街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ホッキョクグマの出産シーズンを迎えて ~ データを基礎にした知識・情報整理

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ララ、そしてマルル(左)とポロロ(右)
(2013年3月22日撮影 於 札幌・円山動物園)

さて、世界のホッキョクグマ界では今年もすでにその出産シーズンに入っています。すでに報道されているだけでもベルリン動物公園で11月3日に双子の赤ちゃんが誕生しています。毎年行っていることなのですが、ここで再度ホッキョクグマの出産についてその傾向、及び基本的な情報を整理しておきたいと思います。動物解説書やら動物百科などに書かれている内容ではなく、あくまでも実際のデータに裏付けられた資料をあたっていくことにしています。
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ポロロ(左)とマルル(右)
(2013年3月22日撮影 於 札幌・円山動物園)

まず最初に(A)ホッキョクグマの出産日についてです。これについては2015年に発表された “Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis” という最新の調査研究報告からのデータを再度使用します。これは血統登録台帳の1912年から2010年までの約100年間の北米の動物園で飼育されていたホッキョクグマの456回の出産によって誕生(そして成育)した697頭の個体についての集積データです。尚、これは出産数(litter)であって出産頭数(number of cubs)ではありませんのでご注意下さい。以下のグラフをワンクリックしていただき開いたページの+記号をさらにクリックしていただくと拡大します
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(出典)"Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis" (Figure 3. The number of litters born per day of polar bear birth season. )

やはり出産日として多いのは11月8日あたりから12月20日頃までだということが言えます。ピークは11月22日から12月12日といった約20日間のようです。特定の一日を挙げれば、中間日(つまりピークの中のピーク)は11月29日のようです。
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モモ (2015年3月10日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

次は(B)ホッキョクグマの繁殖行為と出産の結果との関係です。このデータはロシアの極地地域自然保護研究所のイーゴリ・トゥマノフ氏がまとめた “Reproductive Biology of Captive Polar Bears” という報告書(英語)からのものです。このデータはロシア・サンクトペテルブルクのレニングラード動物園で1932年から1988年までの56年間の50回の出産で生まれた88頭の事例のデータを集めたもので非常に貴重な記録です。 (つまりあの女帝ウスラーダが繁殖の舞台に登場する以前の段階でのデータということです。ウスラーダ登場後まで含めて計算しますと、83年間に106頭の赤ちゃんの誕生ということになります。)尚、この88頭は出産後2~3週間以上生存したものを1頭とカウントしている点をご留意下さい。またこのデータでは Pregnancy Duration(妊娠日数)という表現をしていますが、これは単純に交尾から出産までの日数という意味で使用されていることにもご留意下さい。
(1)交尾日、出産日、妊娠期間、出産頭数、性別との関係
交尾日    平均妊娠日数 出産平均頭数 性別(オスの確率)
2月11-28日   281日      1.55    50.0%
3月 2-31日    254日     1.80     51.9%
4月 1-30日    237日     1.75     54.3%
5月 8-16日   207日     2.25       55.6%
6月 5-13日   166日     1.50      33.3%
つまり、 「交尾日が遅ければ平均出産頭数が増え雄(オス)の確率が次第に高くなるものの、6月に交尾が行われた場合については雌(メス)の確率が非常に大きくなる。」ということになります。
(2)妊娠期間と平均出産頭数との関係
妊娠期間        平均出産頭数
164 - 233日間     1.88
239 - 256日間     1.76
260 – 294日間     1.64
つまり、「交尾日から出産日までの期間が短ければ短いほど1回の出産頭数は増える。」ということになります。そしてホッキョクグマの最長妊娠日数は294日間、最短妊娠日数は164日間という記録となっているわけです。これはレニングラード動物園と関係の深い日本平動物園の担当獣医さんもこの資料に基づいて採用している日数ですので、信頼性は極めて高いと思います。 日本の動物園関係者の方々が一般的に採用しているのは『動物大百科1 食肉類』、及び『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』という二冊の本に記載されている情報のようですが、そこでは妊娠日数は「195-265日」という日数が記載されているようです。しかし現実にはそれよりももっと広い日数になるということです。AZAの「ホッキョクグマ飼育マニュアル(Polar Bear Care Manual)」でもトゥマノフ氏の研究報告のレニングラード動物園のデータを採用して妊娠期間を「164-294日」という数字にしているのです。日本語の本だけ読んでいてもホッキョクグマのことはわからないという一例がここにあるということです。
(3)1回の出産あたりの出産頭数の確率
1頭出産の確率  -  28%
双子出産の確率  -  68%
三つ子出産の確率 -    4%
つまり、「ホッキョクグマの出産のうち三分の二は双子の出産である。」ということになります。
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バフィンとモモ(2015年3月10日撮影 於 大阪・天王寺動物園)

さて、二年ほど前まで私はこういったデータに基づいて突き詰めた姿勢でホッキョクグマの出産シーズンに臨んでいたわけですが、昨年あたりからは淡々としてニュースを待つという気楽な姿勢に転換しています。今シーズンもそういった肩の凝らない態度でひたすら日本、そして世界のホッキョクグマ界での赤ちゃん誕生のニュースに接していきたいと思っています。要するに、「なるようにしかならない」ということなのです。

(資料)
・"Reproductive trends of captive polar bears in North American zoos: a historical analysis" (2015)
・Reproductive Biology of Captive Polar Bears (by IGOR TUMANOV. Research Institute of Nature Conservation of the Arctic and North, St. Petersburg, Russia)
"Polar Bear Care Manual" (AZA)

(過去関連投稿)
ホッキョクグマ出産統計から見た傾向を再確認する ~ 出産シーズンに向けての知識整理
ホッキョクグマ飼育マニュアル(Care Manual)」よりの考察(5) ~ 赤ちゃんの頭数・性別は事前予測可能か
男鹿水族館のクルミの出産日、出産頭数、性別を過去のデータで予想する ~ 「11月30日前後に雄か雌の一頭」
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アメリカ、デトロイト動物園のベアレ逝く ~ 20歳で初出産に成功したサーカス出身のホッキョクグマの生涯
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北米の過去約100年間の飼育下のホッキョクグマ出産記録が語ること ~ 再び考えるキャンディの今後
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by polarbearmaniac | 2016-11-05 01:00 | Polarbearology

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