街、雲、それからホッキョクグマ ~ Polarbearology & conjectaneum


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デンマーク・コペンハーゲン動物園のボリスがスカンジナヴィア野生動物公園に到着 ~ 繁殖に必要な「非情」

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ボリス(愛称イワン) Photo(C)Zoologisk Have

すでにご紹介していましたがデンマークのコペンハーゲン動物園で飼育されてきた現在11歳の雄のホッキョクグマであるボリス(男鹿水族館の豪太の弟であり、現在はイワンと呼ばれています)がパートナーである13歳のノエル(上野動物園のデアの一番上の姉)との相性が良くないためにペアが解消となり、ボリスは同じデンマークのスカンジナヴィア野生動物公園に移動することになっていたわけですが、昨日1月12日にボリスはコペンハーゲン動物園から無事にスカンジナヴィア野生動物公園に到着したニュースが入ってきました。

まずボリスのコペンハーゲン動物園からの移送作業を見てみましょう。最初の映像は地元TV局のニュース映像、そして二つ目はコペンハーゲン動物園の公式映像です。







ボリスを乗せたバンはその日のうちにスカンジナヴィア野生動物公園に無事到着しました。その搬入の様子を下の映像で見てみましょう。最初に話しているのはスカンジナヴィア野生動物公園のお馴染みのラルセン園長です。このスカンジナヴィア野生動物公園でボリスは現在はまだ4歳である雌のヌノと将来ペアを組んで繁殖に挑戦する予定であることなどを語っています。映像開始後2分あたりからが搬入のシーンです。日本のように外部の運送会社のトラックを使用せず動物園の自家用バンで運送するために基本的に運送料金は生じてこないわけです。



ボリスはかつて一時期このスカンジナヴィア野性動物公園に預けられていた期間がありましたので全くの新しい場所に来たという感じはしないでしょう。ちなみにこの下の映像は2015年2月にボリスが預けられていたスカンジナヴィア野生動物公園からコペンハーゲン動物園に戻るときの映像ですが、やはりコペンハーゲン動物園の同じバンが使用されています。ケージへのボリスの収容も実に巧みでスムーズに行われています。ホッキョクグマ飼育の最先進国のやり方がよくわかるということです。



ボリスの去ったコペンハーゲン動物園にはロシアのイジェフスク動物園から11歳の雄のノルドが来園することになるはずで、このノルドというのは繁殖の実績のあるホッキョクグマでありモスクワ動物園のシモーナの息子でもありますからコペンハーゲン動物園はボリスの代わりとしてノルドという素晴らしいホッキョクグマを導入することとなるわけです。雌のノエルはボリスを全く相手にしないという態度をとっていたそうですが、今度は繁殖能力があるだけでなく、しかも非常に能力的にも優れた雄であるノルドの来園によって今度は雌であるノエルの繁殖能力に有無が問題となるわけです。13歳のノエルにとっても後には引けない状況になってきたというわけです。仮に今後もノエルに出産がなかったとすれば、それはすなわちノエルの繁殖能力云々の問題に直結してくる話になるからです。

コペンハーゲン動物園はボリスとノエルのペアが繁殖可能な年齢となってから約5~6年間の間でもノエルに出産が全くないといった状態が続いたために(二頭の相性が良くないからだという理由は一つの方便でしょう)、容赦なくペアを解消して雄(オス)のボリスを他園に移動させ、そしてロシアから繁殖実績のある雄を導入するといった手段に出たわけです。日本でしたらこれほどのことはやらないでしょうし、やれないでしょう。「繁殖などせずともよいから元気で末長くお幸せに!」と言いつつ現在を生きる私たち日本のホッキョクグマファンはせっせと動物園でホッキョクグマたちの写真を撮影し続け、そしてやがてホッキョクグマたちは年齢を重ね、しまいには日本の動物園から消えていくというわけです。それが私たち日本人が無意識的に行っている選択なのです。ところが欧州では全く別の選択を、それも非常に意識的に行っているようです。ホッキョクグマたちに時としては「非情」とも言える姿勢や態度をとるものの、彼らを何とか次世代、次々世代へと後の世代に向けて存在させ続けていこうという意識的な選択であると言えましょう。

それにしてもよくぞコペンハーゲン動物園はロシアから繁殖成功の実績のあるノルドをロシアから導入することに成功したものです。こういったことでノルドを導入することに成功するくらいならば、日本の動物園が先手を打ってノルドの日本への導入を図ることもできたかもしれません。「繁殖成功実績のある雄(オス)」というのは貴重なのです。モスクワ動物園が野生出身のアイオンとシモーナの娘であるミラーナとのペアの繁殖を目指さずアイオンをイジェフスク動物園に移動させ、やはり野生出身であるドゥムカとシモーナの息子であるノルドのペアを解消させてアイオンをドゥムカとくっつけて野生出身同士のペアにするなど、つまりモスクワ動物園がロシア国内に野生個体同士のペアによる「新血統」を誕生させようという意図があることを知っていたからこそコペンハーゲン動物園は、はみ出してしまったノルドを入手してボリスとすげ替えようとしたのでしょう。実に凄いと思います。ロシアのホッキョクグマ界がどういった方向に向かおうとしているかをEAZAのコーディネーターとコペンハーゲン動物園は知っていたということを意味するわけです。そしてモスクワ動物園は自己の所有するイジェフスク動物園のノルドをロシア国外に出す条件としてノルドのパートナーとなりうる同年代のホッキョクグマを飼育している動物園以外にはノルドを引き渡すことはしないというここ数年の原則に従いつつ、ノエルを飼育しているコペンハーゲン動物園にノルドを引き渡すということになるわけです。決して自慢して書くわけではありませんがロシアのホッキョクグマ界の方向性は、ここ数か月間にわたって私が読み解いてここで投稿してきたことはやはり正しかったということになるわけです。

さて、次からが私の「問題発言」です。旭山動物園が繁殖成功実績のあるノルドを入手してイワンとすげ替えたり、ズーラシアがノルドを入手してジャンブイとすげ替えるといったことができれば、日本のホッキョクグマ界には少しばかり光が射してきたはずです。BL契約ではあるものの、旭山動物園にはノルドと年齢の近いピリカ、ズーラシアにはツヨシが飼育されているわけです。非情に徹してイワンやジャンブイを、コペンハーゲン動物園がボリスに対して行ったような形で日本国内の他園に放出するというやり方です。しかしまあそういった発想の実現は日本では反対意見が出てきて不可能だろうと思います。

(資料)
TV2 (Jan.13 2017 - Isbjørnen Ivan flytter til Jylland efter skilsmisse)

(過去関連投稿)
デンマーク ・ コペンハーゲン動物園の新施設 “Den Arktiske Ring” の完成 ~ 期待される若年ペアの繁殖
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デンマーク・コペンハーゲン動物園のボリスがスカンジナヴィア野生動物公園へ
by polarbearmaniac | 2017-01-13 07:00 | Polarbearology

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