンハーゲン動物園のバンク・ホルスト園長(肩書きは videnskabelig direktør ですが、これは経営部門を除く全ての飼育部門の責任者ということで一応「園長」としておきたいと思います。この方は例のキリンのマリウスの察処分についてTVニュースなどで説明を行った気骨のある方です)は複数のTV局の取材に対して、このコペンハーゲン動物園のホッキョクグマの常同行動については当然把握しており、そしてその原因と考えられるものについてもすでに対策を考えていることを明らかにしました。ここでコペンハーゲン動物園のホッキョクグマの常同行動であるとされて現地のTV局で報道されている映像をご紹介しておきます。最初の水中での映像はノエル、次の映像はボリスです。






この程度の行動ですぐさま異常であるというのは過剰な反応のような気がしますが、しかし常同行動であると言われればそれ自体を否定はできません。さてホルスト園長が語るには、このボリスとノエルのペアは幼少期から一緒に暮らしていて仲が良かったものの、繁殖可能年齢となって以降は次第に微妙な関係が生じてきたそうです。どういうことかということですがホルスト園長は細々とした二頭の同居の様子を述べており、要するに二頭の間の互いに相手に対するアプローチに「行き違い」が段々と拡大してきていたということを延々と述べているのですが、これをさらに要約すれば二頭の間の発情時期の相違によって両者が相手に対して大きなストレスを感じるような険悪な関係に陥ってしまったということのようです。繁殖行動期を過ぎても雌のノエルは雄のボリスの接近を非常に嫌い、そして威嚇するだけでなく追い回すという行動にすら出るようになったそうです。コペンハーゲン動物園はこの二頭におもちゃを与えたり、あるいは給餌の際に食べ物を隠しておいて彼らがそれを探し出して食べるといったようなエンリッチメントを行うようになってからはノエルのボリスに対する威嚇的行動は無くなったそうです。ここで同園のホッキョクグマに対するエンリッチメントの様子を映像で見てみましょう。最初の映像はボリスです。二番目の映像はノエルのような気がします。





ご参考までに訓練(トレーニング)の様子もご紹介しておきます。



さて、しかし今度はボリスとノエルは以前には全く行わなかった常同行動を行うようになり、それももう何か月間にもわたって継続するようになったそうです。実は私は5年前にこのペアに会っているのですが、その時にこのボリスもノエルも確かに常同行動は全く行っていなかったことを記憶しています。ホルスト園長はこの二頭の常同行動の原因を欲求不満に対する代償行為として位置付けており、もう以前のような友好的な関係にこの二頭が戻ることはないだろうと語っています。そしてペアの組み換えこそが最良の手段であると考えてEAZA(のコーディネーター)に対して他園のホッキョクグマ一頭をコペンハーゲン動物園に移動させるように調整を依頼したそうで、その調整によって雄のボリスに代わってノエルのパートナーとなる雄の一頭がコペンハーゲン動物園に移動してくることが内定している模様です。この結果、ボリスは他園に移動する模様です。そしてさらに言えば、今年の春の繁殖行動期においてこのペアの間に繁殖行為がなかったことがこれで明らかになったということです。

コペンハーゲン動物園のバンク・ホルスト園長(videnskabelig direktør)はなかなか果敢に現状の改革を試みる方のようです。ボリスは間もなく11歳、ノエルは13歳になるところですが、ホルスト園長は早々とこのペアに見切りをつけてペアの組み換えを決断したわけです。やはりこれはコペンハーゲン動物園としてホッキョクグマの繁殖に対する並々ならぬ意欲の表れだと考えて間違いないと思います。一般的に言えば、あるホッキョクグマが常同行動を行うからといってそのホッキョクグマか関与する繁殖の成否には関係性は非常に少ないと私は今までの経験から考えています。ただし今回の場合は、ペアの関係が悪くなってから常同行動が始まったということだそうですから、こうした場合はペアの相性と常同行動との間の関係性が大いに疑われるわけです。要するに常同行動の原因となっているものが何なのかが問題だということです。ペアの相手方に対する欲求不満や嫌悪感が原因で常同行動が行われる場合というのは実際は日本のホッキョクグマ界では例が極めて少ないように思います。そもそもペアとうまくいくかどうかとは別に、一日の多くを常同行動に費やすホッキョクグマもいれば、少ししか行わない個体もいるといったようにバラつきがあります。そして主に常同行動を引き起こしているものはホッキョクグマが日々に感じている退屈さである場合が多いと思っています。そしてその退屈さを紛らわせる一種の代償行為としての反復行動が常同行動であると考えてそう大きな間違いではないと思います。

さて、ボリスと交代でいったい欧州内のどのホッキョクグマがコペンハーゲン動物園にやってくるかに注目したいと思います。私の思い切った予想ではドイツ・ノイミュンスター動物園のカップではないかと考えています。ボリスと同じ血統に属しているわけですし、彼にはノイミュンスター動物園ではパートナーがいないわけです。

(資料)
B.T. (Oct.28 2016 - Københavns ulykkelige isbjørne skal skilles)
Ekstra Bladet (Oct.28 2016 - Ulykkelige isbjørne giver problemer i Københavns Zoo)
TV2 (Oct.28 2016 - København Zoo erkender: Den er helt gal hos isbjørnene)

(過去関連投稿)
デンマーク ・ コペンハーゲン動物園の新施設 “Den Arktiske Ring” の完成 ~ 期待される若年ペアの繁殖
デンマーク・コペンハーゲン動物園のボリスがスカンジナヴィア野生動物公園に期限付きで移動
デンマーク・スカンジナヴィア野生動物公園に出張中のボリスがコペンハーゲン動物園に帰還
デンマーク・コペンハーゲン動物園のノエルが超音波検査を受ける ~ 今年の繁殖成功は困難か?
デンマーク・コペンハーゲン動物園のボリスに2.5トンの雪のプレゼント
デンマーク・コペンハーゲン動物園で男がホッキョクグマ展示場に侵入 ~ 警告発砲を受けたボリスは無事
デンマーク・コペンハーゲン動物園、ノエルとボリス(イワン)の有望なペアの繁殖への期待と挑戦
デンマーク・コペンハーゲン動物園のボリスとノエルに予期せぬ氷のプレゼント

(*2011年7月コペンハーゲン動物園訪問記)
コペンハーゲン動物園のホッキョクグマたちに挨拶 ~ 豪太の弟に遭遇!
コペンハーゲン動物園のボリスとノエルに、魚とウサギのプレゼント
コペンハーゲン動物園での新施設建設とボリスとノエルの繁殖への期待
by polarbearmaniac | 2016-10-30 17:00 | Polarbearology

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