街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum
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「犬の頭を優しく撫でるホッキョクグマ」の映像に隠された驚くべき事実 ~ したたかなホッキョクグマたち
案の定、非常におもしろいことになってきました。「カナダ・マニトバ州チャーチル付近で目撃されたハスキー犬の頭を優しく撫でるホッキョクグマ」という投稿でご紹介したシーンについては世界中で多くのメディアも報じているわけですが、このシーンについて「疑義」を述べるカナダの専門家がカナダ放送協会(CBC)のニュースサイトの17日付けの記事 ("Churchill dog killed by polar bear on 'only night' owner didn't put out food") に登場しています。
この映像はチャーチルの住民であるブライアン・ラドゥーン(Brian Ladoon)氏の所有する土地で先週末に撮影されたわけですが、実はこのラドゥーン氏はこの土地("Mile 5 Dog Sanctuary")で、そりを引く犬の繁殖を行っているブリーダーだそうですが、先週一頭のホッキョクグマがここで犬を襲って殺してしまったために自然保護官(Consevation officer)がこのラドゥーン氏の私有地から三頭のホッキョクグマを麻酔銃なども使用して別の場所に移動させるという出来事があったそうです。一頭はチャーチルのホッキョクグマの保護収容施設に送られ、あとの二頭は親子だったそうですが、この二頭もここから追い払うという処置を自然保護官は行ったそうです。その際に自然保護官は実はどうもこのホッキョクグマの親子はラドゥーン氏から食べ物をもらっていたのではないかという疑いを抱いたようです。ラドゥーン氏はCBCの取材に対して、先週のある一夜、たまたま(?)犬たちを鎖につないだままにしてしまい(通常は放して飼育)、そしてたまたま(?)その日はホッキョクグマに食べ物を与えなかった日だったそうで、そのために犬がホッキョクグマに襲われて殺されてしまったのだとラドゥーン氏は語っています。マニトバ州の絶滅危惧種法(Endangered Species Act)では野生のホッキョクグマに食べ物を与えることは禁止されているわけで、ブライアン・ラドゥーン氏はホッキョクグマたちに食べ物を与え(続けてい)たことを認めたわけでした。つまりマニトバ州の絶滅危惧種法(Endangered Species Act)に違反していたことを認めたわけです。さらに非常に慎重で回りくどい言い回しをCBCの記事では行っているわけですが、要するにラドゥーン氏は先週に関する限りは実質的に「ホッキョクグマにエサとして犬を与えた」ということを、たとえ結果としてであれ行ってしまったということになります。
この下の映像は非常に有名な映像ですが、ここに映っているのが今回問題のブライアン・ラドゥーン氏であり、そしてホッキョクグマたちはブライアン・ラドゥーン氏の飼っている犬たちとこういった関係になっていたということなのです。要するに「ホッキョクグマと犬との友好的な関係」を示す映像は、あくまでラドゥーン氏の私有地でラドゥーン氏が飼育している犬たちだけとの関係なのではないかということです。そして、冒頭の映像でもこの下の映像でもラドゥーン氏の私有地では犬たちに対して非常に友好的に見えるホッキョクグマたちにもかかわらず、その場所で先週にホッキョクグマが犬を襲って殺したという事件をどう考えるかということなのです。
(*追記)- おっと、忘れていました。先日ご紹介した下の映像の中でもラドゥーン氏と犬たちは登場していました。開始後9分30秒以降のあたりです。要するにこれは "Polar Bear Tourism" というものの持つ一つの実態でもあるということです
「俺たちに食い物をくれる人の飼っている犬と仲良くしているところを見せてやろうか?」と、したたかなホッキョクグマたちは考えていても不思議でないということなのです。事実ラドゥーン氏は観光客から金をもらってこういうシーンを見せていたこともあったようです。いやはや....私たち人間はホッキョクグマたちに、まんまと一杯食わされたということなのでしょうか。考えてもみれば冒頭の今回の映像のホッキョクグマは野生にもかかわらず非常に栄養状態が良いように見えます。ラドゥーン氏からかなり食べ物をもらっていて、その「お礼」にこういったことを行って人間に見せてくれたのかもしれません。
ホッキョクグマ研究者として世界的にも非常に著名であるカナダ・アルバータ大学のイアン・スターリング(Ian Stirling) 氏は現在世界中で話題になっている冒頭の映像について、こういったことは自然界では起こりえないと語ります。つまりこのシーンには何かそこに人間の存在という要素が介在しているという見方をしています。つまり、これはホッキョクグマが自由意思で自然に行った行動ではないという見方です。そして、ホッキョクグマ、犬、特定の人間というものが「食べ物」を介在として一見は親しそうな関係を作ることは、回り回って他の地域でホッキョクグマが人間のいる場所により接近することに繋がり、そしてそれは人間がホッキョクグマを射殺せねばならない状況を生み出すと、強い危惧の念を示しています。
要するにイアン・スターリング氏は、そもそもホッキョクグマが犬に親愛の情を示すということは自然界では有り得ないと語っているわけです。北極圏においてどういった場合にホッキョクグマが犬と遭遇するかを考えてみると、その犬がそりを引いている犬である場合に限られます。そりの存在は、すなわちそこに人間の存在があるわけです。あるいはホッキョクグマが人間の居住地に出没して犬に遭遇する場合などですが、このケースも「人間」というものの存在は介在しているわけです。
確かに我々が「ホッキョクグマというのは、かくかくしかじかの行動を行う。」という理解はあくまで我々人間が彼らを実際に見て判断しているわけです。なるほどそれは "Je pense, donc je suis."(我思う、ゆえに我あり)という世界と似ているわけです。要するにイアン・スターリングの述べることは、「自然界においてホッキョクグマと犬だけの純粋な遭遇は無い。」ということを言っているのと全く同じであり、何ら変わりはありません。
私はホッキョクグマというのはまだわからない謎の多くある動物であると思っています。ですから果たして本当にホッキョクグマが自分の意思で犬に親愛の情を示すということがないのかについては、まだわからないとしか言いようがないと思っています。今回の件に関して言えば私は。「ホッキョクグマは人間の存在をどこかで意識しつつ、自分たちの都合の良い時だけは犬にも優しく振る舞うこともある。」ということが真実なのではないかと思うのですが......。
(資料)
CBC (Nov.17 2016 - Churchill dog killed by polar bear on 'only night' owner didn't put out food)
Toronto Sun (Nov.17 2016 - Polar bear killed sled dog where cute viral video was shot)
(過去関連投稿)
カナダ・マニトバ州、チャーチルのホッキョクグマ保護収容施設 (俗称 “Polar Bear Jail”) について
餓死したホッキョクグマの写真を掲載した報道記事の波紋 ~ イアン・スターリング氏のコメントをめぐって
カナダ北部、ヌナブト準州の村落近くでホッキョクグマ親子3頭が射殺される ~ 経験と科学の相克
ホッキョクグマと(ハスキー)犬との不思議な関係
カナダ・マニトバ州チャーチル付近で目撃されたハスキー犬の頭を優しく撫でるホッキョクグマ
by polarbearmaniac
| 2016-11-19 00:30
| Polarbearology
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