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街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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ユキ (ca.1984 ~ 2016)、「まぶたの裏」で永遠に記憶されるホッキョクグマ

ユキ (ca.1984 ~ 2016)、「まぶたの裏」で永遠に記憶されるホッキョクグマ_a0151913_21244129.jpg
ユキ (Eisbärin Yuki/Белая медведица Юки)
(2012年6月30日撮影 於 徳山動物園)

先日亡くなった徳山動物園のユキですが、その訃報以来、彼女の生前の姿があまりにも鮮やかに私の記憶に蘇ってくる毎日です。まるで彼女は亡くなってはいないような錯覚に囚われてしまっています。私個人にとってもこれは非常に特異な体験であるように感じます。何故これほどまでに彼女のイメージが鮮やかであるのかについて私は彼女の訃報後に書いた投稿でもそれを述べたつもりでしたが、再度まだ振り返って見てユキというホッキョクグマがどういうホッキョクグマであったかを改めて述べてみたいと思います。
ユキ (ca.1984 ~ 2016)、「まぶたの裏」で永遠に記憶されるホッキョクグマ_a0151913_21245672.jpg
ユキ(2012年6月30日撮影 於 徳山動物園)

例えば、亡くなった故人の記憶が自分にとってどういった形で残るのかを考えてみますと、二つの種類があるように思います。一つは「まぶたの裏の記憶」であり、もう一つは「心の記憶」です。特定の故人の記憶は、このどちらか一方に収斂することになると私は経験上考えています。ユキは前者、つまり「まぶたの裏」で記憶するホッキョクグマであったということです。

ホッキョクグマは、動き回ったり、泳いだり、遊んだり、休んだり、食べたり、あるいは眠ったり、などするわけですが、そうした彼らのいくつもの姿はどこまで統合されて一頭のホッキョクグマの存在として私たちが認識するのかは重要なポイントです。そしてそれらがどこまで統合されて何かの表象と成り得るのかについては彼らに存在している個体差が大きく関係してくると考えます。つまり彼らの「動き回ったり、泳いだり、遊んだり、休んだり、食べたり、あるいは眠ったり...」という姿は、それ自体が私たちの「ホッキョクグマ体験」にとっての「素材」であるということです。これらの「素材」の統合度が小さければ、その個体が亡くなった後では「まぶたの裏で記憶する」ホッキョクグマとなり、統合度が大きければ「心で記憶する」ホッキョクグマとなるわけです。ユキはこの「素材」そのものが実に素晴らしいホッキョクグマでした。ですから、その複数の「素材」を統合させる必要は私たちの側にはないということです。

もう一つ、別の座標軸を考えてみましょう。たとえばピアニスト、そして演奏における関係です。カナダの鬼才ピアニスト、故グレン・グールド(1932 ~ 1982)はこの関係について二つの種類のピアニスト(そして演奏)があると語っています。実に素晴らしい分析だと思います。



要約しますと以下ということになるでしょう。

A.The pianists, who determine to make us aware of their relationship with their instrument, and allow that relationship to become the focus of attention.

B.The pianists, who try to bypass the whole question of performing mechanism to create the illusion of a direct link between themselves and a particular musical score, and help the listener to achieve a sense of involvement with the music itself.

つまりAは実際の音とか演奏技術とかいう「素材」を出発点にし、そしてその関係とにおいて音楽を聴衆に聞かせ、Bは「素材」の表出を回避・迂回して聴衆にイメージを想起させることによって音楽を聴衆に聴かせる......そういったことになるでしょうか。この座標軸でユキを語りますと、彼女は間違いなくAのカテゴリーのホッキョクグマにあたるわけです。ちなみに「ロシア系」のホッキョクグマたち、特に大阪のシルカはBのカテゴリーに入るでしょう。さらに付け加えれば、カテゴリーAのユキの魅力は静止画でも十分に味わうことができますが、カテゴリーBの「ロシア系」のホッキョクグマではそれがやや難しいということです。やはり動画も必要になるということなのです。(*追記 - 実際のピアニストを挙げますと、Aに属するのはヴラディーミル・ホロヴィッツ、アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ、エミール・ギレリス、マウリツィオ・ポリーニといったところで、Bに属するのはアルフレッド・コルトー、エドヴィン・フィッシャー、そして上の映像の後半でグールドが語っているスヴャトスラフ・リヒテルといったところでしょうか。)

同好の何人かの方々が撮影された生前のユキの写真を拝見させていただきましたが、どれも全てユキの魅力を十分に伝えていると思いました。
ユキ (ca.1984 ~ 2016)、「まぶたの裏」で永遠に記憶されるホッキョクグマ_a0151913_21251332.jpg
ユキ(2012年6月30日撮影 於 徳山動物園)

ユキ......実に素晴らしいホッキョクグマでした。

(過去関連投稿)
徳山動物園のユキとヨハネスブルグ動物園の故ギービー(札幌生まれのポロのパートナー)は双子姉妹だった!
周南市・徳山動物園のユキが亡くなる ~ 「永遠の若さ」を抱いて星の彼方へ....
by polarbearmaniac | 2016-12-10 21:30 | Polarbearology

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