街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


by polarbearmaniac

プロフィールを見る

カナダ・コクレーン、「ホッキョクグマ居住村」のイヌクシュク、繁殖の世界での「再登板」はあるか?

a0151913_231424.jpg
イヌクシュク Photo(C)Polar Bear Habitat

カナダ・オンタリオ州コクレーン(Cochrane) の「ホッキョクグマ居住村(Polar Bear Habitat)」に暮らす野生孤児の出身で14歳になる雄のイヌクシュクは、現時点では世界で最も安定性と信頼性のある繁殖能力を備えたホッキョクグマでしょう。それが故に彼はトロント動物園での繁殖プログラムから外されてしまったというのは何とも皮肉は話です。彼の血統の個体が多くなりすぎることを前もって防ごうというのがトロント動物園の意図であったことは間違いありません。タイガ、ガヌーク、ハドソン、ハンフリー、ジュノーと彼の子供たちは5頭なのですが、出産させて誕生した赤ちゃんの頭数はその倍以上であり、たまたま母親が育児放棄したりなどして全部が成育したというわけではないわけですが、5頭とはいっても全体的に頭数の少ないカナダの動物園にあっては「血統上の脅威」ということになってしまったわけです。ここでまず、彼の秋の日の一シーンを見てみましょう。イヌクシュクというのはあまり器用なホッキョクグマではないかもしれません。



このイヌクシュクはこうしてコクレーンの「ホッキョクグマ居住村」でのんびりと暮らしているわけですが、この「ホッキョクグマ居住村」は彼が所属するトロント動物園で雌が出産準備期間に入っている間にイヌクシュクはここに送られて冬を越すといったことが数回あったわけで、彼にとっても住み慣れた第二の故郷のようなものとなっています。欧州や日本のホッキョクグマ界にとっては野生出身で血統上の優位性を持つ彼の力を借りたいところなのですが、いかんせんその彼の出自が野生であるが故にカナダ国外に出すということは事実上極めて難しいこととなります。こういった困難さはロシアの野生出身のホッキョクグマの場合ほどの難しさではないにせよ、彼のカナダ国外への移動は極めて困難なのです。また一つ、今度は雪の中でのイヌクシュクの容器遊びを見てみましょう。



体格が大きく堂々とした姿ではありますが、心のどこかに童心の存在も感じさせる素晴らしいホッキョクグマだと思います。彼が再び繁殖の世界に戻って来ることができるかどうかはわかりませんが、そうあって欲しい気がします。仮に彼に繁殖の世界で再登板があるとすればアメリカのホッキョクグマ界かもしれませんが、現時点ではアメリカは貸し借りも含めてホッキョクグマを自国から出すことも自国に入れることも絶滅危惧種法 (Endangered Species Act) の条項によって一切不可能となっています。アメリカではこれに風穴を開けようとした試みが最近あったわけですが、結局実現しないままの状況です。飼育下のホッキョクグマの集団を維持していくためには北米・欧州・ロシア・日本にまたがる多国間協力体制の構築が不可欠なのですが、そういったことの実現には極めて悲観的な見通ししかありません。
a0151913_3375463.jpg
イヌクシュク Photo(C)Polar Bear Habitat

このイヌクシュクはそういった世界中の飼育下のホッキョクグマが抱えている問題点などは知る由のなく、今後も悠々とこの「ホッキョクグマ居住村」で、のんびりとした暮らしを楽しんでいくのでしょう。

(過去関連投稿)
カナダでの飼育下期待の星、イヌクシュクの物語
カナダ・コクレーン、保護教育生活文化村のイヌクシュク、繁殖への期待を担って再びトロント動物園へ
カナダ・コクレーン、保護教育生活文化村へのイヌクシュクの帰還とEAZAの狙うミラクの欧州域外流出阻止
カナダ・コクレーン、保護教育生活文化村にイヌクシュクが無事帰還 ~ 息子のガヌークの近況
カナダ・オンタリオ州 コクレーンの保護教育生活文化村に暮らすイヌクシュクとガヌークの父子の近況
カナダ・トロント動物園に戻ったイヌクシュクのさらなる挑戦 ~ 優秀な雄の最後の課題は相性の克服
カナダ・トロント動物園のイヌクシュクが繁殖から事実上の「強制引退」か? ~ 同園の大胆な決断
カナダ・トロント動物園のイヌクシュクが無事にコクレーンの「ホッキョクグマ居住村」に到着
カナダ・コクレーン「ホッキョクグマ居住村」のイヌクシュクの近況 ~ 彼の貢献が必要な日本
by polarbearmaniac | 2016-11-26 03:00 | Polarbearology

カテゴリ

全体
Polarbearology
しろくま紀行
異国旅日記
動物園一般
Daily memorabilia
倭国旅日記
しろくまの写真撮影
旅の風景
幻のクーニャ
エッセイ、コラム
街角にて
未分類

最新の記事

ベルィ、謙虚さと「大陸的」な..
at 2017-07-23 05:00
快晴の土曜日、ペンザ動物園で..
at 2017-07-23 03:00
ペルミからモスクワ、そしてペ..
at 2017-07-22 04:30
アンデルマさん、お元気で! ..
at 2017-07-21 03:30
ペルミ動物園訪問六日目 ~ ..
at 2017-07-21 03:00
ユムカ(ミルカ)は果たして今..
at 2017-07-20 03:45
ペルミ動物園訪問五日目 ~ ..
at 2017-07-20 03:30
「アンデルマお婆ちゃん (バ..
at 2017-07-19 03:45
ペルミ動物園訪問四日目 ~ ..
at 2017-07-19 03:30
ロシア・ホッキョクグマ界の若..
at 2017-07-18 03:45

以前の記事

2017年 07月
2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 12月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2013年 06月
2013年 05月
2013年 04月
2013年 03月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 11月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月

検索

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ライフログ


人生と運命 1


スターリン―青春と革命の時代


モスクワは本のゆりかご


私のモスクワ、心の記憶


自壊する帝国 (新潮文庫)


甦るロシア帝国 (文春文庫)


嘘つきアーニャの真っ赤な真実 (角川文庫)


ロシア 春のソナタ、秋のワルツ-1999-21st


それからのエリス いま明らかになる鴎外「舞姫」の面影


ミチコ・タナカ 男たちへの讃歌 (新潮文庫)


わがユダヤ・ドイツ・ポーランド―マルセル・ライヒ=ラニツキ自伝


ベルリン戦争 (朝日選書)


Hof――ベルリンの記憶


カチンの森――ポーランド指導階級の抹殺


北京烈烈―文化大革命とは何であったか (講談社学術文庫)


慟哭の通州――昭和十二年夏の虐殺事件


主題と変奏―ブルーノ・ワルター回想録 (1965年)


藤田嗣治 異邦人の生涯


Barle's Story: One Polar Bear's Amazing Recovery from Life As a Circus Act


Hotel Adlon: Das Berliner Hotel, in dem die grosse Welt zu Gast war


Ein seltsamer Mann


Alma Rose: Vienna to Auschwitz


St Petersburg: A Cultural History


Gulag


The Guest from the Future: Anna Akhmatova and Isaiah Berlin