街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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老齢のホッキョクグマを幼年個体と同居させるとどうなるか? ~ メルセデス、タサル、アンデルマ

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アンデルマ(中央)とユムカ(ミルカ - 左)、セリク(右)
(Старая белая медведица Амдерма, медвежата Юмка и Серик в Пермском зоопарке)

(2015年8月10日撮影 於 ロシア、ペルミ動物園)

先週のアメリカ・ポートランドのオレゴン動物園の31際のタサルの死について振り返ってみたときに、そこに避けて通れないのは、老年となったホッキョクグマ(特に雌 - メス)を幼年・若年個体と同居を想定して直接に対面させてみた場合に何が起きるのかということが一つと、そしてもう一つはそういったことが老年のホッキョクグマに何をもたらすのかということの二点です。今回のタサルのケースと共にこういったことを行った前例について再確認してみたいと思います。

まず最初に、2010年11月にイギリス・スコットランドのハイランド野生公園で行われた故メルセデス(当時29歳)ウォーカー(当時1歳11ヶ月)の初対面の様子です。それを報じるニュース映像です。メルセデス(マーセディス - Mercedes)は今更言うまでもなく白浜のオホトの母ということで日本との関係があるわけです。音声は全てonにして下さい。

メルセデスとウォーカー
Mercedes and Walker meet each other for the first time (Nov.12 2010)

上を見ますとメルセデスは相当に警戒的であり、そして徹底的にウォーカーに攻勢の態度を見せています。年齢から考えても体の大きさがかなり違いますのでウォーカーは終始押されっぱなしという感じです。メルセデスはこの映像の約5か月後に亡くなっています。

次は今回のアメリカのオレゴン動物園における故タサル(当時31歳)とノラ(当時0歳11ヶ月)の初対面の映像です。該当部分から映像がスタートするように設定しておきました。

タサルとノーラ
Tasul and Nora meet each other for the first time (Oct.2016)

上の映像ではやはりタサルは相当に神経質になっており、ノーラへの態度は威嚇的ですらあります。タサルはこの約3週間後に亡くなっています。

次はロシア・ペルミ動物園のアンデルマ(当時33歳。あるいは31歳)とユムカ(当時0歳11ヶ月)、セリク(当時1歳ちょうど)の初対面の映像です。この同居開始はロシアの動物園関係者の中でも非常に話題となるものだったそうです。

アンデルマとユムカ、セリク(1)
Amderma and two cubs meet one another for the first time(1) (Dec.4 2013)

上の映像ではアンデルマは Chuffing こそ行ってはいるものの「おやおや、この子たちはいったい誰なのかい?」とでも言うかのように不思議そうに見ており、態度には余裕が感じられます。それに続くのが下の映像です。

アンデルマとユムカ、セリク(2)
Amderma and two cubs meet one another for the first time(2) (Dec.4 2013)

こういった状況にありがちな老年のホッキョクグマの神経質で威圧的な態度というものは感じられません。さすがにアンデルマはメルセデスやタサルなどとは比較を許さないほど幼年個体に対して寛容的であり態度に余裕があるわけです。こうしてこの三頭の同居は見事に成功したわけでした。

Yumka and Serik, both 2 years old polar bears, lick Amderma's ears, at Perm Zoo (Aug.12 2015)

非常に気が強く生意気なユムカ(ミルカ)、そして野生孤児のセリクの二頭をアンデルマは自分の子供ではないものの「母親役」「祖母役」として完全に掌握してしまったわけです。さすがにアンデルマは別格のホッキョクグマであると言えましょう。 ホッキョクグマは非常に繊細な面を持っている動物であるとよく言われるわけですが、それは故メルセデスや故タサルによく当てはまります。しかし同時にそれは結果として彼女たちの命を縮めてしまったとも言えるわけで、こういった同居は本当は行うべきではなかったのです。このように老年となっているホッキョクグマが「赤の他人(他熊)」の若年・幼年の個体に対して同じ空間において寛容的であるということは通常はあり得ない話です。ですから決してメルセデスやタサルが性格的に問題があったなどとは言えません。しかしアンデルマの場合は例外で、彼女は若い個体から「若さ」というものを自らの体と精神の中に取り込み、そして老年となっていても「若さ」を維持するためにそれを利用していくという驚異的な能力を備えているというわけです。アンデルマが「雲上のホッキョクグマ」であるということはまさしく事実そのものであるということです。

さて、ここで上記の三例とは全く条件の異なる例を御参考までに一つ挙げておきましょう。この例はかつて「ホッキョクグマの母娘の再会で何か起きるのか? ~ セシ、ヴィルマ、ピリカに冷水を浴びせた母親たち」という投稿でも扱ったことがあります。札幌・円山動物園のララ(当時15歳)が、彼女の娘であるピリカ(当時4歳)と三年四か月振りに同居した時のことであり、その母娘の久し振りに対面が実現した瞬間の様子です。ララは当時も現在も老年とは到底言い難い若さであり、上記の三例が全く血の繋がりのない「赤の他人(他熊)」との対眼であったのと比較するとピリカはララの娘であり、そしてララは臭いなどでピリカが自分がかつて育てた娘であることを認識していた形跡があったことなども上記の三例(メルセデス、タサル、アンデルマ)とは全く状況が異なっているわけです。以下、札幌のブロガーさんの映像をお借りすることとします。

Lara and Pirka meet each other for the first time in three years (Jun.6 2010)

この当時すでにララは偉大なホッキョクグマになっていたわけですが、やはり相当に神経質な態度でピリカに接しています。寛容的、友好的とは全く言えない態度です。下は同居五日目の映像ということですが、これはもう全く感心できない情景です。ピリカのいる側の扉が閉められておりピリカは室内に戻れません。一方ララはとにかく不機嫌です。

Lara and Pirka, four days thereafter (Jun.10 2010)

仮にララがこのとき30歳以上であったなら確実に命を縮めていたでしょう。札幌には確か来年新しいホッキョクグマ飼育展示場が完成するはずです。そこには多分、若年あるいは幼年個体が入ることになるはずで、ララとデナリは現在の飼育展示場に留まるということになるはずです。仮に新飼育展示場で若いペアが繁殖に成功したものの何かの理由で人工哺育となった場合とか、あるいはその若いペアが次の繁殖の準備のためにすでにいる幼年個体を引き離すという場合に、その幼年個体の「母親役」「相手役」をララにやらせるというのは避けるべきでしょう。ましてやその時にララが30歳にでもなっていたとしたら、確実にララの命を縮める結果となるはずです。ララがいくら偉大であったとしてもアンデルマのようには絶対に振舞わないだろうということです。

スコットランドのメルセデスの場合はともかくとして、オレゴン動物園のタサルの突然とも言える死は、彼女が31歳にもなっていたにもかかわらずノーラとの同居の試みが実行に移されたことと間違いなく関係があると考えられます。タサルは、それこそあっという間に癌が急スピードで進行し、そして彼女は死に至ったということを疑う余地はほとんどないと私は考えます。こういったことは科学的根拠云々、理屈云々といったことではないと思っています。事例の積み上げで導き出されてくる一種の確信的直観であるというのが正しい言い方でしょう。

(過去関連投稿)
スコットランドでのメルセデスとウォーカーの「初手合い」
アメリカ・オレゴン動物園でノーラとタサルの同居開始準備のため二頭の初対面が行われる
ロシア・ウラル地方、ペルミ動物園でアンデルマとユムカ、そして野生孤児セリクの3頭同居は順調な滑り出し
ロシア・ウラル地方、ペルミ動物園でのアンデルマ、ユムカ、セリクの三頭同居は大きな成果を上げる
ホッキョクグマの母娘の再会で何か起きるのか? ~ セシ、ヴィルマ、ピリカに冷水を浴びせた母親たち
by polarbearmaniac | 2016-11-21 06:00 | Polarbearology

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